世界史の極意

NHK出版新書

佐藤優

2015年1月31日

NHK出版

858円(税込)

人文・思想・社会 / 新書

ウクライナ危機、イスラム国、スコットランド問題…世界はどこに向かうのか?戦争の時代は繰り返されるのか?「資本主義と帝国主義」「ナショナリズム」「キリスト教とイスラム」の3つのテーマを立て、現在の世界を読み解くうえで必須の歴史的出来事を厳選、明快に解説!激動の国際情勢を見通すための世界史のレッスン。

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Readeeユーザー

歴史は未来予測のためのツール

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4.2 2021年01月07日

【本の目標】歴史を過去との類比によって捉える力を磨く。最終目標は「戦争を回避する」こと。 (学校の勉強としての世界史の極意ではありません) 【結論】現在は「新帝国主義」であり、第1次世界大戦の前状況に近づいている。 私たちは「複数の歴史」があることを認識し、「見えない世界」へのセンスを磨く必要がある。 【概要】 ① (過去) 資本主義が進むと国家と結び付き、金融資本が牛耳るようになる。蓄えられた金融資本は外国へ投資され、多国籍企業が生まれる。こうして経済的な強国が弱国を植民地的支配をしていく。帝国主義が生まれる。 帝国主義間の対立は世界大戦へ帰結する。 ①'(現在) ソ連(共産主義)崩壊により資本主義のブレーキがなくなった。資本主義が加速し、格差も拡大している中で新帝国主義が生まれている。 中国やアメリカなどの国際的強者の対立が始まっている。 ②(過去) 百年戦争などにより中央集権が進む中で宗教改革が起こり、宗教より国家への帰属意識が強くなった。さらに、フランス革命とナポレオンによりナショナリズムによって強くなったフランスを各国が目の当たりにした。 国民国家は帝国主義下で国家の強化や格差で生まれた精神的な空白を埋めるためにナショナリズムを利用した。 ナショナリズムによる民族的対立が第1次世界大戦のバルカン半島の火種や昨今のウクライナ問題などへ繋がっている。 ②'新帝国主義の基でアメリカが持つ合理主義が台頭している。そのため、格差の中で精神的な空白が生まれ、スコットランドやアイルランド、ウクライナ、沖縄など民族意識が高揚に端を発する問題が増えている。 一方でISなどイスラム過激派は精神的な空白を宗教的に乗り越えようとして原理主義のばらまきを行っている。 これらの問題はバルカン半島のように火種として各地で燻ることになる。 【どうしていく?】 日本としてはイギリスのように世界は多視点から見る必要があり、世界史は複数あることを徹底的に教えていく必要がある。 【その他】 恐慌が起こるサイクル(著者的に有力な説) ①モノが売れる ②労働力が求められる ③賃金が上昇 ④人件費が利益を圧迫 ⑤恐慌が起きる ⑥イノベーションで回復する イスラム過激派の正体 ①イスラム教は大きくスンニ派とシーア派がある ②スンニ派の中にハンバリー学派がある ③ハンバリー学派の中にワッハーブ派がある ④イスラム過激派は全てワッハーブ派である つまり、イスラム過激派は極一部の小さな派閥にすぎない。それをイスラムやスンニ派のような大きなくくりで危険であるかのように扱ってはいけない。 マルクスの考える資本主義では賃金は三つの要素から決まると考える。 ①労働者が生活する費用 ②労働者が家族を養う費用   ③労働者が自分を教育する費用 会社の利益に対して①~③以上の物は払う必要性がない。 サラリーマンの給料はなかなかあがらず、資本家が利益の分配を受けてさらに儲かる。 投資家が資本主義のルールの中ではどうしても強くなる。

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Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月21日

本書は、佐藤優が複雑でどこに向かっているのか判断しかねる「世界のいま」を読み解くという困難な課題に挑戦した書です。その際に佐藤が設定した視点は資本主義、民族問題、宗教紛争の3点です。この3本の道筋から、いまの世界がどうなっているかを解き明かしていきます。その際に強力な武器となるのが、アナロジー(類比)です。 世界史を通してアナロジー的思考で現在を見れば、不明瞭な部分も見えてくる、これが「極意」だと言うんですね。 著者によれば現在は新帝国主義の時代だと言います。資本主義が重商主義→自由主義→帝国主義→国家独占資本主義→新自由主義と変遷したのは自明です。それでは、かつての帝国主義と新帝国主義とは、どこに違いがあるのでしょうか。ともに他者から搾取と収奪を繰り返す本質と行動様式は同じですが、新帝国主義は植民地を求めませんし、全面戦争は避ける傾向にあります。ここから何が起こるかといえば、国家機能の強化です。それはグローバル化とともに訪れます。先進国の国内では格差が拡大し、賃金も下がっていきます。それは社会不安につながります。国内で社会不安が増大する時、国家は国家機能を強化します。その意味で、グローバル化の果てに訪れる帝国主義の時代に、国家機能が強化されるのは必然と言えるでしょう。 富や権力の偏在がもたらす社会不安や精神の空洞化は、社会的な紐帯を解体し、個人の孤立化をもたらします。そこで国家は、ナショナリズムによって人々の統合を図ることになります。それと同時に、帝国内の少数民族は、程度の差こそあれ民族自立へと動き出します。上からの公定ナショナリズムや排外主義的なナショナリズムで人々が動員される一方、現代ではスコットランドや沖縄に見るように、国民よりももっと下位のネイション、つまりもっと小さな民族に主権を持たせることで危機を乗り越えようと言う動きが出てくるのです。 一方、これとは対照的に国民国家の危機をグローバルな理念で乗り越えようとする動きも出てきます。それが宗教的な理念です。キリスト教でもイスラムでも、社会の危機に対して、復古主義・原理主義的な運動が起こり、地域や領土を超えて拡散して行く点では共通しています。 以上、駆け足で本書の内容を紹介しましたが、冒頭で述べたように佐藤優は本書で「世界のいま」を明らかにする事に成功したでしょうか。僕にはこの点で多少の不満が残ります。確かに本書の記述には、読者を唸らせるところが多々あります。しかし、最後の最後のところが、なんだか靄がかかっているように見えない部分があるんです。これは多分著者の人間観に由来しているのではないかと思われます。人間や人間がやる事は、明快に説明がつく事ばかりではなく、目に見えない部分の方がじつは大事と考えているようです。その一方で、戦争や殺し合いのない世界を作り出すには、人間の知性に期待するよりないとも述べています。なんだか矛盾しているようにも思えますが、人間そのものが矛盾した存在ですので、それもアリですかね。

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