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(無題)
まえがきを読んだ段階で疑問が湧いてきて、考え込んでしまいました。それは「どうしてこんなに読みずらいのだろうか」との思いでした。多分、本書が横組みである事と無関係では無いと思われます。しかし、私たちの身の回りにある横組みの文章は、ありふれており。現に今僕が書いているレビューだって横組みです。ネット環境下では、むしろ縦組みの文章を見つけることの方が困難です。では、僕が感じた読みずらさや違和感の正体は何だったのでしょうか。どうやらそれは、一行あたりの文字数が多いことに原因があるように思われました。パッと見た時に視野に収まる文字数であれば、人は生理的に違和感を覚えませんが、視線を左右に動かさなければならない程一行あたりの文字数が多いと、読みずらいと意識するようです。 横組みの利点の第一は、欧文や数式を容易に取り込めるところにあります。このため、学術論文では、横組みが一般的です。本書を執筆した先生方や版元の東大出版会の環境では、横組みが常識なのかも知れませんが、せっかく『「はじまり」を探る』と柔らかな書名を付けて一般読者の興味を誘おうとしても、この組版では企画の段階でその意図は既に破綻していると言えます。 さて、本書は総合研究大学院大学25周年を記念して開催された「はじまり」シンポジウムの内容を一書に纏めたものです。このシンポジウムで「私たちは何処より来りて、何処へ行くのか」との誰もが抱くオーソドックスで永遠の謎に果敢に挑戦しました。ですから、本書の内容は現時点における人類の叡智の到達点とも言えます。「はじまり」と言われれば、誰しもがビッグバンと人間の祖先、そして文化の起源を思い浮かべますね。本書はこれらに多角的に迫った書と言えましょう。 もう少し内容を具体的に紹介しますね。第1章 すべての「はじまり」――ビッグバン、第2章 形の世界の「はじまり」――質量の起源、第3章 生命の「はじまり」への条件――ハビタブル惑星の誕生、第4章 生命の「はじまり」――化学進化、第5章 ゲノムの働きと起源と学際的な研究、第6章 ヒトの「はじまり」、第7章 世界の家畜飼養の起源――ブタ遊牧からの視点、第8章 古代アンデスにおける神殿の「はじまり」――モノをつくりモノに縛られる人々、第9章 日本における農耕の起源、第10章 複雑性と科学――考え方・進め方、第11章 人間-自然相互作用の「はじまり」を考える、第12章 「言語と感情のはじまり」におけるコミュニケーションの役割、終章 「はじまり」の多様性と普遍性、となっています。 通読して思うことは、自然科学の分野は殆ど理解できなかったというのが正直なところですね。それでも、第1章で佐藤勝彦が「宇宙論の研究、特に観測的宇宙論の研究分野はすばらしい時代を迎えている。観測は物理学の理論を駆使した成果とほぼ見事に一致している。アインシュタインの相対論から約100年で、我々の住む世界、宇宙の基本的な進化・構造を知ることができたと言えるんではないだろうか」と述べているのが印象的でした。人間の英智、可能性は素晴らしいとの思いを新たにしたものでした。
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