ゲームの王国 上

以前読んだことがあり、再読。 以前も無茶苦茶面白いと思ったが、再読しても最高だった。小川哲は天才である。 また、日本SF大賞の受賞作は傑作が多い。 もちろん好みはあると思うのだが、多くの人に読んで欲しい。それくらいの傑作。 話自体は、結構な頻度で地獄が顔を出す話で、初っ端から理不尽な逮捕や拷問、殺人があったりする（クメール・ルージュ前後の話だから・・・）。それにも関わらず阿呆さが顔を見せて笑ってしまうところがすごい。 例えばヒロインであるソリヤの養父が拷問を受けて殺される場面。何日も酷い拷問を受けた養父は意識がもうろうとして、尋問に「僕は子どもの頃、歌手になるのが夢でしたが、妻は僕の歌が下手だと言いました。神は僕に歌の才能を授けなかった」ともはや尋問と関係ない思い出を口にしてしまうのだが、書記官が「神は彼に歌の才能を授けなかった」とか速記して怒られてるところ。 阿呆かよ（笑） 例えば、オンカーのスパイである秘密警察官ソムの父が、「世の中には三種類の人間しかいない。農民か、女か、ベトナム人だ」と超論理を唱え、ソムが警察官になると、「俺はベトナム人を育てた覚えはない」と怒り出すところ。どんなロジックだよ（笑）。 それだけではなく、上巻最後の方、ムイタックが過去のことを思い出す場面なども痛切。 絶望的な状況に追い込まれたムイタックは家族のことを思い出すが、それは本当にどうでも良い、家にあったカーテン（仕切り）の色や、母が水を運ぶ場面、シャツのシミを落とそうとして父に怒られた記憶などどうでも良いことばかり。 それが美しいとか大切とかも思わないし、ガラクタの記憶だと思っているのに、普段は超冷静なムイタックが涙を出しそうになってしまうとか、胸に迫る。 と言うことで、とにかく傑作です。 是非ご一読を。

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カンボジア内戦という馴染みのないテーマにだったが、読み始めるとスラスラと読めた。 知性と理性でゲームのルールを紡ぎだすが、束縛の主従がルールへの重力となり、絡み合った社会は革命による破壊でしか解放の術を見出せない。 残酷な理論がまかり通って、私たちがあたりまえだと思っている倫理観がなんの意味も持たない世界がかつて現実に存在したものだというのが恐ろしい。 拷問の描写がかなりきつい。

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