按針【あんじん】

本作は、ウィリアム・アダムズ（和名:三浦按針）の半生を描いた作品。 イギリスの平民として生まれたアダムズは、一攫千金を夢見て、妻メアリーの「往かないで」という懇願も聞かずに、オランダ商船に乗り海を渡る。壮絶な航海の末に、ぼろぼろの状態でたどり着いた国は、日本豊後。 当時、オランダ・イギリスと敵対していたスペインやポルトガルの宣教師が布教活動を行い、それらの国の影響力が強かった日本。着いて早々、宣教師の嫌がらせを受ける。 しかし、そんな境遇の彼らを、軍事的な目線から、そしてその後の夢のため、救った（もしくは利用した）のが、太閤秀吉が没し、関ヶ原の戦いを一年前に控えた徳川家康であった。 アダムスは、慣れない日本の環境・文化に戸惑いながらも、少しずつ日本の生活に慣れてゆく。家康からは、外国の情勢を文化を技術を知るものとして重宝され、徐々に幕府体制の中でも重用されてゆく。そして、家康によるアダムスの日本縛り付け作戦の一環として、彼は日本で妻を娶り、旗本として250石の知行まで与えられる。日本での生活基盤が少しずつ恵まながら固まってゆくが、彼は本国イギリスに置いてきた妻メアリーと子供たちが忘れられなかった。 日本到着直後の先の見えない生活、日本での生活が固まって来てからの仲間割れ、日本人妻とのいざこざ、隣国宣教師の嫌がらせ、10年ぶりにあった本国のものとこ確執、そして何よりも本国に残した妻と子供達。 そんな生活の中で、彼は日本に残り、家康の夢「この世から戦を無くすことぞ。286」の実現のため、日本人として生きてゆくことを決めた。 父の口癖「人の価値は地位でも金でもない。自分の夢に向かって挑戦できたか、どうか。」を胸に、東の果てで日本という国にたどり着き、家康という共感できる夢を持った王に出会った。 元はより金銭的に楽な暮らしがしたい。それだけを思って旅に出たアダムスが日本にたどり着き、見つけた按針の使命は、 「海外との交易の道筋をつけ、磐石にしていくこと。474」であった。 按針という名を、そして世界平和の夢を与えた家康が亡くなった後も 彼は"日本の侍"として生きた。地球の裏側にいるもう会えないと分かっている妻と子供達を最期まで思い続けながら。 「いや、この平戸がいい。平戸は故郷ジリンガムに似た、優しい海風が吹く街だ。私は風を読んできた航海士であり、水先案内人だ。今度は海風となって、この日本を護っていく。海風は世界を覆っている。君たちの様子も世界の成り行きも、風となって見ているよ。棺には、ウィリアム・アダムスの名とともに、三浦按針の名も刻んでくれ、頼む。私は二人で一人だ。491」 今から約400年前。途方もない時間をかけて、命からがら日本にたどり着き、故郷を思い続けながら、日本にその後半生を捧げた誇り高き"日本の"侍の物語。

非表示