暗殺者の追跡 上
ハヤカワ文庫NV
マーク・グリーニー / 伏見 威蕃
2019年8月20日
早川書房
968円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
“グレイマン(人目につかない男)”と呼ばれる凄腕の暗殺者ジェントリー。彼の乗るジェット機がイギリスの空港で襲撃され、CIAが捕らえた銀行家が連れ去られた。CIAに依頼され、グレイマンは銀行家を追う。一方、アメリカでは、元SVR(ロシア対外情報庁)将校のゾーヤが保護されている秘密施設が襲撃を受けた。ある目的のため、彼女はこの機に逃走する。やがてふたつの襲撃事件が関連していることが明らかになるが…。
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(無題)
当代最高のアクション・シリーズの一つ。簡単に言うと小説版ゴルゴ13。元々は軍の特殊部隊出身でCIAの秘密部隊のエースだった主人公。グレイマンと渾名されるとおり至って目立たない男なのだけど戦闘力は凄まじい。元々は古巣のCIAから身に覚えなく「見つかり次第射殺」という扱いを受け殺し屋をしながら世界中を逃げ回っていたのだけれど、陰謀を暴き古巣との関係が改善されて、今はCIAの外注工作員として活動しているという設定。今回は情報漏洩対応のためアメリカに呼び戻される途中でCIAの専用機にたまたま乗り合わせた囚人が謎の集団に攫われたため急遽そちらを追うことになり、一方で何作か前に登場した元ロシア対外情報庁の女性将校はCIAの保護を受けていたがあるきっかけで逃亡しておりやがて二人は一緒に巨大な陰謀に立ち向かう、という話。主人公の立場を大きく変えることでシリーズのマンネリ化をうまく避けた感じ。息もつかせぬアクションとはこういう作品のことで最後は主人公たちが勝つと分かっていても続きが気になって一気に読んでしまう。こういう作品では往々にして主人公がスーパーマン過ぎて荒唐無稽になりがちなのだが主人公を適度にコテンパンにさせたり愚痴らせたりさせることでそのあたりも巧みに避けている。出世主義者で主人公たち工作員を毛嫌いしているにも関わらずいやいやCIA側の窓口をさせられている女性幹部もいい味を出していて本来殺伐とした物語にいいアクセントをつけている。やはり巧い作家。次作も楽しみでならない。
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