異国のおじさんを伴う
森 絵都
2011年10月18日
文藝春秋
1,375円(税込)
小説・エッセイ
思わぬ幸せも、不意の落とし穴もこの道の先に待っている。どこから読んでも、何度でも、豊かに広がる10の物語。誰もが迎える、人生の特別な一瞬を、鮮やかにとらえる森絵都ワールド。
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(無題)
この作家とは初めて出会った。直木賞作家とのこと。今まで読もうと思わなかったのは何故なのだろう。あ、違った単純に知らなかったのだ。とにかく、不思議な雰囲気を持つ作家である。表紙写真には空港で見かけるカートにスーツケースと大きな熊のぬいぐるみがあしらわれている。そして、欄外にTravelling with a Strangerとある。見知らぬ人と旅行する、との意味であろう。和名「異国のおじさんを伴う」と併せて考えると、ボンヤリと本書の描く世界が浮かび上がってくる。 本書は1つのテーマを持った短編集である。それは異邦人、あるいは別世界に触れ、その世界に入って行く人の未来が暗示的に描かれている。同じ空間を共有して日常を過ごしていても、異邦人に映る人はいる。例えば第1話の藤巻さんは、美人で気が利くのだが、社会人としてとんでもない欠点を抱えていた。それ故に心に深い闇を隠していたのだ。主人公の僕は、その闇を引き受けて藤巻さんと共に歩む事を決意する。パートナーの思いもしなかった一面に触れて愕然とする話としては、「クジラ見」の主人公がいる。二人の結婚生活は新婦・鈴ペースで運ぶことが予感される。もはや新婚旅行から新夫のウンザリ感が伺える。衝撃的な愛が繰り広げられ異世界としては、「クリスマスイヴを三日後に控えた日曜の…」に登場する伊勢丹でプラダの靴を買う83歳の老女である。還暦の男性と傘寿を過ぎた女性の愛とは、どのようなものであろうか。異邦人、文字通り外国人との間にある違和感を扱ったのが「ラストシーン」と「桂川里香子、危機一髪」である。外国人との文化の違いに好意的なのが前者で、後者は日本人の感性を全面的に肯定している。「母の北上」には老齢期を迎えた母と息子の感情のすれ違いが描かれている。その先にある介護が予感されるが、さらりと暖かく描かれているのが救いだ。 そして、本書の表題作「異国のおじさんを伴う」。これは、今までの作品が全て予感で終わっていたのに対して、意を決して異世界に敢然と飛び込む物語である。自分にはなじまいが、世間では当然とされる世界、それに違和感を感じるが、結局なんとか折り合いを付けざるを得ない。それが生きると言うことである。この作品の主人公が選び出したのは、現実の人間をパートナーとするものではなく、人形がパートナーの人工的世界であった。無機質で透明な肌触り、そこにこの作家の独自の世界が感じられる。
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