税金を払わない巨大企業
文春新書
富岡 幸雄
2014年9月19日
文藝春秋
770円(税込)
ビジネス・経済・就職 / 新書
日本の法人税は本当に高いのか?公開されている企業情報、直接取材によって明らかになったのは、驚くべき税負担の軽さ。巨大企業が正しく納税すれば、法人税減税も、消費増税も必要ない!
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(無題)
2013年3月期の三井住友フィナンシャルグループの税引前純利益が1479億8500万円で納税額300万円、ソフトバンクが同じく788億8500万円で500万円。こういう数字を突きつけられては、えー、ホント?、そんなのアリ!と思わずのけぞってしまいます。本書では、法人税納付額➗利益相当額が低い大企業35社を実名を挙げて掲載しています。35位の三井住友銀行が31.52%ですから、法人税の実効税率を引下げる必要など全くありませんよね。安倍さん何言ってるでしょうかね。 それにしても、ソフトバンクの実効税負担率が0.06%、ファーストリテイリング6.91%、みずほ銀行8.63%など、びっくりしてしまいます。これ、脱税しているのではありませんよ。合法的な節税の結果なんです。どうして大企業はこれほどまでに税金を払わずに済んでいるのか、誰しもが疑問に思いますよね。 これに対して本書では、企業優遇税制と言われる租税特別措置による政策減税を筆頭に、九つの対策を取り上げてその方法を詳しく解説しています。「受取配当金益金不算入制度」がその一つです。この制度は、内国法人が他の内国法人から配当等を受けた場合、それが子会社や関係会社の株式等に関わる配当金であれば100%課税所得から除外され、子会社や関係会社以外の場合であればその50%が課税所得から除外される、というものです。この措置の根拠はいわゆる持株会社は傘下の企業が納税後に配当しているのだから、配当に課税すれば二重課税になってしまうというわけです。著者はそれでも敢えて課税すべきとの立場です。僕も著者に賛成ですね。むき出しの資本主義が、暴力的になって暴走するのは歴史にみる通りです。これをコントロールできるのは政治の力しかないからです。何れにしても、我が国の貿易収支が赤字に転落したにも関わらず国際収支は黒字の現状を見ると、配当所得の大きさに見当がつきます。しっかりと議論すべき点ですね。 それに加え、課税所得を少なくする企業会計の操作や内部留保を増やしたり、タックス・イロージョンとタックス・シェルターの悪用、租税特別措置法による優遇税制の利用など節税方法は多岐にわたります。大企業の経理担当者は税制の隙間を鵜の目鷹の目で探しているんですね。 これでいいんですかね。大企業のサラリーマンにしても経営者にしても、競争を勝ち抜いてきたエリートですよね。エリートが自分の利益ばかり求める社会なんて、世も末ですね。階級社会のヨーロッパだってノーブレスオブリージュの精神は今でも生きていますよ。原則的には資本主義の社会で企業が利益の最大化を追うのは当然の行為です。そして、しっかり稼いだ企業は利益に見合った税金を納めて社会貢献する、こんな考え方が時代遅れになりつつあります。 大企業が法人税の納付の最小化を望む今の風潮の背景には、企業のグローバル化が影を落としているのだと思います。短期間で大きな利益を得ようとするアメリカ型資本主義が主流になっているんですね。財政の健全化と福祉財源の確保が現時点における我が国の最も大事な政策だと考える大部分の国民は、その実現のためには消費税率の引き上げも止むなし、と負担増を引き受ける覚悟をしています。税制の基本は公平にあります。日本の大企業が恥ずかしげもなく税負担を逃れ社会正義に背を向ける姿は、僕には日本国民全体を劣化に導く教師役を果たしているように思えて仕方がありません。
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