
秘密
文春文庫
東野 圭吾
2001年5月31日
文藝春秋
836円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった。映画「秘密」の原作であり、98年度のベストミステリーとして話題をさらった長篇、ついに文庫化。
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(無題)
広末涼子主演で映画にもなったので、ご存知の方も多いことだろう。 東野圭吾を読みはじめて数ヶ月たつが、実は「秘密」を読むのを避けていた。設定がちょっとばかりキワモノっぽかったからだ。 主人公の平介は平凡なサラリーマン。妻と小学生の娘の三人暮らしだ。 ある日妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落し、二人は重傷を負う。 病院に駆けつけた平介の手を握りながら、妻は息を引き取る。そのまま病室の床に崩れ落ちる平介...。 しばらくして、植物状態と思われた娘の藻奈美が奇跡的に覚醒する。 歓喜。だが、覚醒してから数日間一言もしゃべらなかった彼女は、ある日平介にだけ打ち明ける。 ねえ、わからない? あたし、藻奈美じゃないのよ。 それは娘ではなく、妻の直子だった...。 真実を話しても誰にも理解してもらえないと考えた平介と直子は、対外的には直子を藻奈美として押し通すことに決める(外見はどう見ても小学生の女の子なのだから、それ以外に方法はなかったのだが)。 娘を失った悲しみと妻が戻ってきた喜び。 作者が描き出すそれからの毎日は、むしろコミカルでさえある。 藻奈美の振りをして小学校に通う直子。だが、つい同級生の男の子に「ちょっと見ない間に大きくなったわねぇ」などと言ってしまう。 平介に至っては、「藻奈美が」と言うべきところを「直子が」と言ってしまって、相手に怪訝な顔をされる失敗の連続だ。 それは奇妙な日々だった。 傍目には小学生の娘と父親の二人暮らしだが、実際には娘を亡くした夫婦が暮らしているのだ。 平介はつぶやく。 俺はいったい娘と妻のどちらを失ったのだろう 奇妙ななりにその生活はいつまでも続くかと思われた。 だが、歳月が流れ直子が中学に入り、やがて高校に進むようになると、直子には彼女なりのつきあいが生まれ、また彼女なりの世界が出来上がってくる。 娘に電話を掛けてくる男のことはどんな父親でも気になって仕方がないものだが、平介の場合それは深刻だ。 娘の姿をした妻を抱くことはできず、かと言ってこのまま彼の手を離れてどこかへ行ってしまうかも知れないという不安が彼を捉えて離さない。 いくつかの事件を経て、ある日決定的に衝突した平介と直子は、やがてそれぞれにそれぞれの決心をする。 そんな時、不意に藻奈美が戻ってくるのだ。 ある朝目覚めた直子は、直子ではなく藻奈美だった。 事故から5年がたっていた。その間藻奈美はずっと眠っていたのだ。 次に目覚めた時藻奈美はまた直子に戻っていたが、それ以来藻奈美と直子は交互に現れるようになる。 お互いに起きている間の出来事を事細かにメモっておくことで、直子と藻奈美は奇妙な共同生活を送るようになる。 三人で同時に過ごすことはできないとは言え、妻も娘も亡くしたと思っていた平介にとって、また三人の生活が戻ってきたことがうれしくないはずがなかった。 だがそんな日々も長くは続かない。直子の現れる時間がだんだん短くなりはじめたのだ...。 ありえない話だと言ってしまえばそれまでだが、B級すれすれのこの題材を、作者は見事に身につまされる話に仕上げている。 夫は夫なりに妻のことを思い、妻は妻なりに夫のことを思う。そこにはしょせん別人格であるが故のすれちがいも多いのだが、そのずれ加減がまたストーリーの中では愛おしい。 たぶん東野圭吾はどこにでもいる平凡な人々の平凡な心情を描くのがうまいのだろう。それは平凡であるかも知れないが、だからこそ普遍的であって人の心を打つ。 ミステリー作家らしく、最後にはきっちりとどんでん返しも用意されている。しかし、それが決して奇をてらったものにならず、心に深く染み入るラストシーンとなっているところはさすが東野圭吾と言う他ない。 そのラストシーンが「秘密」というタイトルのこれ以上ないほど絶妙な種明かしになっている、読み終えて本を置いたときそのことに気づくならば、味わいはまたさらに深いものになるだろう。
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manmaru1115
このやさしくて苦しい秘密にあなたはどんな涙を流しますか?
【セツナクて苦しくてどんなに考えてもこの胸にある感情を言葉には出来なかった】 はたして、これを超える作品に出会うことは出来るのか。
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