ラ・ミッション 軍事顧問ブリュネ
文春文庫
佐藤 賢一
2017年12月5日
文藝春秋
1,089円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
フランス陸軍士官のジュール・ブリュネは軍事顧問として来日し、伝習隊の指導にあたっていた。大政奉還が行われ幕府の終焉とともにブリュネらも解任されるが、日本人の士道に感じ入った彼は母国の方針に反旗を翻し、土方歳三らとともに戊辰戦争に身を投じる。「ラストサムライ」のモデルを描いた感動大作。
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(無題)
明治維新を思い浮かべるときに、司馬遼太郎の影響が大きい事を改めて実感したものだった。我が国初の革命を実現しようと青雲の志に満ちた若者群と前途洋々とした明るい未来が待ち受ける明治という時代、そんなふうに単純化しては、歴史を見誤る事になるのであろう。本書は鳥羽伏見の戦いから箱館戦争までの戊辰の役をフランス人の視点から眺めたものである。戊辰戦争という内戦では、フランスが幕府を、そしてイギリスが薩長を支援していた。19世紀欧州列強がアジア権益に触手を伸ばし、あわよくば半植民地化の欲望を露わにしていた時代であった。結果として戊辰戦争が早期に終結したため、欧米列強による内政干渉や武力介入は避けられた。 ナポレオン三世は徳川幕府からの要請を受け、軍事顧問団を日本に派遣した。シャノワーヌ大尉を団長とする一行15名の軍事顧問団は幕府陸軍の近代化に貢献したのだった。本書の主人公、ジュール・ブリュネは、軍事顧問団の副団長として来日し、フランス軍事顧問団解散後も個人として日本に留まり、戊辰戦争の最終局面、箱館・五稜郭の戦いを榎本武揚や土方歳三らと共に戦ったのである。ブリュネが戦闘に加わった箱館戦争時点では、既に天皇政府と徳川政府との覇権争いには決着がついていた。それでは、負けが明らかな戦いにブリュネが我が身を投じたのは何故であろうか。 幕臣・榎本武揚や新選組副長・土方歳三らとの交流の中から、 日本人の精神性にフランス人気質に相通じるものを見出したからであった。熱血漢ブリュネは、 母国での輝かしい未来を投げ出して敗軍に身を投じたのだった。なお、土方をイジカタさんと呼んだりアコダテ、ヨコアマと表記してフランス人がHを発音できないことを文中にちりばめているのもご愛嬌だ。
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