
奸闘の緒
お髷番承り候2
徳間文庫
上田秀人
2011年4月1日
徳間書店
691円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
「このままでは躬は大奥に殺されかねぬ」将軍継嗣をめぐる大奥の不穏な動きを察した四代将軍家綱は、お髷番深室賢治郎に動向を探るよう直命を下す。そこで蠢いていたのは、順性院と桂昌院の思惑。それぞれ実子を五代将軍につかせんと権謀術数を競っていた。家綱放逐を企む者にとって、腹心のお髷番は目下の敵。襲い来る刺客と死闘を繰り広げる賢治郎。風心流小太刀が電光石火で悪を断つ。
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(無題)
江戸城本丸御殿中奥で将軍に勤仕して、日常の細務に従事する役職を小納戸と言いました。深室賢治郎は小納戸役月代御髪係です。毎朝将軍・家綱の髭と月代を剃り、髷を整える役目です。やる事は町場の床屋と変わりありませんが、将軍の肌に直接刃物を当てるのですから、旗本それも最も信用できる腹心がその任に当たります。家綱が賢治朗を選んだのには、もう一つの理由がありました。君臨すれど統治せず。日本の政治機構では、トップはお飾りであったほうがうまくいくケースが多いのです。しかし、家綱は祭り上げられて満足するような人間ではありませんでした。人心を掌握した名君たらんとしたのです。そのためには何と言ってもインテリジェンスです。賢治朗が望まれた理由はここにありました。 賢治郎にそれが適任であるとは、到底思えません。先ず世事に疎いのです。部屋住みとはいえ旗本の若様ですので、当然とはいえ買物はおろか物価水準すら知りません。深室家に婿養子に入った現在でも、祝言を挙げていませんので、まだ童貞のままです。人の裏をかく謀略には程遠い賢治郎ですが、剣の腕だけは誰にも負けません。小太刀の遣い手なのです。そうはいっても、戦国の時代は遠く過ぎ去りました。この物語が始まるまで、人を切った事はありませんでした。 時代劇といえばお家騒動が定番。この物語も将軍・家綱の弟、甲府藩主・徳川綱重の生母順性院と館林藩主・徳川綱吉の生母桂昌院の野望と陰謀が根底にあります。第1巻が潜謀の形、闇に潜んだ謀略の形がどのようかものか、おぼろげに見え始めるとするなら、第2巻は奸闘の緒、順性院と桂昌院の姦計に基づく闘いが緒に着くのが予見されます。一つひとつの闘いを通して賢治郎の成長が見られるのが楽しみです。 ともあれ、第2巻での家綱の命は「大奥中臈山吹を調べよ」でした。そこで浮上してきたのは桂昌院の影でありました。桂昌院の謀略は家綱に娘を設けさせ、その娘と綱吉を結婚させて男子が産まれたら次の将軍位に着けるとのものでした。将軍の祖母となって権勢を振るうとの野望実現に向けて大奥を動かしていたのでした。
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