騒擾の発
お髷番承り候8
徳間文庫
上田秀人
2014年4月30日
徳間書店
704円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
将軍家綱の御台所懐妊の噂が江戸城下を駆けめぐった。次期将軍の座を虎視耽々と狙う館林、甲府、紀州の三家は真偽を探るべく、家綱のお髷番にして寵臣深室賢治郎と接触。紀州藩主頼宣は懐柔を試みる一方、甲府藩主綱重の生母順生院付き用人は力ずくで口を割らせようと血眼に。御台所暗殺の姦計までも持ち上がるなか、満身創痍の賢治郎がとった手段とは。幕府の命運がその双肩にかかる!
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(無題)
阿部豊後守が動いた。知恵伊豆こと松平伊豆守亡き後、将軍継嗣問題に大きな絵を描けるのは、豊後守を置いて他にいなかった。将軍家綱の御台所懐妊の噂を流し、家綱後任に野望を抱く面々をいぶし出そうとの策謀である。そして家綱の傳育役を長く務めた豊後守の最後のご奉公が、将軍の寵臣・深室賢治郎を家光と自分の関係にまで育て上げることであった。第8巻は「騒擾の発」であるから、結末までは明らかにならないが、大きな騒動を通して賢治郎が収まるべきところに収まるような予感がする。 権力と金と色、いつの世も人を動かす原動力は欲望にあるようだ。時代小説はそれをストレートに表現できるから、人気が廃ることはないのだろうと思う。そんな人情の機微を知る豊後守の深慮遠謀は、家綱の御台所・顕子懐妊の噂を城中に流すことから始まった。歴史を知る読者は、これが事実無根であることを知っているが、将軍継嗣に権利を有する関係者にとっては、事実かどうかは正に死活問題である。噂の真偽を探るべく三家がそれぞれに動き始めた。 真っ先にそして直接的な動きを見せたのが、甲府徳川家綱重の母・順性院であった。順性院付き用人・山本兵庫が将軍側近の賢治郎から事実関係を聞き出そうと、実力行使に出たのだった。自らの技を過信したのであろうか、力づくの山本兵庫に運命の女神が微笑むことはなかった。2回の襲撃に辛くも一命を拾った賢治郎であったが、戦いに敗れた山本兵庫の死体処理を巡って順性院にまで影響が出たのだった。順性院は牙をもがれてしまった。豊後守の策謀、恐るべし、である。 次に賢治郎に接触してきたのは、紀州・徳川頼宣であった。老獪な頼宣は、女・禄高・猶子への誘いと賢治郎を籠絡せんと次々と誘惑の手を伸ばすのだった。残るは館林・徳川家である。桂昌院はもっと露骨であった。配下の黒鍬者を使って将軍御台所の殺害を企てたのだった。
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