真田合戦記

真田合戦記6作目。 本作は、真田が属する武田勢が上野を抑え始めることで、これまでの上杉優勢武田劣勢の盤面が徐々にひっくり返ってゆく。 この盤面の変転の中で、滋野一族はどのように生きたか。小領主の生き様が感じられる。 まずは冒頭の幸綱の一言。 「我らは他国の大名に滋野の力量を買ってもらうのだ。どうせ売るなら、高く買ってくれる者の_につかねばならんなぁ。29」 そして、滋野一族でもある羽根尾幸全。 「武田と上杉を両天秤にかけて、どちらが勝っても羽根尾の家名が残るように謀るのが得策じゃ。257」 本作シリーズの中で、この時代の人々は「"どこの家の"」誰かが大事であると語られた。大勢力の中で浮沈しながらも、家名をつなぐためには、この「家名を守ること」が大切だったのだろう。小勢力同士の争いから、大勢力同士の争いへ変転する戦国時代後期、小領主の誰もが「表裏比興」でなくては生きられなかった、その覚悟が伝わってくる。 一方で、サブタイトルの「京洛の妻問」の通り、元服前の昌幸が京を中心に活躍する。戦国時代を背景に、昌幸の青春が描かれる。 表裏比興・権謀術数のイメージが非常に強い昌幸だが、京で右往左往する姿、若くして見聞を広める姿、滋野一族に誉めそやされる姿など、歴史小説好きなせいか、とても初々しく感じる。 そして、昌幸一番の見せ場は、羽根尾幸全から、六連銭の旗を受け取るシーンではなかろうか。 「武田様の御旗に寄り添ってなびく六連銭の旗。思い浮かべただけで誇らしい心地となるぞ。この旗にとっても本望であろう。さぁ、持っていかれよ。260」 武田という大勢力の中で、一国人領主というよりも、大名の家臣として育ちながらも、反対の小領主の生き様がこもった六連銭の旗を受け取った昌幸。この旗こそが、後年、小領主ながらも大勢力の狭間で渡り合う昌幸の素地となったのではないだろうか。

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