騎虎の将　太田道灌上

▼概要 ・帯文言（上） 江戸の礎を築いた男-関東の大乱を戦い抜いた驍将の生涯 ・あらすじ 関東公方家はもはや滅亡し、坂東の差配は関東管領たる上杉一門が担っていた。その一翼、扇谷上杉家の家宰が太田家だ。太田家の跡取り・資長(後の道灌)は、関東の支配権を巡り勢力を二分する大戦乱のさなかで、合戦の戦略にも在地経営にも突出した才覚を現していく。道灌は、いかに戦い、いかに生き延びたか。坂東を席巻した出来星武将の波瀾の生涯を描き尽くす戦国歴史大河小説！ ■概要 関東大乱の中で、一大勢力を気付いた太田道灌の生涯を描く長編小説。上巻では、道灌の青年期を政治情勢の変転をともに描く。 足利家を支える扇ガ谷上杉家の家宰の家に生まれた若き太田道灌が、変転する関東を舞台に、その力量を存分に振るう。上巻の見どころは、太田道灌が上杉家の家宰の身にありながら、江戸城を中心に勢力を気付き上げていくところだ。腰が重く負け戦の達人である上杉家の家宰として、太田道灌はいかにしてその勢力形成の礎を気付いたのか。 また、本小説の解説にもあるが、舞台となる1400年代後期の関東は政権変転が激しく、多くの人物が様々な権力構造で絡み合う複雑な情勢だ。にも関わらず、本作は読み進めるにあたって、人物関係や対立関係が理解しやすいのは、作家の腕前が素晴らしい限りであろうと思う。加えて、（これも解説にあるが）各章の幕引きの言葉が、ドラマを感じさせ、ページをめくらせるのが非常にうまい。こういったところからも、歴史に詳しくない方でも読みやすく、エンターテイメントさを失わずに本格的な歴史小説として、楽しめる非常に良作な小説と言える。 第一章 万人恐怖 第二章 将軍のいない国 第三章 曙光 第四章 江ノ島合戦 第五章 関東管領謀殺 第六章 分倍河原の戦い 第七章 関東二分 第八章 江戸城築城 ■内容 本作の第一章・第二章は、関東大乱に至るまでの説明の役割となっている、説明と言いながらも小説の技巧が凝らされており、読み手にとっては十分に面白いのだが…。 主人公の太田道灌は、第三章から登場する。彼は、太田家の嫡男として、当時唯一の学校である足利学校に通っている学僧であった。第三章で、足利学校から太田家に帰るシーンから太田道灌の異彩を放った活躍は筆写される。 足利学校から太田家の所領に帰る際、太田家からの迎えを待つでもなく、自身の足で太田家に帰ることにする道灌は、途中賊にからまれ監禁状態となる。自身の身に身代金がつくや否や、賊同士での争いが始まるわけであるが、その中で彼はその軍略を生かし、何と賊同士を壊滅させるのだ。よくある物語では、自分が指揮した賊を抱え込み、その勢力を麾下にするものだが、彼は関東静謐のためには賊をせん滅させるべきとの考えを持つ。 賊の殲滅後、帰りの船に乗る道灌は心のうちにある決意を抱く。 Ｐ239「わしは阿修羅そのものになると決めたのだ」 こうして太田家の嫡男としてその才を振るうことになる道灌であったが、いまだ太田家の惣領は父であり、彼の出番は限定的であった。対立しながらも、主である関東公方府の権威が必要であると語る父世代に対し、若き道灌はそんなもの潰してしまえと吐き捨てる。 父世代と道灌らの若き世代の大きな違いとも言えようが、この考えの違いを道灌は貫き通せたのか。 また、江戸に城を造るにあたり、往時の江戸は浅草寺を中心に大湊であったと描かれる。関東の古くからの領主が農作による経済に固執していた時代に、道灌が身に着けたのは、まぎれもない銭の力であった。商人を味方につけた道灌は、江戸に城を築くことに決める。 P525「おう。日の本一の城を作り上げて見せようぞ」

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