にわか大根
猿若町捕物帳
光文社文庫
近藤史恵
2008年3月31日
光文社
660円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
芝居小屋が軒を連ねる江戸は猿若町。上方への巡業から戻った人気女形が、なぜか突然大根役者になっていた。そんな折り、その幼い息子が不審な死を遂げて…。続いて起きた謎めいた出来事につながりはあるのか?(「にわか大根」)南町奉行所の同心・玉島千蔭。男前だが女心にはちとうとい。けれども事件となれば名推理が冴える。江戸情趣溢れる連作時代ミステリー。
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(無題)
このシリーズ、前二作が長編であったにもかかわらず、本作からは中編連作である。本作には「吉原雀」「にわか大根」「片陰」の三編が収録されている。前二作に比して印象が随分と違って感じられる。というのは、作中で巴之丞の果たす役割が大きく後退しているからだ。巴之丞は千蔭が犯人逮捕をする決めてとなる重要な役所を演じていたのが、本作から千蔭が全面に出て巴之丞は飾り物に過ぎない存在だ。巴之丞がいてもいなくても大勢に影響はないほどだ。これでは猿若町捕物帳と銘打つ意味はないと思われるが、一方では本来の姿に戻ったと考えれば、納得できる。 簡単に内容に触れれば、まずは「吉原雀」。吉原で3人の遊女が相次いで死んだ。吉原のお抱え医師によれば病死は間違いないという。連続する遊女の死に不審を抱いた千蔭であったが、3人の見世はそれぞれ違っているし、死因も異なっていては、さしもの千蔭にも3人の死に関連性を見出すことはできなかった。ところが意外なところに共通点があった。それは「雀」であった。このキーワードから犯人に辿り着く千蔭であった。 次に本作の表題作ともなっている「にわか大根」は、巴之丞のライバルとも目されていた若手女形・村山達之助が上方巡業から帰ってきて、信じられないほどの芝居下手になっていたという不可解な謎が描かれる。そして、達之助の息子・小虎が芝居小屋の明り取りの窓から転落して死んでしまう。そして不思議なことに、その後、達之助の演技は輝きを取り戻してくるのだ。一体何があったのか? 小虎の死の真相は? 。 「片蔭」は、天水桶の底から発見された死体を巡っての顛末が語られている。被害者は、巴之丞が上方で蔭間茶屋にいたときの同僚で、いまは江戸で船芝居の役者となっている谷与四郎の相方・片岡円蔵であることが判明する。与四郎は多額の借金を抱え何かとだらしない男だが、円蔵は誰もが認める善人だ。突然姿を隠した与四郎に殺人の疑いがかかるものの、千蔭は彼らの愛憎劇を推理することで、真犯人を炙り出してゆく。 さて、このシリーズの愉しさのひとつに歌舞伎を下敷きにストーリーが展開される事がある。別に歌舞伎を知らなくても本作のミステリーや捕物を楽しむことは十分に可能なのだが、もし知っていると著者の意図がよく読めて一層味わい深いものとなる。その観点から本書を読んでいけば、面白いのは「吉原雀」である。吉原雀といえば歌舞伎の舞踊曲である。清元からその内容をかいつまんで説明すれば、鳥売りの男女が登場、鳥の「つがい」になる様子を引いて人間の恋心を歌い、さらに「籠の中の鳥」を遊女に例えて、吉原の遊女と客との様子を語る。年季があけたら、好きになった男と結婚しておかみさんとよばれたい、でもそれまでは籠の鳥と唄う。これが死んだ3人の遊女の胸の内である。何故彼女らが死ななければならなかったのかの謎が解ける。犯人探しとはまた別の謎解きが愉しい。
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