夢幻
吉原裏同心 22 長編時代小説
光文社文庫
佐伯泰英
2015年4月30日
光文社
660円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
さまざまな人生が交錯する吉原。その吉原で生計をたてていた按摩の孫市が殺害された。探索に乗り出した吉原会所の裏同心・神守幹次郎は調べを進めるうち、孫市の不遇な生い立ちと、秘めていた哀しき夢を知る。孫市の夢を幻にした下手人とはいったいー。ようやく追い詰めた下手人に幹次郎が怒りの一刀を放つ!ドラマ化された人気シリーズ、待望の第二十二弾。
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(無題)
吉原裏同心シリーズも、もう22巻になっていたんですね。居眠り磐音 江戸双紙シリーズに次ぎますかね。今回は吉原の按摩・孫市殺害事件です。孫市が殺されたのは、金が原因でした。孫市の縄張りは吉原です。廓外では揉み代24文のところ孫市は100文とっていました。これで小金が溜まらないわけがありません。貯めた小金は金貸しの元手となっていたのです。孫市が溜め込んでいるのを、吉原で知らない人はいませんでした。誰もが「孫市の懐には40~50両の金がうなっている」と噂しました。その金が狙われたようでした。死体を改めた幹次郎はうつ伏せの体を起こした際に、鬢つけ油の匂いがした気がしました。孫市の死体は細身の刀で背中から心臓を突き刺され、路地に引き込まれて、むしろで覆われていました。 映画座頭市シリーズなんて今の若い人は知らないかもしれませんね。盲目の無宿人・市が晴眼者以上の活躍をする時代劇です。この座頭ってなんなんでしょうね。孫市も座頭でした。実はこれ、官位なんですね。武士にも官位がありますよね。伊豆守や相模守などです。この当時、視覚障害者の組識「当道座」が存在しました。その江戸本部は「惣禄屋敷」と呼ばれ、関八州を統括しました。目が見えない孤児の孫市は惣録屋敷で育ちました。座には最高位の検校から順に、別当、勾当、座頭と呼ばれる官位がありましたが、それぞれは更に細分化されて合計73個の位があったと言われます。当道座は平家琵琶及び箏、地歌三味線、胡弓、あるいは鍼灸、按摩などの職業訓練機関であるとともにこれらの職種を独占していました。これは、江戸幕府の盲人に対する福祉制度としても考えられます。一方では独自の裁判権を持ち、盲人社会の秩序維持と支配を確立していたのです。 大分横道に逸れましたが、この物語の中心をなす孫市の夢に幹次郎が同感するのは、当時の社会背景の理解が必要だと思ったからです。盲目に生まれ落ちた時から天涯孤独の孫市に人並みの幸せを求めるつもりはありませんでした。ですから、結婚を考えた事もありませんし、高利貸しを営む事ができる特権を利用して人並みはずれた裕福さを得ようと思った事もありません。人の愛に触れた事のない孫市は、ただ唯、安息な居場所が欲しかっただけなのです。それは子供の歓声が絶えない駄菓子屋を営む事でした。事件の捜査が進む中で孫市のそんな些細な願いが明らかになってくるにつれ、孫市への同感が深まって行く幹次郎でした。
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