始末
吉原裏同心 24 長編時代小説
光文社文庫
佐伯泰英
2016年3月11日
光文社
660円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
地廻りと呼ばれ、吉原の妓楼に上がらず素見をする一人の男の骸が切見世で見つかった。探索を始めた吉原裏同心・神守幹次郎は、下手人を川越に追う。一方、番方に女の子が生まれて沸く会所だが、突如現われた「倅」に悩む会所の七代目頭取四郎兵衛。「秘密」を打ちあけられた幹次郎は自ら動くがー。テレビドラマ原作となった人気シリーズ、待望の第二十四弾!
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(無題)
始末には色々な意味があるが、ここでは「始末する」の意味で使われている。では何を始末するか、神守幹次郎がするのだから「人を始末する」に決まっている。吉原裏同心の幹次郎はこれまでも事件に関連して何人もの人を斬ってきた。これまでは振り切る火の粉を振り払うために、止むを得なかった。ところが、今回の「始末」は少しばかり様相を異にする。吉原会所七代目頭取・四郎兵衛のスキャンダルを公にしない意味合いがあるからだ。 これはこれで、一巻を成すだけの内容があるが、本巻の本線はまた違うところにある。事件の発端はこうだ。吉原の羅生門河岸の切見世で瓦職人の葉三郎が首を吊った状態で発見された。葉三郎になりすました女郎のおこうは葉三郎の貯め込んだ100両を強奪、足抜けを謀る。裏には従兄弟・作造の影がちらつく。会所の依頼で幹次郎と金次、南奉行所同心・桑平市松はおこうの捜索に在所の川越に出張る。 この巻では、川越までの旅に舟が使われる。そして川越舟運が詳しく解説される。川越といえば「小江戸」川越に根付いた江戸文化は、この舟運によってもたらされたといってもいい。川越は未曾有の大火に見舞われる。喜多院や仙波東照宮一帯も火の渦に巻き込まれた。家光の命による喜多院や仙波東照宮再建のための資材を江戸から新河岸川を使って運んだのが川越舟運のはじまりである。さらには、知恵伊豆こと松平信綱が川越藩主になって一層興隆した。新河岸川に舟の運行に適するように伊佐沼から水を引き、多くの屈曲をつけ、水量を保持するなどの改修を行ったからだ。 こんな歴史散策や、今ではヤクザものを指す「地回り」の語源も紹介されており、そんな一節に触れると何だか得したような気になるから不思議だ。
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