
家康の遠き道
光文社文庫
岩井三四二
2020年8月6日
光文社
990円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
関ヶ原の戦いから九年ー将軍職を秀忠に譲り、駿府に隠居した家康だが、徳川の天下を磐石にしていくために思いをめぐらせる。諸外国との交易、キリシタン勢力、大坂の豊臣家、戦乱の世を知らない子や孫…不安を数えれば切りがない。齢七十に迫ってなお精力的に政治に関わり、いくさ場にも出征。「守成」に力を注ぐ家康の晩年を描き出した傑作!
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徳川の世を永代に維持するために。初代にして最大の傑物はいかに徳川の世を築いたのか。
starstarstar 3.9 2021年03月02日
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▼概要
・帯文言
江戸・徳川の栄華265年の礎はこうして作られた!
齢七十に迫ってなお野望あふれる家康晩年の姿を描いた傑作
・あらすじ
関ヶ原の戦いから九年―将軍職を秀忠に譲り、駿府に隠居した家康だが、徳川の天下を磐石にしていくために思いをめぐらせる。諸外国との交易、キリシタン勢力、大坂の豊臣家、戦乱の世を知らない子や孫…不安を数えれば切りがない。齢七十に迫ってなお精力的に政治に関わり、いくさ場にも出征。「守成」に力を注ぐ家康の晩年を描き出した傑作!
■概要
徳川家康を描いた作品は数多あるが、今作は珍しく関ケ原後から亡くなるまでの晩年が舞台の異色の作品。老いてもなお、「守成」を成し遂げるために働き続ける家康を描く。全体の構成は、時代が下るとともに起こった出来事をなぞりながら物語が進むため、比較的読みやすい。
本作で描かれる家康は、合理的で実利主義な人物として描かれ、まさに戦国の世の生き残りと言える。それでは、そんな百戦錬磨の経験を積んだ家康が畏れたものとは何か。徳川家子々孫々に至るまでの太平の世を築くため、戦国の荒波を乗り越えた古狸家康が見せる老獪で周到、そして何よりも合理的な政治・謀略・統治とは。
サラリーマンにも学いが多々ある家康晩年の策略を描く。
第一章 守成という野望
第二章 長崎開戦
第三章 二条城の会見
第四章 世界分割
第五章 金銀島
第六章 唐人の花火
第七章 イギリスの大筒
第八章 陣触れ
第九章 城割り
第十章 神の一族
■内容
物語は、慶長十四年(1609)から始まる。冒頭、家康の頭を占めているのは「守成」の二文字だ。
P8「だが草創のつぎには、「守成」、すなわち手に入れた天下を無事に保ち続つづける事業が待っていた。」
また、この守成に勢力を注ぐ家康だが、本作での描かれ方を見てみると、様々な能力を身に着けたのではなく、もともと備わっていたような描かれ方をする。こういった能力を持ち合わせた家康は、どのように守成を成し遂げたのか。
P41「経験を積み、心身を鍛え上げた結果として精神の強靭さを得たのではなく、生まれつき強靭、というより恐怖を感じない体質なのである」
P83「目つきや顔つきからその日知の感情を読み取るのが、家康は得意だった。他のものが気付かない細かい感情の動きまで、手に取るように分かった。なぜか子供のころからそうだった。」
天下一の武力に加え、こういった能力を持つ家康の頭を悩ませるのは、いまだに民にあがめられる「朝廷・公家・寺社」、どに潜んでいるか分からない「キリシタン」、過去の栄華を纏い民に人気を誇る「豊臣家」、そして自分自身に比べふがいない「子供・孫」たち。
子々孫々に至るまで、徳川の世を築くため、家康は次々と手を打っていく。
「朝廷・公家・神社」に対しては、武でなく「文」、つまり法令の力で縛り付ける。織田信長・豊臣秀吉政権下の1個人の力で抑え込むわけでなく、組織に力を持たせたということだ。
続いて「キリシタン」。家康は桶狭間の戦い後の独立より、三河国内の一向一揆に悩まされていた経験から、一度に相手にするとその数の多さに難渋してしまうため、徐々に力を弱めなけれなばいけないことを知っていた。
また、キリシタンの難しいところは、貿易と結びついていた点である。当時、日本が貿易をしていたのは、ポルトガル(やスペイン)であったがこれらの国は、貿易とキリスト教の布教が不可分であった。キリスト教と貿易を区別し、貿易の利益をうまく吸い上げるためには…。ここにも家康の策略が光る。
豊臣家は言うまでもないだろう。本作においては、定説から大きく外れた書き方はされていないため、豊臣家への吹っ掛けから大坂の陣など、家康の視点から見た最後の戦が描かれる。
大坂夏の陣でこんな描写がある。
P374「そのせいで、元亀天正のころは精強をうたわれた徳川家の旗本勢も、いまでは戦場を踏んだことのない素人の集団に成り下がっていた。千軍万馬の古強者といえる者など、総大将の家康ひとりと言ってもいい。そんな軍勢でまともに戦えるのか、という不安が頭の隅にある。-まったく、みな早く死におって。」
大坂の陣は、豊臣方からの視点の作品が多く、家康方の視点の大坂の陣は新鮮だったが、家康側の心配も案外こんなものだったのだろうと頷けさせられる。
そして、最後は「子供・孫」たちである。大坂の陣での子供たちの体たらくを目の当たりにし、家康は自分の寿命が尽きようとしているにも関わらず、先のことが心配でならない。
389「子孫の無能さが心配になってきた。草創の一代目が傑物でも、子や孫は凡庸なことが多いと貞観政要にある通りではないか。」
また、同時の周りを固める旗本衆も戦経験が乏しく頼りがない。大坂夏の陣の夕暮れ、大阪城が燃え盛る中、家康はこうつぶやく。
401「元亀天正のころは旗本の侍たちも三河の貧しい領主で、戦いに負ければすぐにも領地を失ってしまうために戦場では気を張り詰めていたが、いまは少しくらいの負けでは領地を失うこともないと見切っている。そうなると人間、命が惜しくなると見えて、命がけで手柄を立てようという者もいなくなるのだ。やはりここで戦国の世を終わらせられなければ、徳川の世は持たぬと思う」
このような状況に至り、家康は徳川家の子孫たちのために、大きな一手を打った。
それは、「神」となることであった。家康を見知るものがいなくなったとき、家康を神として崇めさせることで、徳川家そのものに権威を持たせるようにしたのだった。
目の前の敵である「豊臣家」を滅ぼし、少し先の敵となる「朝廷・公家・寺社」を法で縛りつけ、目に見えずの増殖する恐れがある「キリシタン」を排斥し、内なる敵となりうる「子供・孫」たちを神の権威で守る体制を築いた。
戦に明け暮れ、政略に勤しみ、先の先を読む力を身に着けた家康には、常人には見えぬ先の先までを見通して、江戸徳川の世の礎を築いて見せた。
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軽い歴史小説
家康の晩年を描いたライトな歴史小説。 読みやすいが歴史探求に深さはない。
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