天下一の軽口男
木下昌輝
2016年4月7日
幻冬舎
1,870円(税込)
小説・エッセイ
時は江戸時代中期。大坂の生國魂神社の境内には、芝居小屋や見世物小屋が軒を連ね、多種多様な芸能が行われていた。笑話の道を志した米沢彦八は、役者の身振りや声色を真似る「仕方物真似」、滑稽話の「軽口噺」などが評判となり、天下一の笑話の名人と呼ばれ、笑いを大衆のものとした。彦八は何故、笑いを志し、極めようとしたのか?そこには幼き頃から心に秘めた、ある少女への思いがあったー。
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(無題)
上方落語の祖と呼ばれる米沢彦八の半生を描いた物語である。能楽、歌舞伎、人形浄瑠璃といった伝統芸能は、室町時代から江戸時代にかけて完成されていった。学校の授業で習うから、多くの人々の記憶に刻まれている。ところが落語については、その発生やら発展やらについての知識が皆無である。もしかしたら歴史の教科書にちゃんと載っているのかもしれないが、少なくとも私の記憶回路にはその痕跡すら残っていない。今回、本書で落語がどのように起こったのかを知ることができ、有益であった。すなわち、京都の露の五郎兵衛、大阪で米沢彦八、さらには江戸では鹿野武左衛門が同時期に現れて辻噺の大道芸が人々の間で人気を博した。その後、江戸では座敷話へと変質し、古典落語の原型が形作られたのだった。 ま、それはそれとして、本書を小説として評価しなくては、本来の趣旨から外れてしまう。一言で言えば「面白い」のである。笑いをテーマとしているのだから、ユーモアに溢れていて当然である。ユーモアとペーソス、そして色恋沙汰となれば、面白い小説の王道である。
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toruo
(無題)
「宇喜多の捨て嫁」が非常に良かった作者の作品だったので手にとってみた。宇喜多の〜、が重苦しくダークな作風だったが本作は上方落語の始祖を扱ったこともあり軽妙な作品に仕上がっている。 主人公が笑いを追求しようと思った動機、江戸と大阪の芸風の違い、芸人同士の足の引っ張りあいや話芸の追求など、どれも素晴らしく巧みに描かれていて素晴らしい。 力のある作者ということが分かったので他の作品も読んでみたいと思った。これはおすすめ。
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