
蜜蜂と遠雷
恩田陸
2016年9月30日
幻冬舎
1,980円(税込)
小説・エッセイ
私はまだ、音楽の神様に愛されているだろうか?ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。著者渾身、文句なしの最高傑作!
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みんなのレビュー (28)
世界は音楽に溢れている
天才達の、ピアノコンクール。 タイトルの意味が、暫く理解できなかった。ネット上での考察でやっと腑に落ちた。この感想の題、そして彼ら2人を意味しているものと思う。音楽を解き放てたのだろうか。 読後1番の後悔は、面白さに任せ一気に読んでしまった事だ。一つ一つの物語を噛み締めて読み込んで、少しずつ読んでいくべきだった。本作品が描くのはピアノコンクール、天才達が奏でる音楽の繰り返しであり、どうしても単調になってしまう部分があったからである。しかしそれでも、読む手を止められなかった。それ程面白かった。群像劇であり、主人公達は勿論、チョイ役の人達にもスポットライトが当たっていく。天才だけではない。凡庸な者、挫折する者、支える者、1人1人が物語を作っている。恩田陸の作品の多くに共通する魅力は、この点だと僕は思う。 蜜蜂と遠雷。 いつもかけているイヤホンを外し、世界の音楽に耳をすませる。
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聴きながら
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(無題)
久しぶりに面白い本と巡り合えた。感動の涙が頬に伝うのを覚えたのは、何年ぶりだろうか。それにしても、これだけの力量の作家である。どうして、わたしの頭の中に一定の地位を占めていなかったのだろうか。調べてみると、彼女の作品を一作とも読んでいない事に改めて驚いた。おそらく、誰か他の作家と混同して、私の頭の中ではつまらない作家群に分類していたのだろう。 さて、本作のモチーフはクラッシック音楽である。そして舞台は国際コンクール。3人の天才ピアニストが凡人には思いもよらぬバトルを繰り広げるのである。出場者全員が頂点を目指して競い合うのがコンクールであるから当然といえば当然である。しかしそこに『他人を蹴り落としてでも』と言った人間の持つ醜さは微塵も存在しない。音楽のミューズに愛された3人の天才なるが故であろう。余裕と深い愛情に満ちたコンクール模様が展開される。そこはクラッシック音楽及び音大を始めとする斯界に関する著者の深い知識に裏打ちされた本物の世界だ。 ところで、本書通読後にふと思ったことに触れておきたい。それは「才能あふれるミュージシャンは、音楽を通してこの本の中に描かれた世界を見ているのだろうか」ということである。音楽を愛する事に関しては人後に落ちないと自負する私であるが、残念ながら私には才能が伴っていない。故に登場人物の感性を理解できないし、音楽的感動も共有できない。やはり本書に描かれた天才の世界は、著者の想像の産物に過ぎないと思えてならない。
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(無題)
いい本読んだ、と思える本は意外と多くない。特に歳を重ねると展開が読めてしまったり、作者の熱が入ってないことが薄々分かってしまったり。 蜜蜂と遠雷は単行本でだいたい500ページくらいあり、まあ読み切るのに時間がかかった。それでも、面白かった。 時系列、キャラ別、選考段階順、どうやって言葉にしようが迷うのだが、あえてキャラ別にしようと思う。テーマ割はおそらくキャラ別だからだ。 ・風間塵 天衣無縫の天才少年。ホフマンに師事していたことから注目を集める。聞くたびにファンを増やし今大会の台風の目になる。しかし、彼のやりたいことは明快、「音楽を連れ出すこと」。確かに明快だが、単純じゃない。そこにどんな意味があるのか、登場人物の中にも分かる人は多くはいない。凝り固まった音楽業界のお偉い方とは全く反対の道を進む。ピアノを持っていなかったり、養蜂家の息子だったりと破天荒な道を進む。聴衆は自分たちの血の滲むような努力の否定と感じるかもしれない。あれだけ万を超える時間練習をしているにもかかわらず、そういう苦労を飛び越えて新しい道を提示しているのだから。けれど、それは本質を見て、その中にピアノを置いているからできる。量の中で本質を見つける彼らとは根本が違う(それがリアルでできるかどうかは置いておいて)。 唯一真っ直ぐに成長してきて、今回真っ直ぐに成長しなかったキャラなのではないだろうか。言い方を変えれば、伸び代がない、というか、伸びるだけじゃない、というか。モノローグの少ない彼だが、やりたいことは一貫して変わらない。そのテーマをコンテストという舞台で検証しているに過ぎないからだ。 ・栄伝亜夜 逃げた過去のある元天才少女。ピアノはおもちゃ箱になったあと、墓標に変わり、そして今大会は何に見えるようになったのだろう。描かれなかったが、思うに、具体物じゃないのではないだろうか。栄伝亜夜は鏡だ。彼女の演奏を通して聴衆は自分と向き合う。心という見えないものを揺さぶるピアニストだから、音という掴めないものを司る存在だから。ピアノがピアノにしか見えないとき、それが繁栄の頂点なのではないだろうか。 成長度でいえば今回屈指なのではないだろうか。成熟度、というのが正確かもしれない。風間塵の時折見せる淫靡な表情は、なんというかうるさいという感じがしたのだが、亜夜のそれは違う気がする。直接記述がないこともそうだが、内から湧き上がる、感情の奥底の言葉で語らなければならない。しかもそれは特定の言葉にまとめられるのをひどく嫌う。だから静寂なのだ。 ・マサルカルロス 優勝。 日常の天才とはよく言ったもので、浅い人が評するに、広く深いタイプ。だからこそ塵のピーキーさや亜夜の成熟度が本人もよく目につく。天才集団のリーダーみたいな感じ?例外の中の常識人という意味で例外である。『やはり俺の青春ラブコメは』の葉山みたいなタイプ。彼の良かったところは八幡がいなかったところだろう。自分のセールスポイントがよく分かっていて、そこにきちんと均等な体重をかけてアピールできる。作中、自分のことで悩む部分が極端に少ないのは、彼の視点が外に向いているから。 ・高島明石 28歳。二次予選敗退の社会人ピアニスト。ピックアップするには弱いが、奏たちと同じポジションかと言われれば違う!と力強く否定したくなる、単独4位の人間だ。参加者ながら周りのことをよく見ていて、年齢や技量の足りなさを分かっていながらもそれでも止めることができない。『青の数学』でいう、東風谷と七加のブレンドという感じ。本文ではやたら彼目線のシーンが多かったが、便利に使われ過ぎた印象。四人の中で唯一二次予選で落とされて「まじかよ」と思わされてしまったが、菱沼賞、取れて良かったねという救いがあって本当に良かった。マサルと亜夜はコメントしなかったが、菱沼が欲しかったのは世界観よりも宮沢賢治のなかの心情だったのかもしれない(だとすると日本人以外無理ゲーでは?)。そして憧れのアイドル・亜夜にも認識されているという第二の救い。二人で抱き合って大泣きするという謎シーンだが、私、あそこ大好きです。 奨励賞に関して、あんまりスッキリしなかったのは明石もチャンも受賞理由が分からなかったこと。明石の救いは開いた光が小さいから強烈で良いのであって、そこが大きすぎると淡くなってしまう。チャンは今回ピエロだったにもかかわらず二次で落としたのはともかくとして、奨励賞は納得できない。救いの答えを書いてくれ、流石に読者にお任せじゃ分かんねぇよ!
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(無題)
傑作と言っても良いと思う。恩田陸の作品を読んで思うことは、この人はそのテーマとなる対象(今回はクラシック音楽)を愛していることだ。今回も、本当にクラシック音楽が好きなんだということが文面からひしひしと伝わってきた。 4人の登場人物や審査員など、視点を変えながら演奏部分を描ききった。確かに長すぎるし、描写が深すぎて飽きてくる部分もあることは否めない。しかし、それ以上に音楽というものをこれほど文章で表現できるのか、と感動した。恩田陸さんの力量、クラシックに対する深い知識、愛情がないとできない芸当だろう。 好きな部分 高島明石が一次予選で演奏中に、妻満智子が回想するシーン。 「これが最初で最後だから、頼む、挑戦させてくれ」 「パパは音楽家なんだって明人に言ってみたいなぁ」 「今更誰にも頼まれもしないのにコンクールなんか出てどうするんだろうね」 「今だから弾けるものってあると思うんだよ」「駄目だ、全然指がついてこない。気持ちばっかり先走って、曲になってない」 「やっぱり、こんなことやめときゃよかった」 「説得力のないピアニストが悪いんだよ」 「本選に残ったら、みんな聴きに来てくれるってさ」 たくさんの明石の声、表情が重なり合う。 それでもなお、ピアノは、ショパンはこんなにも美しい。 バラードの二番は、明石の優しさと厳しさをそのまま体現しているかのようだった。 曲が終わり、一瞬、真の静寂が会場を包んだ。 鍵盤の上に俯いていた明石がパッと顔を上げる。 その表情は晴れ晴れとしていた。 にっこりと笑って立ち上がる明石を、拍手と歓声が包む。 夢中で拍手をしながら、満智子は心の中で呟いた。 私は音楽家の妻だ。あたしの夫は、音楽家なんだ。
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