秀吉の活

本作は豊臣秀吉の一生を扱った長編歴史小説。 「活」をテーマに10章に分けられており、各テーマにて秀吉が何に悩みどう克服してきたかが描かれる。 全600ページのうち、一章「天下人の就活」二章「天下人のの婚活」が全体の240ページを占めている通り、秀吉の青年期（特に実父）の影響と百姓の育ちが、その後の人生の決断に非常に大きな部分を占めている。 実父から教えられた"活きる"。百姓から天下人へかけ上った日本随一の出世人は、その誰よりも波瀾万丈な人生の中でどう活きたのか。 また、解説にもあるが、この小説では、秀吉の活躍どころと呼ばれるような歴史上の出来事があまり出てこない。 墨俣、金ヶ崎、比叡山、小谷攻め、長浜城主、長篠、毛利攻め、大返し、清洲会議に小牧長久手…書き出したらきりがないが、これらはあまり出てこない。 だが、この小説はすらすら読める。文体や表現が馴染みやすいのもあるが、何より天下人の悩みがとても親近感が沸くものだからだろう。 蔑まされ見返してやると意気込み仕事に励む。 大切な人をどうにか守りたいと無茶をする。 自分の才能は何か悩み、懊悩を続ける。 昔の主筋が忘れられず敵にも関わらず逃す。 その反省と悔恨から仕事が手につかなくなる。 自分のやるべきことを見つけたらひたす、励む。 励むことで自信の仕事は広がるが、それが原因で自分の人生について悩む。 悩んだ末に他人の姿・真意を垣間見ることで、自分の行く末を見つめ、新たに踏み出す。 恩人「信長」への思いとともに、実父、義父との関係性を描き出す。最後の章にあたる終活では、"活きる"の意味を改めて思い直し、息子へとつないでゆく。 老いの辛さ以上に、百姓父子の仲のよさが感じられるのではないだろうか。 生きるではなく、活きる。 ここで活きるとは、 ただ生物として生きてゆくという意味ではなく、「たくさん考えて、他人に気配りして、一生懸命働くこと。604」を指す。 日本随一の天下人がその生涯をかけて、悩みながらも考えて体現した「活きる」。この本は、今の自分が「活きているか」、そんなことを考えさせられる。

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