黒書院の六兵衛(下)
浅田次郎
2013年10月31日
日経BPM(日本経済新聞出版本部)
1,650円(税込)
小説・エッセイ / ビジネス・経済・就職
まもなく天朝様が江戸城に玉体を運ばれる。御書院番士はそれでも無言で居座り続けた。常の勤番所から、松の御廊下の奥へ詰席を格上げしながら。品格ある挙措と堂々たる威風は、幕末という時代が多くの侍に忘れさせた武士道の権化に映る。名も勲も金もいらぬ。すべてをなげうって武士の良心を体現した成り上がり者の希みとは、いったい何なのかー。流麗な文章で紡がれる衝撃のクライマックスは、美しく、切ない。
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(無題)
明治維新は「革命」であったのか、あるいは薩長土肥連合による王政復古クーデターにすぎなかったのか。私たち日本人の多くは、どちらかといえば日本が近代国家に脱皮するための輝かしい出来事とイメージしているのではなかろうか。しかし、歴史の真実がどこにあるのかは、誰にもわからない。ましてやその渦中にあっては、自分を見失いがちである。歴史の転換期にあっては、ただひたすら観察者に徹する事も必要ではなかろうか。 何も語らず何も行動を起こさず、ただ居座るだけの六兵衛は、もしかしたら歴史の観察者だったのかもしれない。それだけでは、小説としての面白みに欠けるから六兵衛の身元探しが始まる。金で旗本株を買った俄か侍から始まって、六兵衛は実は将軍・慶喜だ、公家の間者だ天皇の密使だ、イギリスの密偵だと憶測が乱れ飛ぶ。物言わぬ六兵衛をめぐって福地源一郎、勝海舟、西郷隆盛、大村益次郎、木戸孝允など明治維新の立役者が右往左往して話を盛り立てる。 そしてとうとう最後まで明かされなかった六兵衛の正体。ミステリー仕立てで六兵衛の謎を書きたてた作者が最後まで六兵衛の正体を明かさなかったのは何故であろうか。尊皇攘夷にあらざれば人にあらず、といった時代風潮の中、六兵衛にはイデオロギーの片鱗も伺えない。何かをしようとの意思さえ持たないようだ。そこにあるのは、武士のカタチと武士のココロである。武士らしくある事は、武士の世の終焉に対する「けじめ」なのかも知れない。だから作者は六兵衛によけいな説明や謎解きはさせなかったのであろう。 歴史を知る事は、一方では現在を知る事である。どうにも、おかしな予感がする今の時代を静謐な眼で観察する必要があるのだろう。
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Readeeユーザー
(無題)
後半に盛り上がりが素晴らしい。まるでオペラのフィナーレを見ているようだ! 最後は六兵衛に快哉
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