
ヒトラーと哲学者
哲学はナチズムとどう関わったか
イヴォンヌ・シェラット / 三ツ木道夫
2015年1月24日
白水社
4,180円(税込)
人文・思想・社会
思想と行動をめぐる迫真の哲学ノンフィクション。カント以降の反ユダヤ的言辞を跡づけた上で、ナチスに加担した者と迫害された者の生き方を描き出す注目作。哲学することの倫理的基盤を問う。
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toruo
(無題)
哲学とは何か、というと非常に大きなテーマになってしまうのだが個人的には真理や本質をいかに捉えるか、という学問であり、その究極の目的は人間がいかに正しく生きるか、ということを探求するところにあるのではないかと思っている。その意味で邪悪の権化のようなナチズムに真理の探究者たる哲学者がいかに関わったのか、に興味があったので手にとってみた。また国民社会主義、いわゆるナチズムとは何か、という問題も定義する必要があると思うのだがこれは個人的には社会主義の一種であって民族を軸にした共同体の繁栄を意図するものだという理解をしている。平たく言ってしまえば帝国主義の植民地競争に出遅れたドイツが民族としての優位性を打ち出し近隣諸国を植民地として支配し自国のみの繁栄を図ったものという理解。つまり国としての統一が遅れたためにアジアやアフリカで植民地を獲得できなかったドイツが、いわば自分たちと似たような白人の国家を植民地とするために支配民族という概念を持ち出す必要があったのではないかと。そのようなイデオロギーの形成に哲学者がどう関わったのか、のいわば告発の書。最初にヒトラーが哲学の要素をいかにナチズムに取り込んだのかが説明され、次に世界的に有名な学者でしかもナチ党員であったカール・シュミットとマルティン・ハイデガーのようなナチズムに加担した学者たちのケースが取り上げられ、次にナチに自殺、亡命、処刑といった運命を辿ったナチズムへの反抗者のケースが取り上げられている。思想内容がくどくど述べられたりしていないので哲学の知識が乏しい自分にも興味深く読めた。驚くのはイデオロギーの形成に手を貸したいわばナチズムの作成者の多くが大した処罰も受けず、戦後のドイツにおいてもそれなりに重きをなした、というところ。日本に比べて戦後処理を正しく行った、と評されることの多いドイツだが、それはヒトラーを初め一部の人間に全ての罪を押し付けてあとはほっかむりしただけなのだ、ということがよく分かる。その意味で本来吊るされるべきはアイヒマンではなくシュミットでありハイデガーであるべきであっただろう。非常に興味深い内容だった。
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