指輪物語(9)新版

評論社文庫

J.R.R.トールキン / 瀬田貞二

1992年7月31日

評論社

770円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

恐ろしい闇の力を秘める黄金の指輪をめぐり、小さいホビット族や魔法使い、妖精族たちの、果てしない冒険と遍歴が始まる。数々の出会いと別れ、愛と裏切り、哀切な死。全てを呑み込み、空前の指輪大戦争へー旧版の訳をさらに推敲、より充実して読みやすく美しい、待望の「新版」。

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Readeeユーザー

(無題)

starstarstar 3.0 2021年08月15日

1.高校時代 なぜか私のなかには「ファンタジーといったら指輪物語」という固定観念があり、ファンタジー好きを名乗るためには絶対に読まなければならないと決めつけていた。高校生のとき気合いを入れて1-4巻を購入(全10巻一気に買えば地図がついてきたらしいと数年後気づく、本当に後悔している)し、2巻の半分くらいまで読んで挫折。 まず一巻の「序章」を真剣に読んだのがまずかった。論文っぽい文章でなにを言っているのかさっぱりわからず、モチベーションが地に落ちたところで本編に突入。そもそもホビットがうまくイメージできないしとにかく登場人物が多すぎて覚えられない。しかも一人一人に複数の名前がついている。ピピンなのかペレグリンなのかトゥックなのか統一してくれ、と(おそらく)思っていた。途中で出てきたハセオってやつはなんかかっこいい気がするなと感じてはいたが(ナイス勘)結局あきらめた。このときの強烈な挫折感は以後ずっと心に残り続けることになった。 2.ロード・オブ・ザ・リング 2020年3月、プロジェクターを買ったのを機にいろいろ映画を観るようになった。せっかく大画面で観られるのだから映像美を、ということでファンタジーの名作、ロード・オブ・ザ・リングを観ることにした。原作ファーストがポリシーなので映画から観るのはなんとなく罪悪感があったがどうせ一度挫折しているしまあいっかと思った。 映画は3部作で ・旅の仲間(2時間58分) ・二つの塔(2時間59分) ・王の帰還(3時間21分) とえげつない長さ。6日間かけて観た。 風景がとにかく美しく戦闘シーンも大迫力で良かったのだが、観終わったときにはフロドのヘタレっぷりに幻滅したのと細かい疑問点が残りすぎて大満足とは言い難かった。 とりあえずアラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)とレゴラス(オーランド・ブルーム)がイケメンだった。眼福。レゴラスの運動神経どうなってるんだ。 映画を観たことで主要キャラは頭に入ったので、もう一度本を読んでみようかなという気になった。 3.原作読んだ 大学生になってからそこそこ本読んでたしスラスラ読めるかなと期待してたのだが全くそんなことはなかった。トム・ボンバディルって誰だよ、映画にいなかったじゃねーかと思いつつ読む。説明なく固有名詞がわらわら出てくるのでだんだん嫌になる。中つ国wiki(素晴らしいまとめサイト)をちらちらみて知識を補充しつつなんとか進めた。馳夫ことアラゴルンがフロドたちと合流するあたりからは面白かった。ところどころ中だるみしつつもなんとか読了。 【あらすじ】 一つの指輪、それは、サウロン(=悪の権化みたいなボスキャラ)の力が込められた、世界を滅ぼしうる指輪である。ホビットのフロドは、指輪を取り戻し世界を支配しようと企むサウロンの魔の手から逃れ、指輪を「滅びの山」に捨てに行くことができるのか? 【旅の仲間】 ①フロド(フロド=バギンズ) 主人公。ホビット。いいとこのおぼっちゃま。映画だとヘタレだけど原作だと意思の強いいいやつ。 ②サム(サムワイズ=ギャムジー) ホビットその2。バギンズ家の庭師。フロドをとっても尊敬(ほぼ崇拝)している。料理が得意、めちゃめちゃいいやつ。アラゴルンの次に好き。 ③メリー(メリアドク=ブランディバック) ホビットその3。後半、セオデン(ローハンの王)に仕える。 ④ピピン(ペレグリン=トゥック) ホビットその4。最年少。ぺらぺらしゃぺっちゃうやつなので数々やらかす。後半、デネソール候(ゴンドールの執政)に仕える。 ⑤ガンダルフ イスタリ(魔法使い)。灰色のガンダルフから白のガンダルフになる。生まれ変わったのかなんなのか最後までよくわからなかった。ハリポタで魔法に慣れすぎているせいかなのかもしれないがガンダルフの魔法は地味。 ⑥アラゴルン エステル/ソロンギル/馳夫/長すね彦/翼のある足/エレスサール/テルコンタールなどなど、名前が多すぎる人間。野伏の族長。イシルドゥアの世継、エレンディルの直系の子孫、鍛え直された剣アンドゥリルの使い手。癒やしの手。 アラゴルンが主人公だっけ?って錯覚しそうになるくらいかっこよかった。途中からアラゴルンの勇姿がみたくて読んでいたといっても過言ではない。ヴィゴ・モーテンセンは原作から考えると若すぎるのかもしれないが(原作だと87歳)、ドゥネダインは長生きだし、イケメンは無条件に素晴らしいからオッケーである。若い顔して深い人生経験があるって考えるとたまらん。原作だとアルウェンと全くイチャイチャせず、心に秘めて想ってるって感じだったのも良かった。 ーーーーー こうしてかれは遂に現存する人間の中でもっとも艱難辛苦に耐えうる者となり、人間の技と学問に長けた者となった。しかもかれは人間以上であった。かれはエルフの智恵を持ち合わせ、その目に光る眼光が燃える時目を伏せずに耐えられる者はほとんどいないくらいだった。かれの顔は課せられた運命ゆえにきびしく悲しげであったが、その心の奥底には常に望みが宿り、そこから時折岩から泉が湧き出るように喜ばしい笑いが湧いてくるのであった。 (「アラゴルンとアルウェンの物語」より) ーーーーー 20歳でアルウェンと出会って恋に落ちて、結婚できたのが60年以上後だからね…切ねえ。 ⑦レゴラス エルフ。映画では目を疑うようなアクションを次々繰り広げるイケメンだったが、原作では手を胸の前で組んで目を開けたまま寝るような不思議ちゃんだった。弓の名手であるとはされているが戦闘描写は大してなかった。 ⑧ギムリ ドワーフ。ガラドリエルに何が欲しいか聞かれてガラドリエルの髪の毛3本もらってたのが印象的だった(それ要る?)。気がついたらレゴラスと大親友になってた。オークと戦うとき何匹倒したか必死で数えてるのがかわいい。 ⑨ボロミア ゴンドールの執政デネソール候の息子(人間)。弟はファラミア。指輪の誘惑に負けた野郎。すぐ死んだのであまり印象に残っていない。そういやファラミアは映画だと行動の意味がいちいちよくわからなかったが原作だと部下に慕われる有能な指揮官だった。けっこうかっこよかったのだが最後急にエオウィン(セオデンの姪)といちゃつきだしたので減点。 4.感想 世界観の作り込みが素晴らしい。ただ、この素晴らしさは、関連書籍やサイトが星の数ほど存在するという事実から推し量っているだけなので、なにも知らず読んだら「なんか凄そうだけど辻褄合ってんのかな」と疑ってしまったような気もする。トールキン研究家なんていう職業も存在するらしい。すごい。 この本を心の底から面白いと思うかと聞かれたら答えはNOであるが、少なくともつまらないということはない。本物の歴史かと思ってしまうほど膨大な情報量にあふれる「中つ国の歴史」の一部を垣間みるという感覚で読むとその壮大さにただひたすら圧倒される。現代ファンタジーはすべて指輪物語の影響を受けているとも言われているし、それを考えるとトールキンさんに感謝しかない。 サムのセリフに感銘を受けたので引いておく。 ーーーーー 昔のお話や歌の中に出てくる勇敢な行ないってものは、フロドの旦那。おらが冒険って呼んでるものですだが。おらいつも思ってたもんですだ。その冒険ちゅうもんは物語の中の華々しい連中がわざわざ探しに出てったもんだろうと。冒険をしたかったから出かけてったんだろうとね。冒険ははらはらさせておもしろいし、毎日の暮らしはちょっとばかし退屈ですから。まあ気晴らしみたいなもんといってもいいですだ。けど、本当に深い意義のあるお話や、心に残ってるお話の場合はそうじゃねえですだ。主人公たちは冒険をしなきゃなんないはめに落ちこんじゃったように思えますだ。一般にーー旦那のおっしゃったようにいえば、その人たちの道がそういうふうに敷かれてたっちゅうっこってすだ。 (二つの塔(下)p.270より) ーーーーー 私の好きなファンタジーは皆「冒険をしたかったから出かけて」いくものではなく、「冒険をしなきゃなんないはめに」なるものだ。 悲しい運命に巻き込まれ冒険や戦いに挑み、数々の困難を乗り越え、常人だったら諦めてしまうだろう局面でも果敢に進み続ける登場人物にいつも惹かれてきた。ずっと考えてきたことが、古い物語である”指輪物語”で言及されているということが嬉しかった。 5.”著者ことわりがき” 巻末に、著者ことわりがき、というトールキンさんによるあとがきがついていて、大変おもしろかったので一部分引用する。 ーーーーー この本を読んだ方の中には、あるいはともかくこれを論評された方の中には、この本を退屈だとか、ばかばかしいとか、軽蔑すべきものだと思われたむきもあったようだが、わたしはこれに対して不平をいう筋合いはない。わたし自身、その人たちの作品、あるいはその人たちが明らかに好んでいるとみられるような作品に対して同じ意見を抱いているからである。しかしわたしの作品を喜んでくれた多くの方々の意見によっても、あまり感心しないところがたくさんあるようである。長い物語では、おそらく、すべての点ですべての人を喜ばすこともできない代わり、同じ個所でだれにも不満足となることもまたあり得ないのではないだろうか。今まで受け取った手紙からみて、わたしは、ある読者たちからは失敗だと批判された行や章の全部が全部、別の読者からは特に賞賛されるということを経験したのである。 (王の帰還(下)p.338より) ーーーーー 「名作」と呼ばれるもの、ベストセラーとなったものは面白いと思わなくちゃいけないという強迫観念に縛られてしまうときがある。 千人いれば千通りの受け止めかたがある、という事実は当たり前だが忘れがちである。「20世紀最高のファンタジー」と評価される指輪物語でさえ、好みは分かれるものであるし、完璧な物語は存在しないとの指摘は深く共感できた。

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