居眠り磐音江戸双紙(51) 旅立ノ朝
佐伯 泰英
2016年1月4日
双葉社
712円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
雲ひとつない夏空の下、穏やかな豊後水道の波を切る関前藩所蔵船豊後丸の船上に、坂崎磐音とその一家の姿があった。病に倒れた父正睦を見舞うため、十八年ぶりに関前の地を踏んだ磐音は、帰国早々国許に燻ぶる新たな内紛の火種を目の当たりにする。さらに領内で紅花栽培に心血を注ぐ奈緒の身にも…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を討つ、“剣あり、恋あり、涙あり”の書き下ろし長編時代小説第五十一弾。平成の大ベストセラーシリーズ、ここに堂々完結!
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(無題)
あれから2年の月日が流れた。磐音、おこん、空也、睦月の坂崎一家の姿は豊後松前藩の帆船・豊後丸の船中にあった。父・正睦の病気見舞いであった。豊後松前藩中興の祖・坂崎正睦も老いた。何よりその老いは人を見る目に狂いが生じたところに顕著であった。今の松前藩は、国家老・正睦が引き立てて重用した中老・伊鶴儀が藩政を私しているのだった。藩政改革に磐音が手腕をふるって欲しいとの藩内外の期待が高まるのだった。磐音はそんな状況で政治力を発揮するタイプではない。何よりも剣術家であった。 だから、最終巻でも剣の真剣勝負が待ち受けている。ところが、立会いにはこれまでと、一味の違いが生じていた。空也が矢面に立つ場面が生じていたからである。江都に門弟3000人と威勢を張った鈴木清兵衛が磐音に敗れて12年。清兵衛は磐音を倒して失ったものを取り戻す、その一念で修業を重ねた。最後の闘いの相手が清兵衛であった。正眼の清兵衛に対して磐音は居合いの構えだ。八相に立てた刃が磐音の肩に落ちたかに見えた時、磐音の剣が抜き打たれ鈴木の腹から胸を断ち横に飛ばした。 豊後松前藩を壟断した伊鶴儀の悪事は全て露見した。生涯最大の失策であった伊鶴儀を処断し、国家老の職を辞した正睦は、家族に看取られながら従容と旅立った。そしてもう一人、満々と生命力にあふれた若者の旅立ちがあった。空也の武者修行の旅である。目指すは示現流の薩摩藩である。
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