逝きし世の面影
平凡社ライブラリー
渡辺京二
2005年9月30日
平凡社
2,090円(税込)
人文・思想・社会
「私にとって重要なのは在りし日のこの国の文明が、人間の生存をできうる限り気持のよいものにしようとする合意とそれにもとづく工夫によって成り立っていたという事実だ」近代に物された、異邦人によるあまたの文献を渉猟し、それからの日本が失ってきたものの意味を根底から問うた大冊。1999年度和辻哲郎文化賞受賞。
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江戸時代の末期から明治時代の初期にかけて日本を訪れ、世界に類を見ない日本の精神文明を体験した欧米人の手記や書簡を掲載している。著者は徳川という時代は文明だと言う。それが外国人の筆で生き生きと活写されている。「日本人の間にはっきりと認められる、表情が生き生きしていること、容貌がいろいろと違っているのとは、他のアジアの諸民族よりもずっと自発的で、独創的で、自由な知的発達の結果であるように思われる」というアンベール、「卑屈でもなく我を張ってもいない態度からわかるように、日本のあらゆる階層が個人的な独立と自由とを享受していること」が東京の街頭の魅力だというイザベラ・バード、「日本人は男にふさわしく物おじせず背筋をのばした振舞いを見せ、相手の顔を直視し、自分を誰にも劣らぬものとみなす。もちろん役人は大いにそうだし、下層の者だって多少はそうだ」というジェフソン=エルマースト、「下層の人々でさえ、他の東洋諸国では見たことのない自恃の念をもっている」というホームズ。 貧しくても、気高く、幸せそうな日本人の姿に驚愕した欧米人。当時から、気品や幸福は、富とは切り離せない、って考えられてたからだろう。しかし残念ながら、日本はその後、欧米を啓蒙するのではなく、教化されてしまう。明治時代の日本人は、江戸時代以前の日本を恥ずかしいもの、と捨ててしまい、さらには第二次大戦後は、戦前の歴史は恥ずべきの、との歴史教育を行った。本書を読むと近世日本人、特に庶民のの気高さがひしひしと伝わってくる。今の日本人には、そのかけらもない。原発推進や増税に躍起な世の中の指導的立場にある人にぜひ読んでもらい一書である。
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