ビルマの花
戦場の父からの手紙
福田恵子
1988年6月1日
みすず書房
1,980円(税込)
小説・エッセイ / 人文・思想・社会
中国との国境に近いビルマ北端の美しい英国風の街、ミイトキーナ。米軍情報部所属の日系二世、カール・ヨネダ軍曹は、陥落していまや死の街と化したこの戦場で、幼い子どもの手で書かれた絵ハガキの束を拾った。太平洋戦争中の1944年8月の出来事である。-こうして、戦中と戦後、日本とアメリカをむすぶ半世紀近い歳月の〈戦争と平和〉の記録ははじまる。戦後まもないある日、父のいない恵子の家に、一通の手紙がアメリカから届いた、〈お父さんは帰国されましたか〉。恵子の父、秋庭昂中尉は、〈ケイコハヨイコニシテマスカ〉という言葉とともに、北ビルマの赤い土となつてしまった。恵子は父の死について知りたくなかった。長い沈黙の時がつづいた。戦後四十数年経ち、かつての兵士たちも老いた。恵子は気づいた、父の姿は今という時を逃しては永遠に消えてしまう。父を探し求める旅がはじまった。シンガポールに、アメリカに、日本の各地に、そこには重い戦争の記憶を引きずる戦後があり、人びとがいた。そしてほとんど奇跡に近いことに、人びとの記憶の中に生きている父を発見したのである。秋庭昂中尉、38歳の最期をも。
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