宇宙のみなしご
フォア文庫
森絵都 / 杉田比呂美
2006年6月30日
理論社
660円(税込)
絵本・児童書・図鑑 / 新書
不登校のわたし、誰にでも優しい弟、仲良いグループから外された少女、パソコンオタクの少年。奇妙な組み合わせの4人が真夜中の屋根のぼりをとおして交流していく…。
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(無題)
海で遊びたい、と思いついた。しかし親は共稼ぎで不在。そこで海の代わりにする遊びが「空き地ですもう」であったり、「ひとんちの池で勝手に魚釣り」であったり、「目つきの怪しい野良犬の尾行」であったり、「三角定規でなんでも測る」であったり、こんな発想をする小学生ってどんな子供なのか、私には想像もつかない。そして成長した中学生の今では、夜中によその家の屋根に登るのに夢中になっているのだ。そんな陽子とリンの姉弟だ。2人とも常識に囚われないというか、同年代の少年少女達とはひと味もふた味も違う個性を持っている。しかも陽子は自己肯定感が飛び抜けて強い少女だ。だから、誰ともつるまないし、誰にも気を使わない。そのままで居ても存在感があるのだ。これに対して弟のリンは、怒りの感情を母親のお腹に忘れて来たかのような穏やかな性格で、いつのまにか人間関係の潤滑油の役割を果たしている。いわば八方美人なのだが、少しもいやらしさを感じさせないところが人徳だ。 そこに絡むのは七瀬さんとキオスク。2人とも典型的A型人間だ。日本人に一番多いのがこのタイプ。清く正しい美しくを地で行く内気な少女・七瀬さん。弱気で自己否定感が強いので、いじめられっ子のキオスク。そんな4人が夜中によその家の屋根に登る遊びを通じて友情を育み、成長していく物語だ。全く共通点を見出せない4人に一点だけ似通った部分があるとするならば、それは他人とは感受性が違っている自分を自覚してそこに辛さを感じているところだ。 本書を中学生向けと位置づければ、青春のとば口に立った読者に、人間は皆「宇宙のみなしご」つまり孤独なんだ、その孤独の上にそれぞれの人生が開かれていく、とのメッセージが込められた書とも言えようか。まことに児童文学出身らしい作品である。
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