残月
みをつくし料理帖
ハルキ文庫
高田郁
2013年6月30日
角川春樹事務所
680円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
吉原の大火、「つる家」の助っ人料理人・又次の死。辛く悲しかった時は過ぎ、澪と「つる家」の面々は新たな日々を迎えていた。そんなある日、吉原の大火の折、又次に命を助けられた摂津屋が「つる家」を訪れた。あさひ太夫と澪の関係、そして又次が今際の際に遺した言葉の真意を知りたいという。澪の幼馴染み、あさひ太夫こと野江のその後とはー(第一話「残月」)。その他、若旦那・佐兵衛との再会は叶うのか?料理屋「登龍楼」に呼び出された澪の新たなる試練とは…。雲外蒼天を胸に、料理に生きる澪と「つる家」の新たなる決意。希望溢れるシリーズ第八弾。
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(無題)
ゆったりとした気分と穏やかな気持ちにさせてくれる高田郁の小説、いつ読んでも居心地の良いものです。ですから、激しいドラマチック性をこの作者に求めることは、筋違いというものですが、それでも小説である以上、盛り上がりというものはあるものです。本作では、卵料理・鼈甲珠を工夫し、登龍楼との勝負に臨む辺りがクライマックスといえます。 物語は吉原の大火で、あさひ太夫を救いだして命を落とした又次をしのび、「三方よしの日」に精進料理を出そうとするところから始まります。凍み豆腐を使ったこの料理がことのほか好評で「面影膳」とお客が名付けたのですから、料理以上の味わいがあります。 下足番を勤めていたふきが、調理師見習いに昇格し、りうが下足番を兼ねて呼び込みをするようになります。この章では芳の息子、佐兵衛が失踪した事情が判明します。 登龍楼から澪が呼びだされました。澪の腕が見込まれて吉原の新店にスカウト話です。澪はその見返りに思わず「四千両」と口にします。ならばと登龍楼の采女宗馬は、吉原に相応しい料理を考え出してみよ、と賭けに誘います。澪はそれに応じてしまいます。こうして玉子の黄身を味噌とみりん粕に漬け込んだ「鼈甲球」が誕生しました。 ここがクライマックスと思っておりましたら、いやはやとんでもないお話が待ち構えていました。しかも、幸せに満ち満ちて、嬉し涙に溢れるのです。今でこそつる家のお運びをしている芳ですが、元を正せば大阪天満一兆庵のご寮さんです。芳の真価は、一流料亭にあってこそ発揮されるというものです。20日あまりの看病でこれを見抜いた柳吾が芳を後添いにと望みます。澪自身の身の振り方にも大きな変化が予見されます。戯作者清右衛門から事情を聞かされた種市が、澪をつる家から翁屋へ送り出す決意を固めたのです。澪の運命が大きく動きそうです。次巻が楽しみになりました。
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