吉原詣で

鎌倉河岸捕物控28の巻

ハルキ文庫

佐伯泰英

2016年4月30日

角川春樹事務所

759円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

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Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月18日

新生児の男女比は男児の方が若干高くなっている。乳幼児期における男児の死亡率の高さを反映した自然の摂理だ。ところで、江戸期の成人の男女比を見ると、明らかに男が多い。江戸の町は各地から労働力、つまり男を集めて人工的に造った都市だったのが1番の原因である。その他にも、侍の多くが参勤交代で地方から来た点や地方の農村からの次男以下の男子が、大都会江戸に流れ込んだ事が考えられる。その結果、何が起こるかといえば、男の性欲を処理するため性産業の隆盛である。徳川幕府は遊廓を公許にすることでそこから冥加金を受け取ることができた。また市中の遊女屋をまとめて管理すれば治安上のメリットが生じると考えた幕府と、市場の独占を求める一部の遊女屋の利害が一致した形で、吉原遊廓は始まったのである。 遊郭は有り体に言えば、望まない性行為を強いられる多くの下級遊女たちによって作り上げられた異郷という事ができる。ところが、その一方で、遊里の最高位・太夫は美貌に加えて最高の教養と技芸を備えていた。男が望む理想の女性像が人工的に作り出されたのだった。だから、太夫は今でいうアイドルであり、彼女の髷や衣装などに江戸の女性の関心が集まった。吉原遊廓は新しいファッションの発信地であったのだ。 これが、性を安直に切り売りする岡場所と遊郭の違いである。そこには売買春を超えた江戸っ子の遊びの粋があった。江戸っ子の美意識の最高峰に位置するのが粋である。いなせという場合もある。江戸っ子が仮に「よ、いなせだね」と言われたら、間違いなくやせ我慢してもそう振る舞う。 金座裏の親分・宗五郎と番頭格の八百亀、酒問屋豊島屋の隠居・清蔵、 呉服屋松坂屋の隠居・松六の四人が、吉原の三浦屋へ登楼した。 宗五郎を除けば、皆第一線をリタイアしている。もはや色気も失って枯れているかと言えば、そんな事はない。その気十分なのである。ただ、もうギラギラはない。だからこそ出来る粋な遊びである。そうはいっても本書は捕り物だから、アクション抜きには成り立たない。宗五郎は吉原の帰り道で強盗に出くわす。この事件がきっかけで2つの事件が平行して進み、意外な大事件へと繋がる展開はなかなかに面白い。

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