連れ連れに文学を語る

古井由吉対談集成

古井 由吉

2022年2月22日

草思社

2,420円(税込)

小説・エッセイ

グラスを片手にパイプを燻らせ、文学そして世界の実相を語る。 八〇年代から晩年までの単行本未収録インタヴュー、対談録を精撰。 夫馬基彦、柳瀬尚紀、福田和也、山城むつみ、木田元、養老孟司、 平出隆、蓮實重彦、島田雅彦、堀江敏幸、すんみ、蜂飼耳 【本文より】 夫馬 藤枝さんのここ数年間の作品なんかはどう評価されますか。 古井 大変評価しますよ。藤枝さんは文章の奥から出てくるものが粘っこいんですよね。志賀直哉の場合と違いますよね。僕の文章が粘っこいとかしつこいとか、そんなこと言うのはもう了簡違いで、藤枝さんの作品を一度後藤明生さんと読んでいて、やっぱりいいけどオエーッだねって(笑)、そういう感想はあります。 古井 だけど、文学は面白いですか。 福田 僕ですか。文学は……どうなんでしょう。でも、言葉でしか生きられませんね。 古井 僕は砂を嚙む思いが極まって面白いと思っている。まだいい文学ができるという了見はいけないのだろうね。予定調和みたいなね。どれだけスッカンピンになっているかという意識が大事なんですよね。 古井 「死への存在」という言葉を聞かされると、非常に唐突ですが、特攻隊の青年の最期を思ってしまうんです。やっぱり、我が身に引きつけてしまうから、文学を読むように、生きている人間の状態・状況を思い浮かべようとするらしい。一方では中世神秘主義の極致を思い、一方では特攻隊の青年の最期の気持を思う。特攻隊の青年の気持を思いながら読むと結構わかるところがあったりして……。 木田 それはちょっと考えたことがなかった(笑)。 古井 もっと新しい時代、大化改新以後を取っても、日本というのは二重言語の国でしょう。漢文と和文と、漢字と和字と、しかも、漢字と仮名を交えて使っている。 島田 南蛮文化渡来の頃と明治以後はローマ字もね。 古井 表意文字と表音文字。こんな複雑な言語は世界には少ないでしょう。だって、漢文という、もとは中国語のものを日本語にして、そのまま読んでしまう。これ、外国人にはなかなか説明できませんよ。しかも、中国語と日本語は言語の系統が違うんだから。 古井 今の世の中は行き詰まると思う。日本だけではありません。世界的に。そのときに何が欠乏しているか。欠乏を心身に感じるでしょう。そのときに文学のよみがえりがあるのではないかと僕は思っています。 堀江 空白をつくって、よみがえりを待つのか。それとも、どこかにスルメのにおいが漂っているということを、中間的にでも、今、誰かが伝えていくべきなのか。後者だと僕は思います。 すんみ 歌ではどのように上昇志向があらわれているんですか。 古井 微妙なあらわし方だけど、読んでいる心は遠くまでいくような歌があるんですよ。それは西洋の文学と違って、かならずしも上のほうに行くんじゃない。地平にあまねくひろがるような……。これはなかなか豪気なものですよ。

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