政治思想家としてのグルントヴィ

オウェ・コルスゴール / 清水満

2016年1月22日

新評論

2,750円(税込)

人文・思想・社会

デンマークの教育改革者・思想家グルントヴィについては、戦前から日本にも紹介はされていたが、近年では拙著『新版 生のための学校』(新評論、一九九七年)やハル・コック著『グルントヴィ』(小池直人訳、風媒社、二○○七年)などによって、より詳しくその重要性が認識されるようになった。しかしその場合も、彼のアイディアによるフォルケホイスコーレ(民衆の高等教育学校)運動を中心とした教育への貢献が主に語られた。それ以外では、デンマーク文学史における詩の業績が言及されるくらいである。これは本国においても同様で、グルントヴィは何よりも詩人、教育思想家、歴史家、教会改革者であるという位置づけがなされてきた。  現代デンマークを代表する知識人の一人であるオヴェ・コースゴーは、グルントヴィのこれまであまり顧みられなかった面に光をあてている。本書はつまり、彼を「政治思想家」として捉えたものである。たしかにいわれてみれば当然のことで、近代デンマークの国民・国家形成はグルントヴィと彼の影響を受けた人々、とくにホイスコーレ運動に参加した知識人、民衆によってなされた事業である。  グルントヴィは、体系的なドイツ観念論思想に大いに学びながらも、それを批判するために、あえて体系的な思想を構築しなかった。その意味ではポストモダンな思想家である。こうしたグルントヴィの多様なテキストを渉猟し、あちこちに散らばって示されている彼の政治思想を整理した上で、明快にまとめ上げるその技量はコースゴーならではといえる。しかも恣意的な解釈でないことを示すために、第二部にはグルントヴィ自身のテキストも収載している。これを読めば、デンマークがなぜ今日のような民主的な国家となったかの理由の一端がわかるだろう。(しみず・みつる)

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