
イタリア日記(1811)
スタンダール
2016年5月13日
新評論
3,850円(税込)
人文・思想・社会
フランスの作家スタンダール(本名アンリ・ベール)は十七歳のときに、ナポレオンの第二次イタリア遠征で装備点検監督官となった親戚のピエール・ダリュに伴われて、はじめてイタリアを訪れた。彼は最初予備役として、やがては騎兵少尉として、ミラノとその周辺に一年半ほど滞在したが、イタリアは強い印象を残した。それから十年、パリで役人生活を送っていた彼は、一八一一年になって、今度は休暇を得て、イタリアへ初の観光旅行を行なった。八月二十九日パリを出発して十一月十三日まで、懐かしのミラノを中心として、ナポリまでのイタリアを見て歩いた。この周遊を記したのが本書『イタリア日記(1811)』である。 ベールはミラノに着くと、一八〇一年に主計官のジョワンヴィルから紹介されたその恋人のアンジェラ・ピエトラグルアを思い出して訪ねて行き、昔彼女に抱いた恋心を打ち明ける。こうして彼女の交際社会に加わり、やがて彼女と親密な関係を結ぶ。彼は周遊の旅へ出かけることをためらうが、彼女に背中を押されて出発し、ボローニャ、フィレンツェ、ローマ、ナポリの諸都市をはじめて訪れる。彼は旅のあいだにも彼女を想い、早々にミラノへ戻ってくると、近郊の湖水地方にいた彼女を追いかけて行く。 日記では、旅のあいだの観察や思考ばかりか、アンジェラとの再会、恋の進展の様子がかなり率直、かつ具体的に記されている。彼はこの日記を、一八一三年に旅行記へ作り変えようと手を加えるが、発表するまでには到らなかった。しかしこの私的な日記を契機にして、『一八一七年のローマ、ナポリ、フィレンツェ』(邦題『イタリア紀行』)、その増補版『ローマ、ナポリ、フィレンツェ』(同『イタリア旅日記』)、そして『ローマ散歩』など本格的なイタリア紀行文を書き、さらにはイタリアに題材を取った創作へと歩を進めて行く。本書は作家とイタリアを結ぶ布石なのである。(うすだ・ひろし 跡見学園女子大学名誉教授)
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