噂の貴婦人

ヘンリー二世の治世の末期、一一八八年ーイングランドの北部、湖水地方にあるウィンダム城へ戦から帰還した城主イアン・ド・バーグを待っていたのは、愛すべき異母弟の恋の病にまつわるごたごただった。よりによって、国王の末子ジョン公の愛人と噂される女性に夢中とか。しかも彼女は、若い身空ですでに二度も夫に死に別れているという。まだ年若い弟に、恋の手管にたけた宮廷の貴婦人は荷が勝ちすぎる。継母の嘆きを受けて、イアンは弟をいさめるため宮廷に赴いた。レディー・マデリンは、騎士たちの輪の中心にいた。にっこりとほほえむ彼女を見たとき、イアンの胸に衝撃が走った。想像した妖婦というのとは違うが、たしかに魅力的なのは間違いない。イアンは一計を案じ、彼女を宮廷と弟から引き離すことに成功する。武芸大会で手柄をたて、戦利品として彼女の後見の任を得たのだ。レディー・マデリンの憤りをよそに、イアンは彼女ともども所領の一つ、クラグズモアの城へ向けて発った…。