三つの奇跡

「やあ、レッド、また会ったね」相手の男を見て、ハンナは呆然とした。たった今ビルの前で会った、無遠慮でなれなれしい男が、ジョエルだったとは。ミシガン州から、恩師のウィルが法律事務所を構えるボストンに移り、弁護士として再出発しようとしているハンナにとって、唯一の気がかりがウィルのパートナーであるジョエルの評判だった。名門出身、ハンサムで辣腕だが、勝てる弁護しか引き受けないーそんな噂の彼は、ハンナがもっともかかわりたくない男だった。二十年近く前、父親を亡くし、母や兄妹とも離れ離れにされて以来、ハンナは自分ひとりの力を頼りに、今の生活を築きあげてきた。ジョエルと彼女とでは、あまりに生き方が違いすぎる。不幸な女性たちのために奔走するあまり、自分を顧みないハンナ。それを心配するジョエル。だがハンナは、どうしても彼に素直に心が開けなかった。