〔電子〕本の未来

富田倫生

2015年1月12日

青空文庫

0円(税込)

ノンフィクション

この小さな本の成り立ち 一九九七年の二月、私はアスキーから『本の未来』を上梓した。 松籟社という京都の学術出版社の相坂一さんが、この本を読んで、連絡をくれた。 「電子出版に興味を持っている知り合いの新聞記者に紹介したい」 上京された際に待ち合わせ、長く話し込んで別れる間際、相坂さんはそう添えた。 相坂さんの頭にあったのは、讀賣新聞大阪本社文化部の井上英司さんだった。 『本の未来』に加え、『パソコン創世記』も読んでくれた井上さんは、同紙の「潮音風声」という欄に、コラムを書かないかと誘ってくれた。 井上さんは、私より少し若かった。 神戸の甲陽学院高校では、アスキー社長の西和彦さんと同期だったという。高校時代から西さんは特異な才能を感じさせていたようで、「シルクスクリーンで玄人はだしのレコードジャケットをデザインしていた」ことが、井上さんには印象深かったらしい。 「出版とパソコンの双方に興味を持っている」という井上さん相手のやり取りはついつい弾んで、電話も長くなった。 私たちが同じ病気を患っていたことも、二人の話を長引かせた。 一つ一つはごく短かったが、コラムの原稿は連載で十本書くことになった。 締め切りが近づくと、「会社だけでなく、自宅にもファックスしてほしい」と連絡が入った。 体調が優れず、自宅療養と可能な限りの在宅勤務となるかも知れないと言う。 「面白く読んだ」というファックスは、自宅から届いた。 途中まで井上さんが送ってくれたゲラが、終わりまぎわの数回分、別の人から送信されたのが気になった。 最後の連絡を取り合ってから半年が過ぎた十一月二十九日、相坂さんから電話が入った。 前日、井上さんが他界されたという。 受話器を取ったときは、青空文庫のための文章を書いていた。 あのコラムをまとめながら考えていたことを、形に変えたいと願って、私は文庫の試みに加わった。 「この文章を書き終えたら、井上さんが書かせてくれたあのコラムを、小さなブックにまとめよう」 そんな思いが浮かんで、やっともう一度、キーボードに手をのせることができた。 以下の原稿は、一九九七年六月十日から二十三日にかけて、讀賣新聞大阪本社版夕刊に掲載されたものである。 執筆の機会を与えてくれたのは、丸い声でひょうひょうと話す、井上英司さんだった。 目次 この小さな本の成り立ち リターンマッチ 著作権が守るもの 横丁作家 電子書店 本の美しさ 画面の上の本 新しい文章 インターネットと電子本 本が消える日 この道

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