〔電子〕サクラサク、サクラチル

　少し成績が伸び悩む男子高校生が主人公。マイペースの不思議な女の子のクラスメート星さん。成績にうるさいヒステリックな母親。 　登場人物の紹介が一通り済んだところで星さんの壮絶な幼小児期が明らかとなる。ドン引きするほどのネグレクトでありこっちも辛くなる。主人公の環境はむしろ恵まれているようにも想われ、もういいからお前は勉強だけ頑張っておけと話を全てまとめたくなる。主人公は自分の環境に恵まれている点があることも理解しており、成績もとても良く素直ないい子としか言いようがない。　 　ただ、その後明らかになる主人公の家庭も大概であることが分かる。母親はいわゆる教育ママのレベルを超えている。これだけでも読むのが辛くなるのに、その後登場する父親はまさにボスキャラ。 　二人の復讐計画が進行していくが、後のない星さんに対して高志は東大に受かるまで我慢したほうがいいのではとちょっと冷静にもなる。そして親に恵まれない若者2人の幸せな未来へのハードルの高さにこっちも絶望する。 　計画とは別にクラスメートの嫌がらせもヒートアップする。これも単なるいたずらではなく手が込んでいる。でも、高志の姉の気持ちは痛いほどよく分かる。 　最終的な結論は星さんは補助を受けて大学に行き、高志は東大入試を途中で放棄して、親の期待に背くというもの。何となく想像はついたが、星さんの方は復讐でもないし、高志の方はもったいない。大学に行けるのは、いびつな高志の家庭での唯一のメリットだったはずでもある。物語りの終幕としてはふさわしくないが、もう少し我慢して東大に入ってから他の方法を考えたほうがよかったのでは。 　楽しく読めて評価は高いが、学歴はともかくとしてとして勉強の重要性を痛感できる50代社会人にとっては、高志の選択はちょっと微妙。勉強の楽しさも理解しつつあった高志なら、心理学の勉強だって東大に行ってからでも思う存分出来たのに。 　星さんも高志も家庭は歪だが、他人を思いやることの出来る普通にいい子たち。少し心を開けば教室で孤立することもないのにと思いながらの進行であったが、最後のエピローグで少し救われたかな。

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