
〔電子〕教室マルトリートメント
川上康則
2022年4月28日
東洋館出版社
2,200円(税込)
人文・思想・社会
「教室マルトリートメント」。 本書のタイトルであるこの言葉は、筆者である川上康則先生(東京都立矢口特別支援学校)の造語です。教室内で行われる指導のうち、体罰やハラスメントのような違法行為として認識されたものではないけれども、日常的によく見かけがちで、子どもたちの心を知らず知らずのうちに傷つけているような「適切でない指導」を取り上げています。 例えば、事情を踏まえない頭ごなしの叱責、子どもたちを萎縮させるほどの威圧的・高圧的な指導などは分かりやすい例です。しかし、本書ではもう少し掘り下げて、褒めるべき時に褒めないとか、「子どもにナメられるから」という理由で笑顔を見せないといったことについても、教室内を重い空気感で包んでしまう指導として取り上げたいと思います。 「マルトリートメント」という概念は、海外ではチャイルド・マルトリートメント( child maltreatment )という表現で広く知られています。 mal(マル=悪い)+treatment(トリートメント=扱い)で、マルトリートメント。「不適切な養育」「避けたい関わり方」「行われるべきでない指導」などの意味で使われます。 日本の児童虐待防止法で定められた内容(身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待)よりも広い概念で語られ、子どもの将来を案じてよかれと思って行う「しつけ」や、大人が過去に受けてきたからという理由で行われる指導であったとしても、子どもの育ちにマイナスであれば許されていません。マルトリートメントは、子どもの心にトラウマ(心的外傷)をつくるとされ、脳の一部の萎縮や肥大などの変形につながることも、小児神経科医の友田明美氏の研究によって報告されています(参照:友田明美『子どもの脳を傷つける親たち』NHK出版新書など)。 マルトリートメントは、基本的に親子関係の養育において扱われる概念です。 しかし、不適切な関わり方や本来であれば行われるべきでない指導といった視点から見てみると、教育関係者こそ、常に気を付けておくべき概念なのではないかーー。本書では、そのような問題意識のもと、密室空間である「教室」で、「指導」の名の下に子どもたちを傷つけるような関わりが、知らず知らずのうちに行われていることがないか、検討していきます。 例えば、教室でのこんな指導や、子どもたちの反応を見たことはありませんか。 強い叱責、懲罰、締め付けなどの指導がされている 教室ができていない子を報告し合うような監視社会化している 多くの子どもたちが黙って高圧的な教師に従っている 教師の一方的な語りが多く、子どもたちが発言できない空気感が教室を支配している 先生の顔色を見ながら子どもが動いている(考えて動けない) 本書では、違法行為の一歩手前のレベルの「行き過ぎた指導」から、これまでは当たり前に行われていた指導だけれども、改めて考えると子どもの心を傷つける要素をもつ指導まで、幅広く「教室マルトリートメント」として整理していくことを試みます。 そして、教室マルトリートメントに陥らないための予防としての子どもたちとの信頼関係づくりの方法や子ども理解のために知っておきたい発達に関する知識を押さえていきます。さらに、自分が「教室マルトリートメントをしてしまっているかもしれない」という場合に、今すぐに実践したい立て直しから、常に行いたい教師としての自己検証のやり方まで、その改善方法を具体的に提案していきます。 一方で、このような子どもの心を傷つける毒語、威圧的・支配的態度などの不適切な指導が発生する「要因」は、どこにあるのでしょう。その背景に目を凝らしていくと、職員室での人間関係、教師の労働環境、教育界の抱える構造的な問題が立ち現れてきます。 教師という職業に漂う「不安」。 特別支援学校教諭として、長年、障害のある子に対する教育実践を積み、公認心理士・臨床発達心理士でもある著者が、教師の不適切な指導、そしてその発生要因としての現代の教師が置かれている現実というテーマに真正面から向き合った、今この時代だからこそ届けたい、渾身の1冊です。
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