書店員レビュー
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新刊最速レビュー

解かない方がいい謎もある。探偵がいるから事件となる。苦いねぇ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年05月10日

2024年05月10日

小市民シリーズ最終巻。 あまりにも時間が経ちすぎていままでの二人を忘れてしまっている、あるいは初めて手に取った、という人はシリーズを読んでからがよき。 いきなり轢き逃げに会い入院する小鳩くん。 小山内さんの見舞いの品とメッセージ。 「小市民」が生まれた理由。過去の悔い。轢き逃げの犯人。 ちらばる伏線、明らかになる謎。 解かない方がいい謎もある。探偵がいるから事件となる。苦いねぇ。 高校三年の二人。小市民は大学生になっても続けられるんじゃない?舞台を移して、ぜひとも。
新刊最速レビュー

誰もが幸せに暮らせる世界などない。ユートピアなど存在しない。何を切り捨て、何を手に入れるのか。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年05月10日

2024年05月10日

第二次世界大戦での敗戦で、西の大日本国と東の日本人民共和国に分断された日本。ベルリンの壁の崩壊の半年後日本も統一された。 資本主義と社会主義、それによって生まれた経済格差は統一後も埋まることはなかった。 東日本は西日本にとって単なる労働力でしかなく、東日本人たちは自らを二等国民とみなし差別も甘んじて受ける時代が続いた。そして統一三十年を経て沸き起こった東日本の独立への戦い。その中心となるのがテロ組織「MASAKADO」。 テロ活動に巻き込まれた一人の男と、その親友の自衛官。 資本主義と社会主義。差別と格差。正義と悪。正しさの先に掲げる理想。 誰もが幸せに暮らせる世界などない。ユートピアなど存在しない。何を切り捨て、何を手に入れるのか。 分断された社会の、本当の統一とは。 あったかもしれない日本の姿に、お前ならどうする、と覚悟を迫られた。追われるかの如くむさぼり読んだ。
新刊最速レビュー

読みたいのに読めない葛藤の原因について

しまゆ

書店員

2024年05月05日

2024年05月05日

私自身も本を読みたいと思いながら、ついスマホ画面をだらだらと眺めてしまって結局本が読めないまま1日が終わってしまうことが多々ある。(睡眠時間は削りたくない) 適当に切り上げて本を読めばいいと自分でも思うのに、そうしようと思うのにできない。 なぜだろう、と思っていた。 本書は明治時代から現代までの読書史と労働史から、人が本を読めない原因を読み解いていく。 働き方や時代によって読書の目的が変化しているのがとても興味深い。 「知識」を得る手段としての読書も残りつつ、途中から娯楽としての読書が加わり、今では読書の目的は多様になっている。 さて、疲れている時にスマホは見られるのに読書ができない理由。 「ノイズ」という表現になるほどと思いつつ、物語の世界に没入することで癒されるのがわかっているのに私はなぜ本が読めないのだろうとも思う。 結局、「疲れているから」なんだろう。 ということは、働き方を変えるしかないのだろうか。 仕事は好きだけど休日も好きなので、その割合を半々にできたら理想なのに、と常々考えている。 ただこれは個人の働き方を変えるだけでは時給で働く私は収入源で生活が成り立たないし、他にもいろいろ問題がある。 だから、社会の仕組みがそう変わるのが理想だが、残念ながらそんな社会がやってくる気配はない。どうにか変えていけたら、とは思うけれど。 というわけで、あとがきにあるアドバイスを胸に日々の読書の時間を確保していこうと思う。
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感情の激しいアップダウンに振り回されながらも辻堂ゆめの策略にうかうかと乗っかかるうれしさよ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年05月05日

2024年05月05日

物語の序盤、中盤、終盤でこんなにも登場人物の印象が変わるなんて。 交通事故の被害者同志。10歳の年齢差を越えた「友人関係」を築き始めた二人のお互いに知らない関係の変化。 夜になると寝ている私の身体を共有している親友の、その事故前と事故の原因。ファンタジと思わせてのリアル。 感情の激しいアップダウンに振り回されながらも辻堂ゆめの策略にうかうかと乗っかかるうれしさよ。
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被害者とは、加害者とは。「洗脳」の恐ろしさに震えた。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年05月03日

2024年05月03日

プロローグ1ページ目のとある単語見た瞬間、「おお!」と声が出た。2023年に3つのダニット+特殊設定ミステリで度肝を抜かれたあの『星くず 殺人』のその後ではないか!! 格安宇宙旅行で起こった無重力首吊りから始まる連続殺人事件。手に汗握る展開からの、サイコーにいかしたラスト一行まで、とにかく「面白い」に特化したあの一冊の、その後の物語なんて期待が膨らみすぎて破裂しそうだわ。 と、ハードルアゲアゲで読み始めたら、もう止められない止まらない。一気に最後まで駆け抜けましたよ、喜怒哀楽すべてを笑顔と京言葉で表す、女子高校生周と一緒に。 宇宙ホテルから逃れる決死の脱出ポッド、そこからの生演奏生中継。周のとある目的があって流したその配信が炎上。被害者から一転、加害者となった周とそのアーカイブに残された不穏なメッセージをめぐるミステリ。 「勝負は最後に立ってたもんが勝ち」 京都が舞台ってのがいいね。周の京言葉が怒涛のように繰り出すイケズ具合にほれぼれ。 金閣寺が、銀閣寺が、そして京都タワーが、燃えた。誰が、何のために。 被害者とは、加害者とは。「洗脳」の恐ろしさに震えた。 ただ気になる所はあるのだけれどネタバレになるので。
新刊最速レビュー

那智とミクニの指定コンビに新たなる仲間が二人!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年05月03日

2024年05月03日

民俗学×ミステリ。連丈那智シリーズ第二弾。 那智とミクニの指定コンビに新たなる仲間が二人。 まさかの狐目の職員と那智の関係など。 今回フィールドワーク少なかったのが残念。 あと、触身仏での事件。どうやって?という疑問。
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連丈那智のフィールドファイル続々刊行。楽しみ尽きぬ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年05月01日

2024年05月01日

「民俗学とはすなわち広大無辺の情報の海から、任意に取り出した項目を系統学の思想をもって整理し、推理する学問である」 異端の民俗学者連丈那智と助手内藤三國コンビが行く先々で出会う殺人事件。 北森鴻の代表シリーズ。いや、これほんと面白い。民俗学と謎解き。二人のキャラも最高。 連丈那智のフィールドファイル続々刊行。楽しみ尽きぬ。

本屋とは何か、本屋とは誰か

しまゆ

書店員

2024年04月30日

2024年04月30日

私は書店員なので狭義の本屋である。(勤めていた書店が閉店して今は有休消化中だが、次も他社で書店勤務が決まっているので一応現役ということに) 狭義の本屋でありながら、広義の本屋としての勤めも果たしたい。本を売るだけでなく、普段本を読まない人の読書のきっかけを作りたいと考えながら、何もできないままだったこれまでを踏まえ、これからは広くアプローチできないかと考えている。 元職場の閉店に伴い市内の本屋がゼロになってしまったので、迂闊なイベントはできない。「本が買えないのに」と言われかねない。 どうすればいいのだろう。 もちろん、SNSで地域問わず読者を増やすこともしていきたいとは思うが、ずっと頭を悩ませてきた地元の読書啓発もこれからはしていきたいのだ。 どうにかヒントが掴めないだろうかと、積んでいたこの本を手に取った。いろいろ妄想は膨らむものの、現実的にはどうなんだろうと冷静に考えると何もできない気がしてしまう。 こういうのは、勢いも必要か?でも勢いだけでは無理だ。 計画を立てて進めていかねばならぬ。 ひとまず、次の職場になれるのが最優先だと気づく。 安定した収入を確保してから、動こう。 そのために、考えることは続けよう。 読者人口を増やすために。 未来の読者、未来の作家、そして書店の未来のために。

夜の暗さに耐えきれないとき、そっと開きたくなる、そんな一冊。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月29日

2024年04月29日

どうしようもない孤独をそばにいる誰かと抱え合っている人たち。 孤独は分かち合えないけれど、一緒に孤独でいるコトはできる。その安心感なのかな。 5つの寂しい物語たちは、それぞれにタイトルが素敵だ。 寂しくて、誰かにそばにいて欲しくて、でも、素直になれなくて。気持ちがぐるぐるぐるぐる。 そんななかで、ちっぽけな温かさに縋り付きたくなる夜がある。 夜の暗さに耐えきれないとき、そっと開きたくなる、そんな一冊。

一冊まるごと文芸愛がだだもれている

しまゆ

書店員

2024年04月28日

2024年04月28日

よい文章を分析して要点をまとめて文章教室の体を成している。 が。 さすが文芸オタクとタイトルについているだけある。 引用した作家さんに対する尊敬の念と文章に対する愛がただひたすらにだだもれている本に仕上がっていて、これは本好きな人みんなに共感してもらえると思うけど、好き。 こんな愛に溢れた分析本あるぅ?!?! 冷静に文章を分析しているにも関わらず、それを説明する著者の文章は熱い愛に溢れていて、熱量がすごい。 おもしろすぎる。 でも、好きだと思った文章のどこがどのように好きなのかを分析していくと、自分なりの表現が見つかっていくものだからね。大事よね。

「タイトルに惹かれた」それで正解

しまゆ

書店員

2024年04月28日

2024年04月28日

平凡すぎる容姿なのに、人違いにあって事件に巻き込まれていく…… 小説やドラマに時々現れる「巻き込まれ体質」というのを、この主人公は発揮していく。それまで、平凡な容姿が売りで平凡に暮らしていたのに、一つきっかけがあるだけでこんな巻き込まれていくのかというくらい。 「きっかけ」というのは、そこが転機ということだし、そうか、急にこんな波瀾万丈なことになり得るんだと妙に納得。 いく先々に災難が待ち構えていて、それをどう回避していくのかハラハラドキドキでページを捲る。 タイトル通り、間違いなくおもしろいミステリだった。 シリーズ第2弾の『有名すぎて尾行ができない』も読もう。

フィギュアスケート恋愛小説ミステリ仕掛け

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月26日

2024年04月26日

『花束は毒』の衝撃ふたたび、とのことなので、ホラーミステリなのかと思って構えて読み始める。 天才フィギュアスケーターに秘めたる思いを抱える元そのライバル。 自宅のベランダから転落死したコーチ、事故か、他殺か。 愛する人がその死に関わっているとしたら… 単なる恋愛小説ではなくどこからかきっと不穏な世界に入り込んで…とそわそわしながら読んでいたのだけどそわそわにまま終わってしまった。表紙とあおりはこうじゃない方がよかったかも。

方舟を燃やすことで私たちは何を手に入れるのだろう。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月26日

2024年04月26日

1967年、昭和42年、鳥取で生まれた飛馬と、東京の高校二年生不三子。 歳も、環境も、ちがう2人の、昭和平成令和とつながる人生。どこまでも重なる所のないようなそれぞれの人生が、子ども食堂、という接点で繋がる。 世界は嘘や、デマで覆われている。悪意のあるもの、善意に基づくもの、意識的なもの、無意識に生まれるもの。その嘘、あるいはデマに私たちは日々さらされている。 SNSを流し見ているとその嘘とデマの波の激しさと息苦しさと一緒に、ある種の心地よさも感じる。 本当のことかどうかなんて関係なく拡散されていく。信じるか信じないかは自由だから、個人の判断だから、そして誰かの役にたつかも知れないから。 口裂け女やこっくりさん、UFOやスプーン曲げ、そして誰もが震えた恐怖の大王の降臨。そのひとつひとつが懐かしさとともに甦る。周りの友だちと一緒に「恐怖」を味わう、一緒に震える、そこにある共感と共振。 それは戦中の「日本は負けない」という妄信と何が違うのだろうか。 不三子を、働いたことのない無知な女で、自分の信念を人に押し付けて回る迷惑なヒトとして描かないところに、角田さんの誠実さを感じる。そう描けばわかりやすいだろう。愚かな女として、まっすぐ方舟に乗り込むヒトとして。でもこの世に生きるその他大勢の人々はそのほとんどが不三子なのだろう。 自分が得た情報で、自分の頭で考えて、自分でよいと思った道を行く。それが隣にいる誰かにとっては間違ったことであったとしても、それは自分の世界では正しいことだから。でもそれを他人に押し付けはしない。 子どもを産み育てるとき、情報というのは諸刃の剣だ。無知は危険だが、なんでもかんでも情報を仕入れるとただただ混乱する。今日の正は明日の誤かもしれないのだから。 飛馬の間違った情報を誰かに伝えてしまうかもしれない、という恐怖もよくわかる。母親の死の、その本当の理由がわからない限りは、多分どこまでも取りつかれていくのだろう。それでも、そうであったとしても、行動しようとする飛馬の明日はきっと明るいはず。 読みながら感じる寄る辺なさ。この心もとない感覚はなんだろう。 何を信じ、何を疑うか。あるいみ妄信できるものがある人は幸せなのかもしれない。 疑うことなくひたすら救いを来世を信じ方舟に乗りこめる人は、幸せだろう。 方舟を燃やすことで私たちは何を手に入れるのだろう。 私たちは方舟を必要としているのだろうか。自分が方舟に乗る、と、どうやって決めるのだろうか。

ふわふわと柔らかくてにがい出会いと別れが尊い。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月23日

2024年04月23日

「神戸」という街で出会い別れるいくつかの物語。 神戸だからこその不思議な手触り。 人生のまだ一つ目の曲がり角あたり忘れられないであいがあれば、きっとずっとその物語は自分の中で生き続けるんだろうな。 ああ、そうか、生き続けるのは終わってしまったからなのか。ふわふわと柔らかくてにがい出会いと別れが尊い。
新刊最速レビュー

下ネタ満載なので取扱注意(うくく

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月23日

2024年04月23日

みんな大好き宇治拾遺物語の、みんな大好き町田康訳でしょ?読むしかないでしょ、面白いに決まってますし。 誰もが知ってる瘤取り爺さんやら、大河でおなじみ詮子さまの出家やら、孔子様さまやら、おほほほ、うふふふ、と笑って笑ってまうやないかい。 下ネタ満載なので取扱注意(うくく

とりあえず、すき焼きのたれで煮魚を作ってみようか。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月22日

2024年04月22日

原田ひ香の小説には「リアル」がある。 お金とごはん、人が生きていくうえで欠くことのできないその二つを、大げさでない等身大のリアルで描く。 突然夫に離婚を切り出された沙也加と、商店街でつぶれそうな定食屋をいとなむみさえ。二人の女性の生きるための「今日」。 すき焼きのたれとめんつゆと醤油。すべてをその三つで作り上げるさやかの料理に思わず笑ってしまった。でもそれがおいしいことを知っている。 沙也加の離婚問題も、みさえの雑の経営も、ありがちないい話には収まらない。そこが原田ひ香の良さだろう。 常連客との関係や料理のレパートリーや、少しずつ変わっていく雑の今日が楽しい。 とりあえず、すき焼きのたれで煮魚を作ってみようか。

交渉人遠野麻衣子シリーズエピソードゼロ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月19日

2024年04月19日

交渉人遠野麻衣子シリーズエピソードゼロ。 遠野麻衣子がなぜ交渉人になったのか。 特殊犯捜査係交渉人研修が描かれる前半が面白い。 石田警視、かっこいいねぇ。 そもそも、交渉人の適正、とは。 「交渉人は交渉しない」「交渉人は嘘をつかない」

いつも思うけれど、本当にどこかにあるよね、山内。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月18日

2024年04月18日

第9回吉川英治文庫賞受賞「八咫烏シリーズ」最新刊。 単衣からなんと12年!壮大なる和製ファンタジはこれからもずっと続くだろう、とそう思える新たなる第二部第四巻目。 いつも思うけれど、本当にどこかにあるんじゃないか、山内。細かいデティールまでしっかり作りこまれていて、いやはや阿部さんすごいね。 アニメも始まり新たなファンも増えそうだ。
新刊最速レビュー

ぼんやりとは知っていたそのあれこれを、伴走していた人の筆で「小説」として読める価値。 日本のアイドル史に刻まれる一冊。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月18日

2024年04月18日

テレビをあまり見ないし某Jのグループにもハマらずに来た私だけど。彼らのデビューから解散までのアレコレはそれなりに知っているし、この「小説」のメインとなった某番組は何度か見てきた。 国民的アイドルグループがゲストのリクエストに応えて作る本格的料理に目を見張り、その手際の良さにほれぼれした。 ゲストの大物ぶりも売りだったと思う。まさか、この人が!!と。 その番組を彼らと一緒に作り続けてきた放送作家が描く、本当の彼らの姿。 売れなかったデビュー当時、一般的アイドルからの脱皮、メンバーの脱退、東北の震災の時の対応、頂点からの、解散。あの異様な会見の本当の意味。 ぼんやりとは知っていたそのあれこれを、伴走していた人の筆で「小説」として読める価値。 日本のアイドル史に刻まれる一冊。
新刊最速レビュー

文字が踊り文章がうねる。音楽が鳴り見えない指先に誘われるような。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月18日

2024年04月18日

『蜜蜂と遠雷』を初めて読んだときのような情動。 文字が踊り文章がうねる。音楽が鳴り見えない指先に誘われるような。 バレエを始めるには少し遅い年齢だろう、8歳というのは。 でも、出会うべくして出会い、カチっとはまったバレエと春は、前世からの縁なのだろうきっと。 萬春。ten thousand springってある意味最強で印象的な名前ではないか。 プリンシパルであり振付家でもある一人の天才を、3人の視点と春の語りでつづられる。 天才の天才さ加減が、それぞれ天才と呼ばれる立場の言葉で描かれる。 読みながら、気付くと自分も彼らと共に踊っていた。重力から解き放たれ指の一本一本が雄弁に語る妄想。 バレエに関する知識がなさ過ぎて、一つ一つ調べて確認しながらの二読目。物語に一層華やかな色が見えた。 架空の演目に思いをはせる。

捜査の主軸からは外されたている何森と荒井コンビが追う、社会の片隅で生きる女性たちの罪。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月15日

2024年04月15日

デフ・ヴォイススピンオフ 定年間際の刑事何森。捜査の主軸からは外されたている何森と荒井コンビが追う、社会の片隅で生きる女性たちの罪。 技能実習生、単身女性の貧困、入管法…ほかにもまだある、見えないことにされている人たちの痛みと苦しみ。 知ってはいる、新聞で、テレビで、あるいはネットで取り上げられるたび心を傷めたりする。でも、すぐにその痛みも流れていってしまう。 そうやってなかったことにした痛みを、何森と一緒に感じ続けた。 生きていくことさえ困難な、希望の光もないこの国の生活で、それでも罪は罪だと裁くのか。 何秘湯解決しない事件たち。読後残る混沌と不全感こそがこの国の現実なのだろう。
新刊最速レビュー

自分のルーツを求めるつむぎの心の旅。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月12日

2024年04月12日

不妊治療には様々な種類と、様々な段階がある。 多分その中でも子どもを望む親にとっての最後の砦が凍結胚移植だろう。保険の適用に回数制限もある。 これでダメなら諦める、そういう治療法。 それはいろんな問題を含む。医学的な、社会的な、そして倫理的な。きっちりと決められているわけではない、その壁。だからこそ生じるグレーゾーン。 そのすべてを承知してなお、子どもを願う親たち。 子どもにとって、自分が望まれて生まれてきたのか、親に愛されてきたのかというのは切実な問題。普段は意識することもないであろうことだけど。 自分の存在を、誕生を、ただ一人だけでもいいから肯定して欲しい、そう思うこともあるだろう。 父親と母親の間から、望まれて生まれてきたというそれだけにすがることもあるだろう。 18歳のつむぎの家庭は複雑だ。事故で早くなくなった両親の代わりに育ててくれた遠縁のヒト。義母との借りものような生活。そこにあるのは当たり前の愛情ではない、別の何か。 自分のルーツを求めるつむぎの心の旅。 あまりにも深く大きくいびつなその現実をこの先も抱えて生きていくのだろう。将来自分が子を持ちたいと思ったとき、その現実はまた別の形でつむぎの前に現れるのだろう。乗り越えて欲しいと思う。真摯に受け止めて欲しいと思う。 ただ、どうしても18年前の決断が正しかったとは思えない自分がいる。
新刊最速レビュー

全脳みそ動員して楽しむ。これこれ、これが太田忠司小説の魅力なのよ!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月12日

2024年04月12日

10年前の通り魔殺傷事件。 そのトラウマで引きこもりになり再生回数も稼げない引きこもりユーチューバー。 そして同じ中学の後輩にあたる女優。 まったく別のベクトル上にあった二人の人生が同窓会をきっかけに動き出す。 これこれ、これが太田忠司小説の魅力なのよ!とワクワクそわそわとページをめくっていく。 この違和感がいつか伏線になるよね、とか、あぁこれがきっとあぁなってこうなって、とか、全脳みそ動員して楽しむ。そして、ドミノのようにひっくり返される予想。 中学時代のいじめ、被害者を追い込む教師の正義。 この「正しさ」への反感が最後に共感として腑に落ちる心地よさ。 読み終わった後、一点残る不気味に嫌な感じも含めて満足感に浸れる一冊。

最高の医療グルメ青春お仕事小説。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月10日

2024年04月10日

地方周産期医療の過酷な現実。命の最前線であり、最後の砦でもあるんだな。 現役ドクターならではのリアルな描写と、伊豆のおいしいものががっぷりよつに組んで最高の医療グルメ青春お仕事小説となっている。 パワハラモラハラの権化、老害、時代遅れ、という悪評ばりばりの教授のもとに派遣された若き専門外の医師。って、この教授絶対ヤなやつじゃんと、思わせておいて、の、この展開。どこを切っても読みやすく面白い。しかも、お腹が空くし、感動もしちゃう。こりゃいいもの読んだぜよ。

ここからはじまる新シリーズ。きたさんときたさんの捕物帖、だけど実は…

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月09日

2024年04月09日

いやぁ、やっぱり宮部みゆきサイコーだね。 最初から最後までたっぷり面白い。 これぞ宮部ワールドって、納得の新シリーズ第一巻目!これからずっときたきたシリーズを読める喜びよ。 「きたがきたがきたはきたへ行くところだった」こういうとこが好き。

幕末医療小説ではなく武士の信念のお話

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月09日

2024年04月09日

幕末の漢方蘭方医療のリアル。それぞれの考え方、効果、限界などがよくわかる。 タイトルのことを忘れて読んでいて、すっかり医療小説だとばかり思っていたところでのミステリ展開。 「父がしたこと」、しなければならなかったこと、その重みと意味。小納戸頭取(というお役目を初めて知った)の立場としては正しい選択なのだろう。そこは納得なのだけど。 ちょっと思うところはありて。

からっぽを埋めるための意識高い系的意識

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月08日

2024年04月08日

Z世代、意識高い系。今の十代後半から二十代の若者たちのことか。 高学歴で高スペックなのにどことなく薄っぺらい。従順で温厚で体温の低そうな彼らを知るための仕様書のような。 沼田という一人の捉えどころのないオトコとかかわることで人生が動いていく若者たち。 結局沼田って何者だったんだろう。一章ごとに変化する沼田の印象。嫌悪したり、同調したりしつつ、少しづつプラスが増えていった暁のラスト。 このもやもやは、自分の中の沼田成分への嫌悪なのか。そうなのか。
新刊最速レビュー

私は誰に何を届けたいのかな。届けられるうちに自分で届けようかな、そんなことをつらつらと考えている。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月05日

2024年04月05日

ある日突然、亡くなった人から宅配便が届いたら。 そりゃ、びっくりすわね、そしてその届いたものの意味を考えるだろうね。 これは、不思議な、ファンタジなんかじゃなくてきちんとしたお仕事の話。 生前に本人が依頼したお届け物たち。 だからこそ、そのお届け物を受け取ったひとは、戸惑いながらもその意味を考え、そして本当の意味でそれを受け取っていく。 生きている誰かに、もういない誰かの思いを届ける。いなくなった後だからこそ届けられるものもある。でも、受け取った側はきっと思う。生きているうちに受け取りたかった、と。そして、語り合いたかったと。 私は誰に何を届けたいのかな。届けられるうちに自分で届けようかな、そんなことをつらつらと考えている。
新刊最速レビュー

うぇ?のあとの、あはーん。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月05日

2024年04月05日

一つの家族がその存在に終止符を打つ。それぞれバラバラに生きることを決めた最後の日。 その日へのカウントダウンのさなかに起こった謎の事件。 全員が容疑者!? 元旦に千キロの道のりを疾走するミニバン。誰もが誰もに期待していないのに謎の一体感が生まれていく。 なんなんだ、この躍動感は。 家族小説なのにミステリで、しかもロードノベルって、どんだけ盛沢山なのよ。 伏線の狙撃手によるどんでん返し。うぇ?のあとの、あはーん。

ラノベよりの恋愛小説かと思記や、孤島本格ミステリだった。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月03日

2024年04月03日

ラノベよりの恋愛小説かと思記や、孤島本格ミステリだった。 恋愛リアリティーショー×推理劇in無人島 Whoは分かってもwhyとhowは分からなかった。 盛沢山の要素のなかの連続、二重の密室殺人事件。恋愛リアリティーショーが内包する危うさ、それを見る側の匿名の攻撃。 ミステリの向こうにある警告に心がざわつく。
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