3・11後の自衛隊

迷走する安全保障政策のゆくえ

岩波ブックレット 843

半田 滋

2012年7月5日

岩波書店

616円(税込)

人文・思想・社会

東日本大震災では、10万人以上の隊員が被災地支援に従事し、自衛隊の活躍が注目された。改めて国内外での災害救援活動が期待される一方、現実には、海外派遣の任務がなし崩し的に拡大されるなど、より軍事的組織への変貌が進む。知られざる活動の実態や、普天間問題をめぐる米軍の思惑などを緻密な取材で浮き彫りにし、安全保障政策のゆくえを問う。

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3.3 2018年01月28日

中国初の空母「遼寧」の発着艦試験が行われ、中国共産党機関紙「人民日報」がその「成功」を大きく報じた。少し前には東海艦隊と南海艦隊が東シナ海と南シナ海で、尖閣などを念頭に置いたと考えられる軍事演習を行った。習体制下の中国が東シナ海、尖閣、南シナ海に領土的野心を持つ意思表示とも見る事ができる。 これに対して日本の国防体制はどうなっているのか。自衛隊は憲法上も法律上も多くの制約に縛られている。自衛隊は国内的には軍隊ではないため、軍事力をもって国民を安心させることができず、国外的には軍隊であると受け取られている。だから自民党安倍総裁は東京都内での講演で、国防軍について「海外では軍隊でなければただの人殺しだ」と改めて必要性を訴え、集団的自衛権の行使も「必要だ」と繰り返した。政治性はさておいて 国民の一人として、改めて我が国の国防がどうなっているのか、私たちの生命・財産はキチンと守られるのか、素朴な疑問が湧いてくる。 対中国戦略として具体的には、防衛計画の大綱で政府は海自の潜水艦を16隻から22隻に増強するとともに、対潜ヘリコプター9機を搭載する特大のヘリ空母型護衛艦を建造することを決めた。潜水艦の音を感知する護衛艦用の新ソナーシステムも開発する。新型のPー1哨戒機10機も追加装備することが決まっている。海上自衛隊が打ち出した対中国戦略が、冷戦終結後、米海軍が担ってきた戦略を補完するものと言える。冷戦時はソ連、現在は中国の潜水艦の監視を続ける米海軍との一体化がさらに進むのだ。 本書は、新聞記者として防衛省、自衛隊、米軍の取材を20年以上続けている著者が、震災救援活動や海外派遣、普天間問題で揺れる、「東日本大震災後」の自衛隊と米軍の実像に迫ったルポルタージュである。 東日本大震災に際しての救援活動では、原発事故への対応や、避難所における被災者支援など、自衛隊の活動が大きく評価された。また、近年行われている海外派遣先での活動も、多数の支持を集めており、自衛隊に対する好感度は過去最高の水準となっている。しかし、外側だけからみたものと現実の自衛隊とはどう異なっているのか。さらには、日米安保体制のもう一方をなしている米軍との関係は、どうなっているのか。 本書では「トモダチ作戦」の背景にあるアメリカの国益や、普天間基地辺野古移転案の裏側、在沖米軍の「抑止論」の真相が紹介されている。日米安保条約は、一般にその「片務性」が指摘されるが、著者は「片務性とは、米軍が日本に基地負担を強いるだけの存在であることを示す言葉に他ならない」と言い切る。いま求められているのは、憲法を変えて対米追従的に活動を展開する自衛隊ではなく、「人助け」のための自衛隊を最大限生かすことだと、著者は主張する。パワーオブバランスで成り立っている現在の国際秩序に著者の主張は果たしてどれだけ通用するのだろうか。また、感情的愛国論は論外としても、右傾化著しい昨今の国民感情の中で政府は辛抱強く現在のポジションを貫き通す事ができるだろうか。そしてその行き方は国際社会で尊敬を得られるだろうか。疑問は尽きない。

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