書店員レビュー
1件~30件(全6,831件)
新しい順評価順いいね順
表示件数:
30
  • 30check
  • 50
  • 100
新しい順評価順いいね順
新刊最速レビュー

読み終わって圧倒的な悲しみに暮れている。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月10日

2024年03月10日

読み終わって圧倒的な悲しみに暮れている。 この悲しみがどこからきたものなのか、なにをこんなに悲しいと思うのか、と考えていて、その悲しみが完全なる喜びと表裏一体だと知る。悲しむことができる、という喜び。 これは日本の『アルジャーノンに花束を』なのか、いや、カズオイシグロの『クララとお日さま』なのか、とも思ったけど正直、まだ自分の中でうまく咀嚼できていない。 愛することや悲しむことが生まれてくる源をたどる旅。それを感じることのできないただただからっぽの身体と心をもてあます  さんの、その孤独に震えている。いえ、ちがう、そんな孤独さえ感じることのできない命の、その存在の意味を問い続けている。
新刊最速レビュー

なぜ令和の世の、この現代社会において家族と一緒に暮らしているオトナが餓死するのか。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月10日

2024年03月10日

大好きなこのシリーズの第5弾目は「悲嘆」 誓い、憂鬱、試練、悔根、ときて、悲嘆。連作短編として一章ごとにこの言葉の重みを増していって、最後に最大の悲嘆が訪れる。誰のか、とは言わないでおきましょう。 今回のテーマは「引きこもり」と「餓死」。なぜ令和の世の、この現代社会において家族と一緒に暮らしているオトナが餓死するのか。 親子の、夫婦の、外からは見えない複雑な関係と思惑が悲しい事件を生んでいく。 古手川と真琴が持ち込み、光崎教授が開いていくのは死者の身体ではない。死を通して語られる真実そのものだ。

現実世界とは違った意味で女が強いられるあらゆる不自由と苦しみ

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月06日

2024年03月06日

女が女として生まれ女として生き、女として死んでいく。それは一本の道で繋がっているわけではないということが痛いほどわかる。生と性の中にあるのは喜びでも苦しみでもない、言葉にできない感情。 妊娠するためには男を喰らわねばならぬという女の性、女に喰われ妊娠させる以外に何の役にも立たないという男の性、そこには想いも愛も介在しない未来。 そして妊娠と出産は女にしかできない特権的役割だ、ということさえ揺らぐ未来。そこにある女の喜びはあるのだろうか。現実世界とは違った意味で女が強いられるあらゆる不自由と苦しみ。 いつか、遠い未来に女が女として生きていく苦しみを消せる日がくるのだろうか。 読みながらぞわぞわとした触手がまとわりついてくる。そのぞわぞわの根源にあるのは、嫌悪なのか、憧憬なのか。まだ答えは見つかっていない。
新刊最速レビュー

紙の上の白と黒。日本人はそこに色を見、無限の広がりを感じ取る

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月06日

2024年03月06日

版画ではなく「板画」。ゴッホのひまわりに心を奪われ日本のゴッホになるべく一生をかけた棟方志功の、その人生。 極度の貧乏、極度の近眼、そして極度の情熱。 その作品はよく知っていてもその人生については全くと言っていいほど知らなかった。 原田マハの描くスコさの人生が、温度を持って目に飛びこんでくる。 紙の上の白と黒。日本人はそこに色を見、無限の広がりを感じ取る。スコさが極彩のひまわりに心惹かれながらも白と黒の世界に最高の美を追い求めたのも、日本人のその血のゆえか。 極度の近視というハンデをアドバンテージに変えていった熱量に圧倒されつつ、スコさの底抜けの明るさに魅了され、ずっと笑顔が絶えない読書時間だった。 スコさの成功は本人が引き寄せた偶然と運もあるけれど、なんといっても最愛の妻チアによるところが大きい。なんと大きな妻の力か。その妻を射止めたスコさのチヤへの公開ラブレターにはまいった、いやほんとに、まいった。これぞ幸せの見本なり。
新刊最速レビュー

全然関係ないけど、阿部さんはBUMP OF CHICKENのファンじゃないだろうか

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月03日

2024年03月03日

『パラ・スター』で車いすスポーツのリアルを描いた阿部さんだからこその青春小説。 車いすユーザーの六花と、入学式の日に駅でのひったくり事件を機に知り合った伊澄のふたりの成長小説ではあるのだけど、単なる青春小説で終わらないところが阿部小説の魅力。 担任の態度やクラスメイトの態度や対応にイラっとしながら読んでいくのだけど、そのイラっとする気持ちがそのまま自分へと突き返されていることに気付いて深く内省。 障がい者への対応や、無意識の差別、そこに悪意がないところに難しさがある。その辺りをとてもしっかりと描いていてこの世界に生きる老若男女すべての必読書ではないかと思う。 将来の自分に夢見ていた少年少女が、その夢を失ったとき、その先の長い長い人生をどう生きていくか。 なぜ生まれてきたのか、どうして生きているのか、なんのために生きていくのか。 誰もが手探りで探しているその問いへの答えは多分ずっと見つからない。 それでも今日を生きる。今を生きる。その一秒を紡ぎながら生きていく。 知らないことが誰かを傷つける。良かれと思ってしたことが誰かの可能性を摘む。 だから、知ろう。いろんな人がいる。自分とは違う誰かを知ろう。そう世界はとてもカラフルなのだから。 全然関係ないけど、阿部さんはBUMP OF CHICKENのファンじゃないだろうか、とふと。
新刊最速レビュー

いったいこれは何なんだっ!面白すぎるではないか、お梅!!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月02日

2024年03月02日

500年の封印から目覚めた呪いの人形〈お梅〉が令和の世で現代人たちを恐怖のどん底へといざなう… なんて、ことは一ミリもなく!!! いったいこれはなんなんだっ!面白すぎるではないか、お梅!! 500年の変化をものともせず、あっという間に適応するその能力たるや、みごとなり。 いや、呪うつもりがなぜかみんな幸せになっていくってどうよ、呪い人形として。 なんてツッコミながら読んでいくと最後に見事に美しく回収される伏線たち。 おもろいではないか。お梅。ちょっと欲しいぞ、お梅。
新刊最速レビュー

そしていなくなったのは誰だ。どうやって。何のために。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月26日

2024年02月26日

館ものってどうしてこんなにそそられるんでしょうね。 ミステリの大御所が建てたいわくありげな館に招かれた関係者。外は大雪。突然開幕する謎の事件… 読みながら怪しげな伏線を追いつつ、ダニットに全力で挑む。 そしていなくなったのは誰だ。どうやって。何のために。 とあるしかけとトリックには気付いたけれど、あぁ面白かった、と思ったラストに開くもう一つの扉。そうでしょそうでしょ、そう来なくっちゃ、とニヤニヤ。
新刊最速レビュー

スポ根モノになじめない人に、熱いだけの青春スポーツ小説に物足りなさを感じている人におススメしたい。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月26日

2024年02月26日

青春スポーツ小説、と聞いて頭に浮かぶのは、熱血、根性、執念、汗と涙と挫折、そして栄光、か。 けれど、この『八秒で跳べ』はそんな今まで読んできた青春スポーツ小説とは違う読み心地に満ちていた。 まずもって主人公の景には、チームのみんなと力を合わせて勝利を勝ち取るんだ!という熱い心も、自分自身の可能性を極限まで広げ高めるための血のにじむような努力も、そしてライバルと切磋琢磨して頂上を目指すんだという気合も見当たらないのだから。 どこか冷めた目で部活をこなす。中学からのチームメイトを自分より格下だとなめている。練習試合でのケガのせいでチームに迷惑をかけたことにたいする罪悪感がない…って書いてくるとどうしようもないイヤなやつに思える。このまま終わったらイヤミスならぬイヤスポーツ小説になるじゃないか!と不安がわいてくるのだが、その不安が実はかつての自分自身の中にあった周りへの冷めた感情由来のものだと気付いて、愕然とした。 景の出口のないまま蓄積しているもやもやには、覚えがあるぞ、と。だからこんなにもイヤな気持ちがわいてくるのか、と。 自分自身が部活にたいして血と汗と涙に塗れながら根性論全開で全力投球していたことも、がんばることに意味を見出せなくなって消化試合の様に過ごしたことも、両方経験があるからこそ、景の姿に嫌悪と同調が同時に湧き上がる。 部活ってなんだろうか、なんて考えたこともなく、将来の自分に何のプラスにもならないことさえ部活の意味だと思っていたころから、どうせその道のプロになるわけでもないんだし、全国大会までいけないなら進学にもプラスになるわけでもないし、と適当にこなしていたころまで、その全てに身に覚えがありすぎて胸が痛む。 でも、いや、だからこそ、不思議な元クラスメイトとの出会いや、見下していた仲間の全力の努力が、景の内面の変化を誘う、その流れがリアルに感じられる。 スポ根モノになじめない人に、熱いだけの青春スポーツ小説に物足りなさを感じている人におススメしたい。
新刊最速レビュー

刹那の愛しさを描いた三編が、とげとげした心を優しく包み込んでくれる

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月07日

2024年02月07日

人はなぜ川の流れに心惹かれるのだろうか。 悲しい時、寂しい時、元気がない時、ぼーっと川の流れを眺めていると心の中にある灰色のもやもやがいつの間にか流されていくからだろうか。 ままならない毎日の中で持て余す自分の心を、川に流れが優しく慰撫してくれる。少女の、これから新しい命を生み出す女性たちの、そして薄れていく過去の記憶の中で今を生きる女性の。あ、カラスもいたわ。 水の流れに時間を重ねて、人は歴史を紡いできた。流れていった時間は戻らない。今、そこにある水が永遠にとどまることもない。だけど、いや、だから、人は川の流れを求めるのだろうか。 刹那の愛しさを描いた三編が、とげとげした心を優しく包み込んでくれる。

女が一人で生きていくことの困難さと同時に、丁寧に、きちんと生きていく尊さも教えてくれる。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月07日

2024年02月07日

大正末期から戦後までの、日本の社会が大きく変わった時代を生きた二人の女性。 女が自分一人の力で生きていく選択肢なんて、そうたくさんなかった時代の物語。 若いうちにいい婚家先を見つけて嫁ぎ、子を産み育て、夫や親に仕え内を守っていくこと。それが当たり前の、普通の女の人生。その「当たり前」や、「普通」から外れてしまったとき、女はどうやって生きていくのだろう、いや、そもそも生きていけるのか、という時代。 平凡で地味で存在感が薄くおとなしい千代が嫁いだ裕福な家、そこにいたのは大柄でエラのはった女中頭の初衣。奥様と女中、主と従、その時代であればそこには越えられないはずの一線があるはず。でもおっとりとして少々ぼんやりとした千代と、しゃきしゃきとした初衣の間にあったのはそんな通り一遍の関係ではない,一種の同志のようなつながりがあった。 それぞれにそれぞれの想いを抱えて、ともに生きていた時間の長さと濃さよ。 この小説は女が一人で生きていくことの困難さと同時に、丁寧に、きちんと生きていく尊さも教えてくれる。 誰かのために食事を作ること、限られた中で工夫を凝らし、少しでもおいしく食べてもらうこと。 生きることってそういうことから始まるのだな、と改めて思った。 千代が抱える困難と、初衣が抱える問題は全く別のようで、その根幹は同じところから始まっているのだろう。相手を励ますために、「そんなこと気にしなくても大丈夫」と言うことがある。でも、その悩みと苦しみは、当人にしてみれば何年もの時間が経ってもくすぶり続け、決して消えるものではない。 ただ、消えることはなくても無くすことはできるのかもしれない。 それぞれに身体と心に秘密と傷を抱えた二人にとって、ともに、あるいは離れて生きた時間は、そのために必要な、長い長い時だったような気もする。 二人の出会いと別れ、そして運命の再会。その時間のすべてが二人の、これからの人生の、大切な序章だったのだろう。 これは、嶋津輝が高らかに歌いあげる千代と初衣が、そして私やどこかにいる誰かが自分自身の人生を生きていくための人生賛歌だ。

加賀恭一郎が阿部寛の顔で浮かぶ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月06日

2024年02月06日

リドルストーリー 容疑者は二人。どちらかが彼女を殺した。 最後まで、もしかすると、が続く。 最後まで読んでも、どちらが真犯人なのかわからない。 読み手の推理力が試される。 加賀恭一郎と被害者の兄の対決がドラマチック。

汝で流した悲しい涙が優しく慰撫されていく

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月02日

2024年02月02日

感想再記録。 『汝、星のごとく』の単なる続編やスピンオフではない。汝の登場人物たちの、汝には描かれなかった物語たち。人物が、物語が立体的に浮かび上がってくる。 人を愛するということ。その愛の様々な形を凪良ゆうが丁寧に繊細に紡いでいく。 汝で流した悲しい涙が優しく慰撫されていく。

父と娘の物語は一本に繋がるのか

しまゆ

書店員

2024年01月31日

2024年01月31日

幼い頃に家を出て行った父親を探す記者と出会い、自らの父親の現在について調べ始める。 父親が残した7つのおとぎ話に散りばめられた真実を辿り、父親と関わりのあった人たちへのインタビューから人物像を組み立て、そして感動のラスト。 自分の記憶の中の父親と、母親の知っている父親と、それから仕事で関わりのあった人たちから見た父親と。 その全てが少しずつ違うのも当然なわけで、1人の人間であっても、多数の人間から見た時それぞれによって印象は全く違うなんてことも多々ある。 本人とその人の関係性や立場も深く関係してくるから。 しかし、自分の中の当人と本人の差異についてはどうだろう。 これはもう「理想と現実」のような話になっていく。 「こうであって欲しい」を無意識に押し付けてはいないだろうか。 知らなかった一面を知ることが、その人本人に近づく一歩なのかもしれない。 父親の残した7つのおとぎ話が、暗く深く沈んでいくような危うさを抱えていて、そこがまたおとぎ話らしくとてもよい。

蠱惑的な美しさゆえの恐怖

しまゆ

書店員

2024年01月31日

2024年01月31日

“本の背骨"という言葉が本好きの好奇心を刺激してきますね! 紙の本が禁止された世界での「本」とは…..... もうこの世界がたまらないです。 本を愛しすぎた人たちによる「本」。 短編集なのですが、表題作はじめどれもこれも蠱惑的な魅力を放つ物語でした。 エグい描写が多めですが、読んでいる間はそのエグさより、文章と言葉選びの美しさにより落ち着いた恐怖が際立ちます。 叫び出したくなるような恐怖ではなく、その先が気になって仕方ないような、静かな恐怖です。 斜線堂さんは本当に、どんなジャンルでも素敵に描かれる作家さんです。ミステリも恋愛も、SFも、ホラーもファンタジーも。 ジャンル問わず本を読まれる方は要チェックですよ! 何読んでも面白いので、斜線堂さんだけでどのジャンルにもおすすめ対応できてしまうの、書店員的に頼りすぎちゃいそう...…気をつけます。笑

大人が楽しめるファンタジ要素てんこもり。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月28日

2024年01月28日

ド直球のファンタジが苦手なので敬遠していた一冊。それでも気になって少しずつ読み始めて途中からは最後までは一気読み。予想以上に面白かった。 読みながらのいくつかの予想と仮定が全部外されてしまった…こんな終わりはつらすぎる。 壮大な物語の序章。ここからレーエンデ国の長い長い物語がつながっていくのだろう。 大人が楽しめるファンタジ要素てんこもり、多分好きな人はこの先もずっと追い続ける世界。 ただ、この壮大な世界感をあえて崩す登場人物たちの軽い言動に好みは分かれるかも。 とはいえ、トリスタンは最高だ。

布団の中で少しずつ読んで眠りにつくのにぴったりな一冊。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月25日

2024年01月25日

アドヴァンス・ヒルという新築マンション。そこの住人たちが近所の公園にあるカバのアニマルライドに触れることで傷ついた場所を癒していくお話。 参考書のようなマンションの名前がいいよね。アドヴァンス。みんな身体や心を傷めているのに、前向きな感じで。 近所限定の都市伝説の様に語られる「カバヒコ」の特別な力。治したいところと同じ場所に触れるとそこが回復していく、という。多分、健康であったなら、そんな子供だましな、って笑い飛ばすであろうその「伝説」に頼ってみようかな、と思わせるのもカバヒコの力。 一話ずつ回復していく同じマンションの住人たちがとあるクリーニング屋さんを中心に少しずつつながっていく。このつながり方と、最後の展開は青山小説の大きな魅力。
新刊最速レビュー

読み終わった瞬間に第三弾を求めている自分がここにいる。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月23日

2024年01月23日

会えなかった時間をかみしめるように読んだ。 こんなに待ち遠しい続編って、なかなかないよな、としみじみと。 その幸せを堪能するためゆっくり読もうと、思っていたのにのにのに! もううれしくて幸せで一気読み。 成瀬は成瀬のままでやっぱり最初から最後まで成瀬だ。 でも不変成瀬と進化成瀬がちょうどいい塩梅で、もう私の中の島崎が踊り狂っておりましたよ。 変わらずにいて欲しい気持ちと変わった成瀬への共感と。 新しい登場人物たちもみんな魅力的で、成瀬の吸引力というか巻き込み力というか世界の中心で成瀬史を叫びたいっ! とにかくはやくリアル成瀬とアタクシも遭遇したい!なぜアタクシのそばに成瀬はいないんだ!みんなずるいっ!!と思ってしまう。 いったいなんなんでしょうね、この成瀬への募る思いは。 成瀬が好きすぎて、読み終わった瞬間に第三弾を求めている自分がここにいる。
新刊最速レビュー

家族だから、家族なのに。そんなしがらみを越える力を見せてくれる。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月20日

2024年01月20日

「補導委託」という制度を初めて知った。 家裁に送られてきた問題行動のある少年を一定期間預かる、という制度。保護司という一般人のボランティアが出てくる小説はいくつもあるけれど、この補導委託というのは珍しい気がする。 普通の家庭で問題のある少年を預かる、というのはいろんな意味でものすごくハードルの高いことだと思う。 どんな問題行動があるのか、危険はないのか、ちゃんと生活させられるのか。 そんな役目を家族に相談もなく引き受けた南部鉄器職人の父子の物語。 ただでさえ父親と息子ってのは一筋縄ではいかない面倒くささがあるというのに、そこにある日突然入り込んできた他人、しかも問題あり、ってそりゃ戸惑うし反対もするでしょう。 自分自身にや母親に対する父親の愛情の無さと、引き受けた少年への父の愛情深さとのギャップに苛立つ主人公悟の、その心の揺れがわかりやすい。 その父と息子の間の溝をいい感じで埋めてくれる二人の職人。この二人のキャラがいいんだ、とても。 長く働いている職人と、風来坊助っ人職人と。彼らと父息子と接することで、自分と自分の家族の持つ歪みにあらがう力をつけていく少年。本当はこんな風にうまく行くばかりじゃないとは思う。受け入れる側も受け入れられる側も納得いかないことの方が多いだろう。 それでも、他人と身近に接することでしか手に入れられないものがある、そして他人を挟んで初めて見つけられる家族の問題もある。 家族だから、家族なのに、そんなしがらみを越える力を見せてくれる。
新刊最速レビュー

モリミーがホームズを描く!?しかも舞台がヴィクトリア朝京都って!!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月20日

2024年01月20日

モリミーがホームズを描く!?しかも舞台がヴィクトリア朝京都って!! いやもう設定だけで満足してしまいそうなこの物語。 単に舞台だけを京都に移してモリミー的あれこれそれこれを詰め込んだ多重的多角的ホームズ譚なのか、と思いきや! スランプに陥り引退宣言するホームズ。ロンドンと京都をつなぐ謎。これどうやって着地するんだろう、と不安になるほど広がる風呂敷、からの終盤。 いやぁ、意外としっくりくるんじゃないの、京都の221B。
新刊最速レビュー

なんとなんと、正真正銘マジもんのファラオの密室でしたよ!いやはやびっくり!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月14日

2024年01月14日

「ファラオ」というのが何かの比喩なのか、と思いながら読み始めたのだが、なんとなんと、正真正銘マジもんのファラオの密室でしたよ!いやはやびっくり! 舞台がエジプトで探偵がミイラ、って、もうね、これ以上の特殊設定ありませんよ。極みです極み! でもって、その極みの謎解きが本格ミステリと来た日にゃ、五体投地するしかないね全く。 最後の最後まで読ませるところも、さすがこのミスって感じでよき。 あぁ、面白かった。

NHK朝ドラにぴったりな人と人の出会いから始まる日本近現代モノづくり物語。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月11日

2024年01月11日

関東大震災から令和まで。 日本製の、国産ジーンズを作りたいという祈りにも似た思いのバトン。 何の気なしに毎日履いているジーンズが、こんなにも多くの時間と多くの困難と多くの人の手を経て生み出されてきたのか、とその遠い道のりを想う。 寡聞にして未知だったBOBSONジーンズの歴史。 まさにNHKの朝ドラにぴったりな人と人の出会いから始まる、日本の近現代史のモノづくり物語。

南北朝時代の歴史に疎くても面白い、けど、予習してから読むともっと面白い(多分

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月07日

2024年01月07日

正義のありかをだれもが見失っていた時代。 南朝再興をかかげた者たちの果てしない闘い。 歴史と歴史の間に埋もれた「あったかもしれない」あるいは「あったのであろう」戦いにのめりこむ。 南朝と北朝、それぞれにそれぞれの義があるのだろうが、その戦いの中であまりにも多くの血が流れ過ぎた。住む所を終われ親を失い生きるために戦士となる子どもたち。彼らの行く末に未来はあるのか。彼らの戦いに義はあるのか。
新刊最速レビュー

今どきの京ことばで今どきのチャラさで描かれる光君に親近感。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年01月07日

2024年01月07日

2024年の大河ドラマの予備知識や予習として最適なのでは? 高校の国語でさらりと習うくらいの源氏物語。たくさんの人が原作にトライして途中で終わっているであろう「タイトルはよく知っているけど読了していない」この1冊がこんなに身近に簡単に読めるなんて。読まない手はない。 桐壺から葵までの9帖だけなのだけど充分「源氏物語」を堪能できるのでは? 今どきの京ことばで今どきのチャラさで描かれる光君。これを読んでから瀬戸内寂聴や角田光代の源氏に移行していこう。いろんな方の源氏を読み比べるための予習。
新刊最速レビュー

読み終わった後、どれのどこが好きか語り合いたくなるね。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2023年12月28日

2023年12月28日

いやこれすごいと思いませんか? 一冊の中に34編!34人の作者! 1話4分で読めるという話題の超短編集。 この短さで「どんでん返し」しかも「大」を繰り出す作家の力よ!! SFあり、ホラーあり、時代小説あり、恋愛小説有、ってもう盛沢山すぎて泣ける。 読み終わった後、どれのどこが好きか語り合いたくなるね。
新刊最速レビュー

誰もが知ってるゲームにこんなルールを付け加えていくなんて、青崎さんって天才なの?

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2023年12月26日

2023年12月26日

いやもうヤバいくらい面白いではないかっ! 頭ン中フル動員で挑戦…なんてできるわきゃないっ。己の頭の悪さを思い知らされましたわ。 誰もがよく知っているゲームに誰も知らないルールを付け加えたニュータイプゲーム。ゲーム名もいいねぇ。地雷グリコ、坊主衰弱、自由律ジャンケン、だるまさんがかぞえた、フォールーム・ポーカー。 洗練されたルールで戦うのが高校生ってのもいい。 それぞれ戦う理由のある頭脳バトル。「何かを得るため」の戦い。 絶対的勝利を重ねていく主人公射守矢真兎のゆるふわちゃらんぽらんなキャラもいいし、友人鉱田ちゃんの存在も光る。光るねぇ。最終バトルの後、明らかになるアレで稼働しすぎて加熱した脳みそがすっと洗われる。 そうだ、これは頭脳バトル青春友情小説なのだな。

マチ先生と阿闍梨餅を食べながら最期の時を過ごせたら幸せだ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2023年12月24日

2023年12月24日

読み始めはどうしても神カルの栗原先生と重ねてしまって、あれ?そんな年?なんて戸惑いもあったのだけど。 少しずつ丁寧に丁寧に読んでいくうちにマチ先生ワールドにどっぷりと浸っていく。 大学病院で将来を期待されていた医者が、なぜか町の病院の終末医療に携わっている。 医学の進歩に貢献するのも、自宅で家族に看取られながら逝く人を看取るのも、どちらも医者にとっては大切なこと。どちらがどうとは言えない。それぞれにそれぞれの使命感がある。どちらの先にもあるのは人の命。 人の死が人の生活から切り離されて久しい。目の前で消える人の命をほとんどの人は知らない。病院にまかせていくのも悪いことではない、そこにはそれぞれの考えと事情と思いがある。 そんな中でただ自分の家で最期を迎えたいと、迎えさせたい、と願う人もいる。生半可なことではない。人の命を預かる責任と苦しみもある。それでもなお、と願う人によりそうのがマチ先生だ。 京都の街を舞台に、甥っ子と暮らす超甘党のドクター。腕がいいだけじゃない、優しいだけじゃない。大切な人を遺して逝く人の気持ちを知っているからこその、医療。 京都の風景とおいしいお菓子、そして人を想う人の心の温かさ。 ギスギスした攻撃的な毎日に疲れた心にさらりと流れ込む優しい時間。続編早く読みたい。

聡里に、おばあちゃんがいてくれてよかった。心からそう思う。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2023年12月10日

2023年12月10日

父の再婚相手に虐げられ心に傷を負った主人公が引き取ってくれた祖母の支えのもと獣医師をめざじて北海道で自分の道を見つけていく物語。 モノ言えぬ動物たちの命を預かる獣医師という仕事の、その過酷さと困難さを描くとともに、人が生きていくうえで一番大切なものは何か、ということを教えてくれる。 獣医学科の勉強や実習が細かくリアルに描かれているのだけど、その分、主人公の周りの人たちとの関係性が少し抑え気味。主人公の成長へとつながった、もっとややこしい人間関係のあれこれや、感情のやりとりがあってもよかったのに。 そして義母のしうちのひどさに怒りがこみ上げるが、何より許せないのは父親の脆弱さ。どんな言い訳を並べようとこの父親だけは許せないっ。
新刊最速レビュー

美しく華やかでそして残酷な平安時代の宮中絵巻ミステリ仕立て、だけど涙。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2023年12月02日

2023年12月02日

百人一首で見かける名前。あるいは「栄花物語」の作者として教科書で見かける名前。 その程度の知識しかなかった赤染衛門、その人の物語。 2024年の大河で描かれる紫式部が白髪交じり姿というのも新鮮だけど、絢爛豪華な平安時代の宮中の物語なのに主人公が50代後半というのも意外といえば意外だったり。 その赤染衛門が女性向きの歴史書「栄花物語」をなぜ書こうとしたのか、そしてそこに何が描かれているのか。此の世をわが世と思うと言ってのける傲慢極まりない藤原道長と、眼病に苦しみながらも道長に抵抗を続ける居貞天皇とのすさまじい争い。そしてそこに生まれたとある事件の真実。このある意味ミステリ的要素が読ませるんだな。真実が知りたくて朝児と共に最後まで駆け抜ける。 複雑怪奇な平安時代の人間模様。物語だからこそ描ける栄華の陰の悲しみ。華やかさの裏にある嫉妬や策略陰謀に翻弄されながらも、人と人との間にあるまっすぐな感情に触れて涙。
新刊最速レビュー

底抜けに明るい空の透明さではなく、掬い上げた黒い沼の水の透明さがここにはある。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2023年11月26日

2023年11月26日

一穂ミチが犯罪小説集を出すだとっ!?というのがとっぱじめの感想。 恐る恐る手に取って読み始めたら、もう止まらない。 短編集にこそ一穂ミチの筆はさえるのかもしれない。 一話、二話、三話、と罪という名の石を飲み込みながら読んでいく。 このまま飲み込み続けたらきっと自分は犯罪の沼で溺れていくのだろう、と。 でも一穂ミチはそんなに簡単な黒い沼には浸させてくれはしない。 「犯罪」という中に存在する罪の色。こういう罪もあったのか。 溺れかけていた身体が少しずつ浮かび上がっていく。暗い沼にいるから見える光の環。 これでこそ一穂ミチ。底抜けに明るい空の透明さではなく、掬い上げた黒い沼の水の透明さがここにはある。
新刊最速レビュー

神に愛されていたのは、誰か。神とはなんなのか。暗闇を照らす一条の光が見えた気がする

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2023年11月15日

2023年11月15日

才能ってなんなんだろうな、と。 何かを作り出すというのは自分の中から勝手に飛び出してくるものではないのだろう。そういうことも最初はあるだろうけど、それでもそれを続けている間に、自分の中にある何かを絞り出すように、あるいは切り刻んで取り出すように生み出していくものなのだろう。 若くしてデビューした「天才」と言われる二人の女性作家。高校時代の先輩後輩にあたる二人の、その関係。 お互いにお互いの才能を認めているからこそ、お互いの作品を愛しぬくからこそ生まれる別の何か。 二人の関係が、それぞれの視点で語られることによって、そこにあったもう一つの世界が露になる。 名前を見ることで、物語の全体像は早い段階でわかる。だからこそ、物語に奥行きが生まれるのかも。 モーツァルトとサリエリの関係を、小説に溶け込ませた愛と憎しみの物語。 本人には見えていない感情のボタンの掛け違いが痛みと共に読者に伝わる。違うんだよ、と言いたくなる。 神に愛されていたのは、誰か。神とはなんなのか。暗闇を照らす一条の光が見えた気がする。
キーワードは1文字以上で検索してください