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新刊最速レビュー

最後に見える風景の、切なさと優しさと温かさ

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月22日

2024年10月22日

探偵遠刈田が招かれた富豪の米寿の祝い。会場は個人所有の孤島。嵐の日、そこで起こった富豪失踪事件…って完全にクローズドサークルミステリじゃないですか! どう転がっていくんだ?次々一族が死んでいくのか?犯人当てか?はたまた「一万年愛す」なんて不思議な名前の時価35億の宝石をめぐる骨肉の戦いか? と勝手に思い込みながら読んでいくと物語は思わぬ方向へと進んでいく。 45年前の主婦失踪事件との関係は? 最後に見える風景の、切なさと優しさと温かさこそが吉田修一小説のキモ。そして新たに加わる○○風味。 過去から続く愛の罪。
新刊最速レビュー

少しずつ明らかになる真相。そこからの展開は全く予想しなかった地平へと続く

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月19日

2024年10月19日

緊急搬送されてきた溺死者は自分と瓜二つだった。兄弟がいないはずの医者武田が受けた衝撃。 身元不明遺体はいったい誰なのか。なぜ死んだのか。そして自分との関係は。 ここまでで十分に不気味で謎めいた設定であるのに、実際にはそれはほんの序章にすぎないというね。 「キュウキュウ十二」と呼ばれる遺体の身元を調べ始める武田と旧友城崎。少しずつ明らかになる真相。 けれど、そこからの展開は全く予想しなかった地平へと続く。いや、もう、びっくりしてのけぞりながらのめりこみましたよ。 読者が受けるこの衝撃の瞬間をこっそりとのぞき見していたい。 まさに「禁忌の子」。現役ドクター作家さんが増えている今日この頃ですが、その中でも山口美桜さんには大注目。 これはかなりの話題作となるはず。
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それぞれに一途な思いが綾なす物語に震えるような思いでページをめくり続ける

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月19日

2024年10月19日

親を亡くし後ろ盾もない一人の少女がしなやかに強かに、自分の信念に従い自分の力で生きる道を切り開いていく。 「戦争」という理不尽の塊の中で、真珠細工師になるという夢を叶えるため猪のように突き進む冬美。 冬美、早川薫、火崎剣介。三人のそれぞれに一途な思いが綾なす物語に震えるような思いでページをめくり続ける。 女は男の補助的仕事をしていればいい、表に立つことなく男を立てることこそ美徳、という時代に男だけの仕事に風穴を開け閃きと根気で誰もを納得させ説き伏せていく美冬に心から拍手を送りたくなる。けれど、女が家庭と仕事を両立していく困難を、どうしても思わずにいられない。それは令和の今も変わらず横たわる問題だ。 戦時中にも営業を止めなかった帝国真珠の、漂泊と染色の技術。捨ててしまっていた傷や汚れの付いた真珠に新しい命を吹き込む。それを思いつき試行錯誤しながら会社の新たな事業にまで展開していった少女たちの潜在的力にほれぼれする。 戦争が、偏狭なしきたりが、凝り固まった思考が奪っていった多くの宝もの。 そこに可能性という光を掲げ続けた冬美のこれからの物語も読んでみたい。

伏線が幾重にも織り込まれた苦くも美しき復讐劇。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月19日

2024年10月19日

SF的特殊設定+多重解決しかも本格ミステリ 両親を殺された少女と、ビルから突き落とされて幽霊となった青年。二人がタッグを組んで目指すのは「真犯人への完全犯罪」。 無力+無力の最弱バディが練りに練った完全犯罪。 何度も繰り返される「真実」。本当の犯人は、誰。あの日、何が起こったのか。 伏線が幾重にも織り込まれた美しき復讐劇。 読後、このボリュームに愛おしささえ感じるだろう。真犯人に目星がついてさえも、最後の最後まで謎解きを楽しめる一冊。

トラウマジュブナイルミステリ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月15日

2024年10月15日

トラウマジュブナイルミステリ。 児童文学として三十年以上読み継がれてきた衝撃の一冊。 保険会社のテレビCMに出てくる家族、といえば絵にかいたような幸せ家族だろう。みんなが笑顔で幸せそうで、見ている側もほのぼのするような。 そんなモデルに選ばれた一つの家族の、崩壊ドキュメント。 プロローグで明かされる語り手の思い。5人家族の中でひとりだけ生き残った「ぼく」が、その「事件」のひとつひとつを語る。 衝撃、戦慄、嫌悪。幸せな家族に起こっていた本当のこと。 犯人については最初から目星は付く。なのにどうしようもなく最後まで読んでしまう。 「その頃はやった唄」に沿って次々と家族が死んでいく、その理由が知りたくて。 「幸せな家族」の幸せとは。いや、これ本当に児童書なんですか??
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海になぜ人は惹かれるのだろうか。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月13日

2024年10月13日

海の見える街。そこに住む他人同士。どこかですれ違い、どこかで関わりを持ち、けれど通り過ぎてしまうほどの関係の他人同士。 そんな人たちの人生の、ひとかけらを描き出す。 海の見える街。そこに住む他人同士。どこかですれ違い、どこかで関わりを持ち、けれど通り過ぎてしまうほどの関係の他人同士。 そんな人たちの人生の、ひとかけらを描き出す。 海になぜ人は惹かれるのだろうか。 寄せては返す波をぼんやりと見つめる時間を、人類のDNAが求めるのだろうか。 うまく行かない毎日の中でふと惹かれる波の音と海の色。 寂しい時、泣きたいとき、人は海を求める。世界中の涙が集まって海になったからか。そこからやってきた涙をまた返すために海に行きたくなるのか。 カツセマタヒコの小説の透明な優しさに包まれる。 ただ一か所。氷塊、溶けて流れる。のラストだけは受け入れにくかった。 父親への憎しみを、自分の子どもと同じ年の妹を持つ父親へのわだかまりを、こんな風に溶かして流せるのだろうか、と。 捨てられた母が新しい人生を歩いているとして、夫と息子が勝手に和解していたら、ちょっとイヤだろうな、と思ったりなんかして。 。 寄せては返す波をぼんやりと見つめる時間を、人類のDNAが求めるのだろうか。 うまく行かない毎日の中でふと惹かれる波の音と海の色。 寂しい時、泣きたいとき、人は海を求める。世界中の涙が集まって海になったからか。そこからやってきた涙をまた返すために海に行きたくなるのか。 カツセマタヒコの小説の透明な優しさに包まれる。 ただ一か所。氷塊、溶けて流れる。のラストだけは受け入れにくかった。 父親への憎しみを、自分の子どもと同じ年の妹を持つ父親へのわだかまりを、こんな風に溶かして流せるのだろうか、と。 捨てられた母が新しい人生を歩いているとして、夫と息子が勝手に和解していたら、ちょっとイヤだろうな、と思ったりなんかして。
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神から最も遠いところで生きているような人々の、それでも神を近くに感じている物語

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月13日

2024年10月13日

神から最も遠いところで生きているような人々の、それでも神を近くに感じている物語。 世界はメジャーでまわっている。マイナーに属する人々は神の視線からは外れているのかもしれない。いや、全知全能の神なら外れている人々などいないのかもしれないが。 それでもどこかの片隅でちいさな人生を送っている人々の、その日々たち。 何かを生すため、とか、何かを変えるため、とか、そういつ大それた人生でなくても、それでも昨日から今日に、そして明日に続く毎日を生きている。 そんな一編を切り取った6章。 最終章「ちょっとした奇跡」がとてもとても好きだ。 奇跡の一瞬の鮮やかさと尊さ。希望の光のカケラ。
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生きることの厳しさを、誰かと生きることの優しさを、どちらもきちんと見せてくれる、そんな小川糸の誠実さを私は信頼している

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月13日

2024年10月13日

『食堂かたつむり』『ライオンのおやつ』そして『小鳥とリムジン』 どうしようもなく生きている。生きていくために食べる。 命のみなもとが生きたいと泣いている。小川糸の小説を読むと心の深いところが温かくなる。 悲しくてつらくて寂しくてどうしようもないときに、そっと背中を撫でてくれる手が欲しくなる。 その手の温かさを小川糸は物語で紡いでくれる。でもその温かさは甘さだけではなく、苦さもからさもみんな含んだ温かさなのだ。 生きることの厳しさを、誰かと生きることの優しさを、どちらもきちんと見せてくれる、そんな小川糸の誠実さを私は信頼している。 小鳥の苦しみを救った二人の男性に、心から感謝したくなる。 人のために何かをすること。人に何かをしてもらうこと。その当たり前のやりとりを人生で初めて知った小鳥の、新たな生まれ変わりの物語。 ただ、物語では描かれなかったあれやこれがとても気になるので何とかして欲しいです(笑
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苦しいのに何度も読み返したくなる。青春ミステリの新たなる名作。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月04日

2024年10月04日

本当の私。本当のあなた。本当の気持ち。本当の嘘… 主人公が生きた「青春」と、味わった「絶望」を、二度と繰り返さないために他人と深く関わらずに生きてきた時間。 一本の電話でその封印していた過去を確かめに戻っていくこと。 近未来に導入されたとある制度。その関係を表す言葉の、二重の意味。 読みながら彼の、そして彼女の思いに胸を刺される。 本当のことなんて、誰にも分らない。同じように、本当の嘘も誰にも分らない。 分からないから生きていけるのかもしれない。 彼らの、もしかするとあったかもしれない未来を思い本を閉じる。 自分ならどんな道を選んでいただろうか。 苦しいのに何度も読み返したくなる。青春ミステリの新たなる名作。

表紙の美しさも含めて、これはずっと読み続けていきたい。ぜひともシリーズ化を!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月29日

2024年09月29日

父親の跡を継いで本所で岡っ引きとなった佐吉と、着道楽な町医者秋高。二人が解く町の事件たち。 時代小説であり捕物帖であり本格ミステリでもある連作短編集。 いやはや、まいったまいった。めちゃくちゃ面白いではないか。 新米岡っ引きが秋高の「医者としての目」からの助言をもとに事件の隠された真実に迫っていく。 事件の裏にある悲喜こもごも。ニヤリとしたり切なくなったり。 表紙の美しさも含めて、これはずっと読み続けていきたい。ぜひともシリーズ化を!

山岳純文小説。ラストがサイコー!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月27日

2024年09月27日

山岳小説ってなんでこんなに面白いんだろうね。 「バリ」ってなに?「バリ山行」って何て読む。から始まった芥川賞受賞作読書。 会社でのあれこれはきっと頷きながら読む人多そう。そしてそこからの登山からのバリエーション登山。そうかバリってバリエーションのことか。 正規のルートから外れ、道なき道を行く、って山では危険すぎるでしょ! でもそういう山登りの仕方があるんだな、寡聞にして未知。 妻鹿さん、いいよね。なんか不思議な魅力をもってるよね。そしてラストよ、ラスト!!これサイコーのラストじゃない?

50歳の幼馴染同士が共に過ごす時間の尊さよ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月27日

2024年09月27日

何も起こらない普通の日々。それぞれのすべてを見てきた友だちがそばにいる日々。そんな毎日の尊さをしみじみと思い知る。 幼馴染みが同じ団地にいること。50歳になってもだらだらぐずぐずと部屋で過ごせる友達でいること。けんかしてもいつのまにか元通りになれる仲でいること。 その奇跡のような関係は50年という時間につながっているんだろう。 もしかすると何度も切れてしまいそうなこともあったかもしれない。それでもどちらかが手を伸ばしてどちらかがその手をつかんでそしてだらだらぐずぐず過ごせる時間の中へと戻ってきたのだろう。 いいなぁ、と心の底から思う。そんな友だちがいることも、そんな友だちと一緒に過ごせる部屋があることも。 でも、この先どうなるんだろう。団地が建て替えられることになったら… 同じ団地にいるからこそのこの関係。別々のマンションなんかに引っ越してしまったら終わっちゃうのだろうか。 いや、でもまだしばらくは大丈夫。建て替えはまだ先のはず。それに二人には大切な使命があるのだし。 団地のおばちゃんたちが困っているときに助けてあげる、という大切な使命があるのだから。
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自分以外の誰かと過ごす時間の尊さ

しまゆ

書店員

2024年09月25日

2024年09月25日

人間が苦手で動物が好きだという人は、結構多いように感じる。 でも、美苑のように明確に動物となら意思の疎通(会話)ができることが理由の人はそうそういないのではなかろうか。 いたとしても多くはないだろう。 動物とならきちんと会話ができて言いたいことも言えるのに、人間との会話はどうにもうまくいかない。 家族であっても何を考えているのかさっぱりわからない。そんな時は会話が足りていないのだろうとも思う。とはいえ、会話をしたところでうまく思いを言葉にできなければ伝わるものも伝わらない。 動物たちはどう思うだろう。 大切に思う人間が、自分とは言いたいことも言い合えるのに、他の人間とだとうまく喋ることができず関係を築くことができないとしたら。 負担だと思うより、心配になるのではないだろうか。 私はこの小説を読みながら、「自立するためには依存先を増やすことが重要」ということを思い出した。 ひとつの何かや1人の誰かに依存するのではなく、1人の自分として生きるためにはたくさんの人を頼る必要がある。 動物たちはそもそも依存という関係には陥らないのかもしれないけれど、人間は簡単に依存に陥ってしまう。 相手を大切に思うからこそ、そして相手からも大切にされたいのならば、1人だけに依存すべきではないと思いつつ、地力で交友関係を広げるのは難しい。 依存する相手の言葉を素直に聞き入れるのが難しいことだってある。突き放されたような感覚になり、つい反論してしまう。 そんな状況は、誰にも覚えがあるのではないか。 私は若い頃にそんなことがありすぎて頭を抱えるほどだ。 そして、誰か1人に依存してしまうと、自分自身とは何かということを見失いがちだ。 「この人のために」が先に立ち、自身の意見も何もかなぐり捨てて生きてしまうから。相手がそんなことを望んでいなくても、自分を捨ててしまうのだ。 自分がより自分らしく生きるためにも、依存先は多い方がいい。 たくさんの人の力を借りて、たくさんの人に影響を受けて、そうして「自分」が作り上げられていくのだ。 自分のことがよくわからない人ほど、たくさんの人と会話をすべきだと思う。自分の本音はなかなか自分では聞き取れなかったりするけれど、たくさんの人と関わりを持つことで、自分の本音が聞こえてくるようになるのだから。
新刊最速レビュー

伝えたいことが伝えられないもどかしさと苦悩とひねり出したその方法。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月24日

2024年09月24日

「大切な人に、どうしても伝えたいことがある」 この一点をテーマにこんなにもバラエティ豊かな物語を紡ぎだすなんて!さすがだな、斜線堂有紀。 5つの物語、5つの設定。それぞれの設定自体がぶっ飛んでいるのに、その中心が「伝えたいことの伝え方」というシンプルなものだというね。 いやぁ、面白いわぁ。伝えたいことが伝えられないもどかしさと苦悩とひねり出したその方法。 ニヤリとしたり、切なくなったり、感情もフル回転。それぞれ推しができそうな5編。
新刊最速レビュー

二人の存在を賭けた闘いの切実さに息をのむ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月24日

2024年09月24日

グラフィティとは。 なんとなく街中で見かけていた不思議な落書き。丸まるっとしていて独特のフォントでなんて書いてあるのかよくわからないけど共通の何かのある文字たち。 あれが「グラフィティ」という一つのアートのジャンルであったとは。 第一章でその「グラフィティ」についてルポのようにつづられていく。タグ、スローアップ、ピース…スマホ片手にいろいろと調べながら読んでいく。 日本のバンクシーと呼ばれるブラックロータス。彼の登場でグラフィティに新しい波が生まれる。 グラフィティの意義、なぜ彼らは街中にボムするのか。何のために。 そこからの第二章。 二十年間第一線でボムし続けるTEEL(テエル)と、ブラックロータスの、闘い。 イリーガルとリーガル、残すことと残さないこと。オレはここにいるんだ!という叫び声のクールな熱さ。 それぞれの存在を賭けた闘いの切実さに息をのむ。 これはクライムノヴェルではある。けれど、ここにあるのは続けてきたことを終わらせるための勇気と覚悟を問いかける切なさでもある。 あぁ、そうなのだよ。これを読むとある一定の年齢以上の人は切なくなるんじゃないかと思う。
新刊最速レビュー

物語の持つチカラ。それを読み解き分かち合い重ね合う気持ちよさ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月24日

2024年09月24日

記憶とか思い出とか、そいういうものはいつのまにか欠けたり忘れたりする。そういう失くしてしまったモノたちを一緒に過ごした誰かが補ってくれたら思い出たちはまた生き返ってくる。 忘れてしまったら埋め合えばいい。そういう仲間がいればいい。 20年続く読書会。メンバーは78歳から92歳。月に一度集まって一冊の本を朗読し合い感想を語り合う。 お菓子を食べながら思い思いに語り合う。というか、勝手にしゃべりたおす。 こりゃ、まとめるのが大変だ。 連絡事項は聞いちゃいない。聞いてても忘れちゃう。でも、ちゃんと月に一度集まって、朗読し合って、語り合えちゃうのって、すごくない? なんだろうね、このパワー。 物語の持つチカラ。それを読み解き分かち合い重ね合う気持ちよさ。 こんな風に一緒に時間を重ね合える仲間がいるってものすごく贅沢なこと。この時間のかけがえのなさは、彼らがともに歳を重ねていったから。そして楽しい時間も彼らの未来もそうそう長くはない、という現実。 メンバーひとりひとりに人生の記録がある。その20年の一部分を共有し合うだけだろうと、彼らにとっては宝物のような時間なのだろう。 いつかいなくなるだろう仲間たち。そういう現実も描きつつ、それでもなお物語をよんでかたる楽しみを、その大切さをぎゅっと心の奥までしぼりこまれた気がする。 20年前は58歳から72歳の集まりだった彼ら。そこから月に一度の時間を、思い出を重ね合ってきた尊さ。 読書会の会場は小樽にある喫茶シトロン。雇われ店長は28歳。自称小説家。二冊目が出せないままの彼が読書会の世話役になってからの変化。そして乱入してきた小樽文学館の井上さん。この二人の若者がとてもとてもいい。井上さんの爆速自虐口上を生で聞いてみたい。 20周年記念の読書会の本が『誰も知らない小さな国』ってのがまたいい。 これは、私が小学生の時大好きだった一冊。コロボックルに会いたくて、小さな国に行きたくて大人になってからだけど北海道まで探しに行ったのだ、コロボックルを。 でも今回彼らと一緒に物語をなぞっていてそういう話だったのか!と正直驚いている。 小学生だった自分には読み取れなかった世界が大きく広がっていた。 よむよむかたるの世界で私もメンバーの1人になっていたのだ。そうか、読書会ってこういう場所なんだ、と。 読書というパーソナルな楽しみを、仲間と共有する楽しみに変えてくれる読書会。 思い出を、記憶を分かち合える仲間と読書会をしたい、心底そう思う。

ありとあらゆるものを扱っているけれども。

しまゆ

書店員

2024年09月22日

2024年09月22日

本はこの世に存在するものから存在しないものまで、ありとあらゆるものを扱っているものだと思う。 その本を扱う本屋もまた然り。 何かに悩み、切羽詰まって本屋に駆け込む人もいるだろう。 著者の森田さんは普段から「話しかけられやすい人」だという。 そういう人は仕事中でも話しかけられやすいことが多いが、森田さんのこれは「話しかけられやすい」のレベルを超えている。 結構深いところまで話されているというか、もはや相談されている。読んでいると相談の内容の幅広さもあり、まるで占い師のエッセイなのだけど、森田さんは書店員なので本をおすすめすることでまとめている。 おすすめしている本のジャンルも多種多様。森田さんは本当にたくさんの本を読む方だ。様々なことに興味を持つというのは、生きていく上で大切なことだと思ってはいたけれど、人助けにもなるということを本書で改めて思い知らされた。
新刊最速レビュー

麗子お嬢様と楽しい仲間たちの進化を楽しむため定期的刊行を!!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月20日

2024年09月20日

風祭警部は相変わらずすっとこどっこいだし、愛里ちゃんはゴーイングマイウェイだし。ただ影山のドSっぷりは少々控えめだったかも。もっと暴言はいてもよろしくてよ。 しかしまぁ、何年たっても面白い。ミステリを軽やかに楽しめる一冊。 麗子お嬢様と楽しい仲間たちの進化(してるのか?)を定期的に観察したいのでぜひとももっと短いスパンでお願いします、東川さん!
新刊最速レビュー

木爾チレンの冷徹な視線、そして求め続ける希望への意思を感じる

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月20日

2024年09月20日

卒業式の日に、担任によって仕掛けられた特別授業(デスゲーム)。 女子高のとあるクラスで行われていたいじめ。その対象となった「特定の生徒」にからむいくつかのルール。 27人の生徒たちが「二人一組」になれなかった者から壮絶な死を迎えていく。これはいったいどういうことなんだ。 一章ごとに語られる「被害者」。彼女と特定の生徒との関係。 クラスの中でのカースト。一軍から三軍までに自ら振り分けられていく生徒たち。そこにあるのは「処世術」。 今日の親友が明日自分をいじめ始めるかもしれない。 生徒たちは、息を殺し、周りを伺い、うまく生き延びていくために隣にいる「友」の手を離す。 こんな地獄のような時間を過ごしているのか、いまの中高生は、と。 SNSによっていじめの形は変わった。わかりにくさ、と見えにくさ。その中で今を必死で生き延びようとするのは「罪」なのか。 体育の授業で、あるいは教室で、何気なく発せられる「二人一組になってください」という指示。 そこに存在する「悪意」をここまで赤裸々に描き出す、木爾チレンの冷徹な視線と、そして求め続ける希望への意思を感じた。
新刊最速レビュー

ここには、「近い将来あり得る怖さ」が詰まっている

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月13日

2024年09月13日

ここには、「近い将来あり得る怖さ」が詰まっていた。 医療機器として導入されたエモーション・コントローラーが一般家庭電化製品として手軽に使えるようになった近未来。 強い不安や恐怖、激しい後悔のような負の感情を和らげてくれる。使用後12時間ほど続く自己肯定感、万能感。そこで終わっていたら気軽に使えるリフレッシュ機械としてなんに問題もなかっただろうに。 理解不能な凶悪な事件の発生と、エモコン使用度の関連性。その危険性にいち早く気付いた精神科医葛西の奮闘がそれほど前面に押し出されるわけではないところも、じんわりとした怖さのゆえんかも。 エモコン使用者による「夢の国」のための事件が多発する中で、それが原因だと思っても止められない葛藤、それがとてもリアル。依存症の怖さ。 何も明らかにならない。何も解決しない。ただ、じわじわと侵食してくる怖さが残る。 数年後、あるかもしれない、怖さ。
新刊最速レビュー

苦しみや悲しみを乗り越えていく強さは、どこから生まれてくるものなのだろうか

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月13日

2024年09月13日

戦争孤児の姉と妹。親戚の家をたらいまわしにされる間に形作られていった二人だけの決意。 でも二人きりの家族の長い長い時間は、それぞれの時間とそれぞれの意味を積み重ねていく。 誰にも邪魔されない、誰にも気兼ねしない、二人の夢を詰め込んだ大きな家。 そこでの暮らしを夢見て、その夢を実現するために耐え続けた二人が最後に手に入れたものは… 現在と過去と、そしてその途中を行き来することで明らかになっていく二人の人生。 誰かのために生きること、誰かと一緒に生きていくこと。 苦しみや悲しみを乗り越えていく強さは、どこから生まれてくるものなのだろうか。 お互いがお互いを思い合うことって本当は誰のためなんだろう。 相手のために我慢することって本当は誰が耐えていることなんだろう。 優しさが、思いやりが、純粋でまっすぐなはずのその思いが小さないき違いで絡まっていくこともある。その現実が切なくて苦しくて。 誰かのためにがんばっていることが、本当は自分のためかもしれない。それを認めることはある意味とてもつらいこと。それでもかつて同じ夢を見ていた二人なら、きっと分かり合えるはず。 そんな二人の物語を、優しく温かいだけで紡がない菰野江名のシリアスな目を、私は心底信じる。

現代にも当てはまる時代企業小説。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月04日

2024年09月04日

三重は津藩の藤堂高嶷(とうどうたかさと)の元、藩の財政改革の大ナタを振るおうとした若き郡奉行茨木理兵衛。 利益が一部の人間に集中するのを防ぐため行ったいくつかの施策。実績を重ねる理兵衛。けれど、彼の知に走りがちな性格は誤解を生み、一枚岩で名高い藤堂藩がきしんでいく。 画期的な政策「地割」が百姓と旧弊勢力の怒りを買い理兵衛はおいつめられていく。そして大規模な百姓一揆(安濃津地割騒動)へ。 言っていることは正しい。けれど正しいことを言うだけでは人はついてこない。 頭の中では完璧な理論と数字で成り立つはずものもがなぜうまく行かないのか。なぜみなが納得しないのか。 若き理兵衛の悩みと苦しみ。 組織で働くということ、人の上に立つということ、人を動かすということ。現代にも当てはまる時代企業小説。
新刊最速レビュー

全てが明らかになったときのカタルシスよ!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月01日

2024年09月01日

「百花演劇学校」演劇に携わる人材育成のための女子エリート教育機関。 と聞いただけですでにぞわぞわする。神と天才がせめぎ合う、才能と才能がぶつかり合う。 舞台、という芸術に魅せられた若きエゴがひしめき合う園で、事件が起こらないはずがない!! 生徒からも教師からも神としてその才能を認められた一人の女生徒の、舞台上での転落死。 事故か、殺人か、あるいは自殺か。真実を求めて入学してきた少女の存在さえ不可解な謎に包まれている。 誰もが怪しい。マクベスを柱に一つ一つ疑惑を消していく過程もスリリング。 そしてたどり着いた「真実」。 あぁ、いくつも手掛かりはあったのに、いくつも伏線が貼られていたのに。 誰もが心に抱える奈落。堕ちるか、堪えるか。 全てが明らかになったときのカタルシスよ!

佐渡金銀山+ミステリ。ぐうたら侍吉太夫無双。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年08月31日

2024年08月31日

“佐渡”といえば、貴人の配流先、ニッポニアニッポンつまりトキ、そして金銀山。 その佐渡島を舞台にした時代ミステリ。 元禄、金や銀を生み出す島が、その産出量の激減に悩む。いかにして島を存続させるか。 そんな佐渡で連続する「事件」。遺された大癋見(おおべしみ)の面。誰が、なんのために。 新しく送り込まれてきた佐渡奉行荻原彦次郎。広間役のぐうたら侍間瀬吉太夫と見習い生真面目な振矩師(ふりがねし)静野与右衛門のデコボココンビが真相を追う。というミステリ。 佐渡、という特殊な島ならではの背景と舞台装置を存分にちりばめ、そこに吉太夫という謎の素浪人をぶっこんだ設定。時代小説になじみのない読者にも読みやすい展開。これはもっと読まれていい一冊。

千両役者の上をいく万両役者、森田座気鋭の役者今村扇五郎に魅せられた者たちの狂いゆく歯車

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年08月30日

2024年08月30日

江戸三座 中村座の次は森田座が舞台。 千両役者の上をいく万両役者、森田座気鋭の役者今村扇五郎に魅せられた者たちの狂いゆく歯車。 芝居のためなら犬を殺しその血を搾り取る、扇五郎、そして扇五郎の芸を支えるため己の「女」を捨てて尽くす妻のお栄。 火に惹かれる虫のように集まりくる人々。日常から外れて踏み込む甘美で辛酸な罠。 扇五郎に惚れぬき、惹かれゆく心の危うさを蝉谷めぐ実の筆が艶やかに妖しく描いていく。
新刊最速レビュー

嘘に塗れた世界と自分を真正面から突きつけられる

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年08月25日

2024年08月25日

人気アイドルが三か月でいきなりマッチョに!? そこからはじまる週刊誌記者の潜入捜査。いやこれもうどこに向かっていくんだ、ってニヤニヤしながら一気読みでしたよ。 色んなことに挫折していまここにいる新人記者。文芸編集部異動をエサに仰せつかったお役目。それでも根が真面目だからとにかく真面目に取り組む姿が笑えてしまう。決定的証拠を求めてのドーピング検査のための「資料」収集。もう、笑うしかないでしょ!! けど、笑って読んでいるうちに見えてくる、別の地平。そこからの大活躍。 「本物」ってなんだろう。「フェイク」ってなんだろう。 嘘に塗れた世界と自分を真正面に突きつけられた気がした。
新刊最速レビュー

チクワサスペンス爆誕。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年08月25日

2024年08月25日

「チクワに殺される」いったい何の比喩なんだ?それにしてもチクワってw と半笑いで読み始めましたが、本当にチクワに殺されてましたわ。 いやぁ、もうね、どうしたらこういう発想が生まれてくるんでしょうか。チクワですよ、チクワ。 このままチクワによる殺人事件が続いていくのか、と不安になってきたところで風向きが変わり… なるほど、そう来たか! けど、やっぱりチクワに殺されたんだよな。うん、間違いなくチクワサスペンスだ。

元軍を迎え撃つ没落御家人河野六郎通有の矜持。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年08月25日

2024年08月25日

歴史の授業で必ず習う「元寇」。鎌倉中期の日本を襲った二度の蒙古襲来。授業では割と軽く「海戦に不慣れな元の船団が台風によって壊滅的被害を被り日本の勝利に終わった」くらいの説明だったような。 文永の役、弘安の役。 蒙古帝国は一度たりとも侵略をあきらめたことがないという。その源流を汲む元が日ノ本を襲う。本当に「神風」が吹いたのか。台風だけで元が撤退したのか。今まで深く考えもしなかった「元寇」についてとても興味深く読んだ。 対馬、壱岐を抑えながらなぜ元は敗れたのか。 弘安の役に出陣した没落御家人河野家棟梁六郎の闘い。 異国から売られてきた玲那と繁との付き合いの中で六郎が知ったこと、固めていった思い。 鷹島での迎撃。五十万の江南軍を迎え撃つ鎮西郡三万騎の戦い。この時期に来る野分(のわき)を予想し、江南軍をあえて小島に上陸させるという軍略。 「ここが抜かれれば、日ノ本は終わりだ」という不退転の決意。 思いもよらなかったラストの展開。六郎がみつけた己の生きざまに胸を打たれる。
新刊最速レビュー

密室のデスゲームで多重推理って、しかも全員が被害者で犯人で探偵って、これもう半端なくないっすか。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年08月17日

2024年08月17日

密室のデスゲームで多重推理って、しかも全員が被害者で犯人で探偵って、これもう半端なくないっすか。 『同姓同名』のあのひやひやひりひり再び。 社長室で死んでいた社長。その「関係者」たちがとある廃墟に集められ「犯人だけが生き残れる」デスゲームが始まる…ってどうしたらこんな設定思いつくんですか。しかも「関係者」たちは「被害者」でもあるわけだけど、「犯人」にならなきゃ生き残れないし、生き残ったとして「犯人」になってしまうわけだし… デスゲーム好きにはたまりませんな。 彼らと一緒に「トリック」を作り上げ暴き出し青息吐息でたどり着いた下村的ラストよ。 いやもう満腹です、参りました。
新刊最速レビュー

この先だれかに「変な怪談を聞きに行きませんか?」と誘われても絶対に絶対に行かない!と心に決めた。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年08月17日

2024年08月17日

この先だれかに「変な怪談を聞きに行きませんか?」と誘われても絶対に絶対に行かない!と心に決めた。 誰もいないはずに部屋で聞こえる湿り気のある足音、漂うドブ川のような臭い、残された汚水…怖すぎる。 だがしかし、この怖さはこの小説のほんの一部でしかなかったのだ。 超常現象を解くためその謎にかかわる二人組、追い詰めていくのか追い詰められていくのか。 サスペンスフルな終盤の展開。読後首から肩がガチガチに固まっていましたよ。 え?なにも乗ってないよね?(怖
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