書店員レビュー
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捜査の主軸からは外されたている何森と荒井コンビが追う、社会の片隅で生きる女性たちの罪。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月15日

2024年04月15日

デフ・ヴォイススピンオフ 定年間際の刑事何森。捜査の主軸からは外されたている何森と荒井コンビが追う、社会の片隅で生きる女性たちの罪。 技能実習生、単身女性の貧困、入管法…ほかにもまだある、見えないことにされている人たちの痛みと苦しみ。 知ってはいる、新聞で、テレビで、あるいはネットで取り上げられるたび心を傷めたりする。でも、すぐにその痛みも流れていってしまう。 そうやってなかったことにした痛みを、何森と一緒に感じ続けた。 生きていくことさえ困難な、希望の光もないこの国の生活で、それでも罪は罪だと裁くのか。 何秘湯解決しない事件たち。読後残る混沌と不全感こそがこの国の現実なのだろう。
新刊最速レビュー

自分のルーツを求めるつむぎの心の旅。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月12日

2024年04月12日

不妊治療には様々な種類と、様々な段階がある。 多分その中でも子どもを望む親にとっての最後の砦が凍結胚移植だろう。保険の適用に回数制限もある。 これでダメなら諦める、そういう治療法。 それはいろんな問題を含む。医学的な、社会的な、そして倫理的な。きっちりと決められているわけではない、その壁。だからこそ生じるグレーゾーン。 そのすべてを承知してなお、子どもを願う親たち。 子どもにとって、自分が望まれて生まれてきたのか、親に愛されてきたのかというのは切実な問題。普段は意識することもないであろうことだけど。 自分の存在を、誕生を、ただ一人だけでもいいから肯定して欲しい、そう思うこともあるだろう。 父親と母親の間から、望まれて生まれてきたというそれだけにすがることもあるだろう。 18歳のつむぎの家庭は複雑だ。事故で早くなくなった両親の代わりに育ててくれた遠縁のヒト。義母との借りものような生活。そこにあるのは当たり前の愛情ではない、別の何か。 自分のルーツを求めるつむぎの心の旅。 あまりにも深く大きくいびつなその現実をこの先も抱えて生きていくのだろう。将来自分が子を持ちたいと思ったとき、その現実はまた別の形でつむぎの前に現れるのだろう。乗り越えて欲しいと思う。真摯に受け止めて欲しいと思う。 ただ、どうしても18年前の決断が正しかったとは思えない自分がいる。
新刊最速レビュー

全脳みそ動員して楽しむ。これこれ、これが太田忠司小説の魅力なのよ!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月12日

2024年04月12日

10年前の通り魔殺傷事件。 そのトラウマで引きこもりになり再生回数も稼げない引きこもりユーチューバー。 そして同じ中学の後輩にあたる女優。 まったく別のベクトル上にあった二人の人生が同窓会をきっかけに動き出す。 これこれ、これが太田忠司小説の魅力なのよ!とワクワクそわそわとページをめくっていく。 この違和感がいつか伏線になるよね、とか、あぁこれがきっとあぁなってこうなって、とか、全脳みそ動員して楽しむ。そして、ドミノのようにひっくり返される予想。 中学時代のいじめ、被害者を追い込む教師の正義。 この「正しさ」への反感が最後に共感として腑に落ちる心地よさ。 読み終わった後、一点残る不気味に嫌な感じも含めて満足感に浸れる一冊。

最高の医療グルメ青春お仕事小説。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月10日

2024年04月10日

地方周産期医療の過酷な現実。命の最前線であり、最後の砦でもあるんだな。 現役ドクターならではのリアルな描写と、伊豆のおいしいものががっぷりよつに組んで最高の医療グルメ青春お仕事小説となっている。 パワハラモラハラの権化、老害、時代遅れ、という悪評ばりばりの教授のもとに派遣された若き専門外の医師。って、この教授絶対ヤなやつじゃんと、思わせておいて、の、この展開。どこを切っても読みやすく面白い。しかも、お腹が空くし、感動もしちゃう。こりゃいいもの読んだぜよ。

ここからはじまる新シリーズ。きたさんときたさんの捕物帖、だけど実は…

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月09日

2024年04月09日

いやぁ、やっぱり宮部みゆきサイコーだね。 最初から最後までたっぷり面白い。 これぞ宮部ワールドって、納得の新シリーズ第一巻目!これからずっときたきたシリーズを読める喜びよ。 「きたがきたがきたはきたへ行くところだった」こういうとこが好き。

幕末医療小説ではなく武士の信念のお話

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月09日

2024年04月09日

幕末の漢方蘭方医療のリアル。それぞれの考え方、効果、限界などがよくわかる。 タイトルのことを忘れて読んでいて、すっかり医療小説だとばかり思っていたところでのミステリ展開。 「父がしたこと」、しなければならなかったこと、その重みと意味。小納戸頭取(というお役目を初めて知った)の立場としては正しい選択なのだろう。そこは納得なのだけど。 ちょっと思うところはありて。

からっぽを埋めるための意識高い系的意識

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月08日

2024年04月08日

Z世代、意識高い系。今の十代後半から二十代の若者たちのことか。 高学歴で高スペックなのにどことなく薄っぺらい。従順で温厚で体温の低そうな彼らを知るための仕様書のような。 沼田という一人の捉えどころのないオトコとかかわることで人生が動いていく若者たち。 結局沼田って何者だったんだろう。一章ごとに変化する沼田の印象。嫌悪したり、同調したりしつつ、少しづつプラスが増えていった暁のラスト。 このもやもやは、自分の中の沼田成分への嫌悪なのか。そうなのか。
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私は誰に何を届けたいのかな。届けられるうちに自分で届けようかな、そんなことをつらつらと考えている。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月05日

2024年04月05日

ある日突然、亡くなった人から宅配便が届いたら。 そりゃ、びっくりすわね、そしてその届いたものの意味を考えるだろうね。 これは、不思議な、ファンタジなんかじゃなくてきちんとしたお仕事の話。 生前に本人が依頼したお届け物たち。 だからこそ、そのお届け物を受け取ったひとは、戸惑いながらもその意味を考え、そして本当の意味でそれを受け取っていく。 生きている誰かに、もういない誰かの思いを届ける。いなくなった後だからこそ届けられるものもある。でも、受け取った側はきっと思う。生きているうちに受け取りたかった、と。そして、語り合いたかったと。 私は誰に何を届けたいのかな。届けられるうちに自分で届けようかな、そんなことをつらつらと考えている。
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うぇ?のあとの、あはーん。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月05日

2024年04月05日

一つの家族がその存在に終止符を打つ。それぞれバラバラに生きることを決めた最後の日。 その日へのカウントダウンのさなかに起こった謎の事件。 全員が容疑者!? 元旦に千キロの道のりを疾走するミニバン。誰もが誰もに期待していないのに謎の一体感が生まれていく。 なんなんだ、この躍動感は。 家族小説なのにミステリで、しかもロードノベルって、どんだけ盛沢山なのよ。 伏線の狙撃手によるどんでん返し。うぇ?のあとの、あはーん。

ラノベよりの恋愛小説かと思記や、孤島本格ミステリだった。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月03日

2024年04月03日

ラノベよりの恋愛小説かと思記や、孤島本格ミステリだった。 恋愛リアリティーショー×推理劇in無人島 Whoは分かってもwhyとhowは分からなかった。 盛沢山の要素のなかの連続、二重の密室殺人事件。恋愛リアリティーショーが内包する危うさ、それを見る側の匿名の攻撃。 ミステリの向こうにある警告に心がざわつく。
新刊最速レビュー

無骨に地道にひたすら寝技を極める漢たちの、その汗臭さにまいってしまった。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月01日

2024年04月01日

極めて危険で、果てしなく泥臭いこの七帝柔道。北大生たちが文字通り命と人生をかけたこの柔道に私は恋をしている。 前作『七帝柔道記』を読んだときに感じた熱波が今回も怒涛の様に押し寄せてきた。いや、その圧力は前作以上に強く濃く重かった。 幼少期から始めることの多い武道のなかで、大学から始めてもレギュラーが狙える特異な存在、七帝柔道。 経験よりも体格よりもただただ努力だけがものを言う世界。 無骨に地道にひたすら寝技を極める漢たちの、その汗臭さにまいってしまった。 柔道をするためだけに北大に進学し、そして進級せずに4年という時間を柔道のためだけに費やす。 地獄のような稽古の日々。ケガと故障に泣く日々。悲壮な覚悟でただただ一勝を目指して刻む日々。 それでもなぜか彼らはどこか楽しそうでもある。潰され押さえつけられ締められる苦痛の裏側にいったい何があるのだろうか。それを知りたくてずっと追いかけて読み続ける。 何が彼らをそこまで惹きつけるのだろうか。 それを言い表す言葉が思いつかないけれど、確かにそこにある何かの小さなカケラくらいは拾えた気がする。 最後の七帝戦で彼らと一緒に泣きに泣き、ジムジムのヌシの言葉に笑顔になる。 自分では絶対に体験できない4年という時間を共に歩ませてくれてありがとう、と言いたい。 そして私の推しは和泉さんと後藤さんである。彼らのその後の人生がとても気になる。
新刊最速レビュー

不器用で人に合わせることが苦手で、さりとて周りを気にせずゴーイングマイウェイができない主人公を描かせたら天下一品。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年04月01日

2024年04月01日

寺地はるなは裏切らない。 今回も世の中の生きづらさに苦しんでいるたくさんの人が寺地小説に救われるはず。 不器用で人に合わせることが苦手で、さりとて周りを気にせずゴーイングマイウェイができない主人公を描かせたら天下一品。 あぁ、これは私に伸ばされた手だ、これは私への応援歌だ、とそう思いながら読んだ。 生きていると、たくさんの呪いの言葉をかけられる。それは悪意のあるものであるとは限らない。 良い人がかける良い言葉も、その言葉にとらわれ身動きが取れなくなることがある。 そんな言葉からの解放。 強くなくてもいい、弱音を吐いてもいい、へたくそでも、不器用でも、逃げても、いい。そこに自分の心と身体があれば、大丈夫。 寺地はるなは、ずっとずっとそばでそう言ってきてくれた。 ありがとう、そんな気持ちでページを閉じた。
新刊最速レビュー

源氏物語を思わせる章に思わずニヤリ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月29日

2024年03月29日

可愛い表紙に思わず、ジャケ買い。 日本最古の短編集『堤中納言物語』の世界を中島京子と旅する。 源氏物語を思わせる章に思わずニヤリ。 豊かで雅な時代を堪能。

終わりから始まる終わりのない正義の戦い。義が揺れる。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月29日

2024年03月29日

自分の子どもが罪を犯したとき、親は荷をするべきか。 「罪を償うよう促す」誰もがそう答えるだろう。しかるべき方法でもって裁かれ、罪を償うの自分もをそばで支える、と。 けれど、そこに、「隠ぺいできるなら」という思いはよぎらないだろうか。 警部昇進試験を控えた警部補という立場、妻の収入頼りの自宅ローン、不登校の息子、そこに突然飛び込んだ自慢の娘の起こした殺人事件。 もしそこに「正当防衛」という事実が無かったら、また別の道を選んでいただろう、人として警察官として正しい正義の道を。 越えてはいけない一線を替えてしまった父親。追い詰められるたびに重ねる罪。 読みながら、何が正しいのか、自分の中の「正義」が問われる。 ラストから始まる終わりのない正義の戦い。義が揺れる。
新刊最速レビュー

生きていることを、自分で自分に赦したい。息をしていたい。そこに鼓動がある限り、生きていたい。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月26日

2024年03月26日

団塊の世代とその子どもたち。8050問題。これは、明日の自分の物語なのかもしれない。 失われた30年。就職氷河期。 学校を出て、どこかに就職して、結婚して、子どもが生まれて、家を建てて、そして老いていく。 それが当たり前だった時代が目の前を通り過ぎていった。 大学を出ても正規雇用からこぼれていった多くの人々。親の年金を頼りに引きこもる長い長い時間。それが終わる時、彼らはどうやって生きていくのか。 48歳、独身で無職で引きこもりの男。自分の子どもを愛することができずに離婚し一人で生きる刑事。突然命を奪われ公園で燃やされた老女。 重なることのないはずの三本の線は、もしかすると同じ一本の人生だったのかもしれない。 どこにも居場所がない。誰にも必要とされていない。それでも自分はここにいるのだ、と、ここで生きているのだ、と叫んでいる。誰にも届かない声で。 認められたい。自分の存在を、命を。そして、ここにいていいんだ、と言ってもらいたい。 そんないくつもの声が聞こえた気がした。 未来も夢も希望も、なにもない人生なら終わりにしてもいいだろう。もう、死んでしまいたい。そう思っても死ぬことができない、怖くて勇気がでない。 死ぬ勇気があるのなら、生き続けることもできるはず。いや、死ぬことができないのは、生きたいと、本当は生きていたい、と思っているからなのかも。 生きていたい。ただ、生きていたい。生きていることを、自分で自分に赦したい。息をしていたい。そこに鼓動がある限り、生きていたい。 その声が聞こえた気がした。

サクッと読めるので気軽にどんでんを楽しみたい方におススメ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月26日

2024年03月26日

2023年第21回このミス大賞受賞作 通り魔(少年)に父を殺され、母は出奔、別々の親戚に引き取られて育った姉妹。 十年後出所した少年は行方不明となり、妹が遺体で発見され、しかも保険金詐欺の疑いもかかっているという、もうそれだけでも盛沢山すぎ!! さて本編、妹の「無実」を晴らすため動く姉、近付く怪しい影。 終盤の怒涛の展開に、そう来るかの嵐。 サクッと読めるので気軽にどんでんを楽しみたい方におススメ。
新刊最速レビュー

読み終わって圧倒的な悲しみに暮れている。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月10日

2024年03月10日

読み終わって圧倒的な悲しみに暮れている。 この悲しみがどこからきたものなのか、なにをこんなに悲しいと思うのか、と考えていて、その悲しみが完全なる喜びと表裏一体だと知る。悲しむことができる、という喜び。 これは日本の『アルジャーノンに花束を』なのか、いや、カズオイシグロの『クララとお日さま』なのか、とも思ったけど正直、まだ自分の中でうまく咀嚼できていない。 愛することや悲しむことが生まれてくる源をたどる旅。それを感じることのできないただただからっぽの身体と心をもてあます  さんの、その孤独に震えている。いえ、ちがう、そんな孤独さえ感じることのできない命の、その存在の意味を問い続けている。
新刊最速レビュー

なぜ令和の世の、この現代社会において家族と一緒に暮らしているオトナが餓死するのか。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月10日

2024年03月10日

大好きなこのシリーズの第5弾目は「悲嘆」 誓い、憂鬱、試練、悔根、ときて、悲嘆。連作短編として一章ごとにこの言葉の重みを増していって、最後に最大の悲嘆が訪れる。誰のか、とは言わないでおきましょう。 今回のテーマは「引きこもり」と「餓死」。なぜ令和の世の、この現代社会において家族と一緒に暮らしているオトナが餓死するのか。 親子の、夫婦の、外からは見えない複雑な関係と思惑が悲しい事件を生んでいく。 古手川と真琴が持ち込み、光崎教授が開いていくのは死者の身体ではない。死を通して語られる真実そのものだ。

現実世界とは違った意味で女が強いられるあらゆる不自由と苦しみ

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月06日

2024年03月06日

女が女として生まれ女として生き、女として死んでいく。それは一本の道で繋がっているわけではないということが痛いほどわかる。生と性の中にあるのは喜びでも苦しみでもない、言葉にできない感情。 妊娠するためには男を喰らわねばならぬという女の性、女に喰われ妊娠させる以外に何の役にも立たないという男の性、そこには想いも愛も介在しない未来。 そして妊娠と出産は女にしかできない特権的役割だ、ということさえ揺らぐ未来。そこにある女の喜びはあるのだろうか。現実世界とは違った意味で女が強いられるあらゆる不自由と苦しみ。 いつか、遠い未来に女が女として生きていく苦しみを消せる日がくるのだろうか。 読みながらぞわぞわとした触手がまとわりついてくる。そのぞわぞわの根源にあるのは、嫌悪なのか、憧憬なのか。まだ答えは見つかっていない。
新刊最速レビュー

紙の上の白と黒。日本人はそこに色を見、無限の広がりを感じ取る

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月06日

2024年03月06日

版画ではなく「板画」。ゴッホのひまわりに心を奪われ日本のゴッホになるべく一生をかけた棟方志功の、その人生。 極度の貧乏、極度の近眼、そして極度の情熱。 その作品はよく知っていてもその人生については全くと言っていいほど知らなかった。 原田マハの描くスコさの人生が、温度を持って目に飛びこんでくる。 紙の上の白と黒。日本人はそこに色を見、無限の広がりを感じ取る。スコさが極彩のひまわりに心惹かれながらも白と黒の世界に最高の美を追い求めたのも、日本人のその血のゆえか。 極度の近視というハンデをアドバンテージに変えていった熱量に圧倒されつつ、スコさの底抜けの明るさに魅了され、ずっと笑顔が絶えない読書時間だった。 スコさの成功は本人が引き寄せた偶然と運もあるけれど、なんといっても最愛の妻チアによるところが大きい。なんと大きな妻の力か。その妻を射止めたスコさのチヤへの公開ラブレターにはまいった、いやほんとに、まいった。これぞ幸せの見本なり。
新刊最速レビュー

全然関係ないけど、阿部さんはBUMP OF CHICKENのファンじゃないだろうか

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月03日

2024年03月03日

『パラ・スター』で車いすスポーツのリアルを描いた阿部さんだからこその青春小説。 車いすユーザーの六花と、入学式の日に駅でのひったくり事件を機に知り合った伊澄のふたりの成長小説ではあるのだけど、単なる青春小説で終わらないところが阿部小説の魅力。 担任の態度やクラスメイトの態度や対応にイラっとしながら読んでいくのだけど、そのイラっとする気持ちがそのまま自分へと突き返されていることに気付いて深く内省。 障がい者への対応や、無意識の差別、そこに悪意がないところに難しさがある。その辺りをとてもしっかりと描いていてこの世界に生きる老若男女すべての必読書ではないかと思う。 将来の自分に夢見ていた少年少女が、その夢を失ったとき、その先の長い長い人生をどう生きていくか。 なぜ生まれてきたのか、どうして生きているのか、なんのために生きていくのか。 誰もが手探りで探しているその問いへの答えは多分ずっと見つからない。 それでも今日を生きる。今を生きる。その一秒を紡ぎながら生きていく。 知らないことが誰かを傷つける。良かれと思ってしたことが誰かの可能性を摘む。 だから、知ろう。いろんな人がいる。自分とは違う誰かを知ろう。そう世界はとてもカラフルなのだから。 全然関係ないけど、阿部さんはBUMP OF CHICKENのファンじゃないだろうか、とふと。
新刊最速レビュー

いったいこれは何なんだっ!面白すぎるではないか、お梅!!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年03月02日

2024年03月02日

500年の封印から目覚めた呪いの人形〈お梅〉が令和の世で現代人たちを恐怖のどん底へといざなう… なんて、ことは一ミリもなく!!! いったいこれはなんなんだっ!面白すぎるではないか、お梅!! 500年の変化をものともせず、あっという間に適応するその能力たるや、みごとなり。 いや、呪うつもりがなぜかみんな幸せになっていくってどうよ、呪い人形として。 なんてツッコミながら読んでいくと最後に見事に美しく回収される伏線たち。 おもろいではないか。お梅。ちょっと欲しいぞ、お梅。
新刊最速レビュー

そしていなくなったのは誰だ。どうやって。何のために。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月26日

2024年02月26日

館ものってどうしてこんなにそそられるんでしょうね。 ミステリの大御所が建てたいわくありげな館に招かれた関係者。外は大雪。突然開幕する謎の事件… 読みながら怪しげな伏線を追いつつ、ダニットに全力で挑む。 そしていなくなったのは誰だ。どうやって。何のために。 とあるしかけとトリックには気付いたけれど、あぁ面白かった、と思ったラストに開くもう一つの扉。そうでしょそうでしょ、そう来なくっちゃ、とニヤニヤ。
新刊最速レビュー

スポ根モノになじめない人に、熱いだけの青春スポーツ小説に物足りなさを感じている人におススメしたい。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月26日

2024年02月26日

青春スポーツ小説、と聞いて頭に浮かぶのは、熱血、根性、執念、汗と涙と挫折、そして栄光、か。 けれど、この『八秒で跳べ』はそんな今まで読んできた青春スポーツ小説とは違う読み心地に満ちていた。 まずもって主人公の景には、チームのみんなと力を合わせて勝利を勝ち取るんだ!という熱い心も、自分自身の可能性を極限まで広げ高めるための血のにじむような努力も、そしてライバルと切磋琢磨して頂上を目指すんだという気合も見当たらないのだから。 どこか冷めた目で部活をこなす。中学からのチームメイトを自分より格下だとなめている。練習試合でのケガのせいでチームに迷惑をかけたことにたいする罪悪感がない…って書いてくるとどうしようもないイヤなやつに思える。このまま終わったらイヤミスならぬイヤスポーツ小説になるじゃないか!と不安がわいてくるのだが、その不安が実はかつての自分自身の中にあった周りへの冷めた感情由来のものだと気付いて、愕然とした。 景の出口のないまま蓄積しているもやもやには、覚えがあるぞ、と。だからこんなにもイヤな気持ちがわいてくるのか、と。 自分自身が部活にたいして血と汗と涙に塗れながら根性論全開で全力投球していたことも、がんばることに意味を見出せなくなって消化試合の様に過ごしたことも、両方経験があるからこそ、景の姿に嫌悪と同調が同時に湧き上がる。 部活ってなんだろうか、なんて考えたこともなく、将来の自分に何のプラスにもならないことさえ部活の意味だと思っていたころから、どうせその道のプロになるわけでもないんだし、全国大会までいけないなら進学にもプラスになるわけでもないし、と適当にこなしていたころまで、その全てに身に覚えがありすぎて胸が痛む。 でも、いや、だからこそ、不思議な元クラスメイトとの出会いや、見下していた仲間の全力の努力が、景の内面の変化を誘う、その流れがリアルに感じられる。 スポ根モノになじめない人に、熱いだけの青春スポーツ小説に物足りなさを感じている人におススメしたい。
新刊最速レビュー

刹那の愛しさを描いた三編が、とげとげした心を優しく包み込んでくれる

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月07日

2024年02月07日

人はなぜ川の流れに心惹かれるのだろうか。 悲しい時、寂しい時、元気がない時、ぼーっと川の流れを眺めていると心の中にある灰色のもやもやがいつの間にか流されていくからだろうか。 ままならない毎日の中で持て余す自分の心を、川に流れが優しく慰撫してくれる。少女の、これから新しい命を生み出す女性たちの、そして薄れていく過去の記憶の中で今を生きる女性の。あ、カラスもいたわ。 水の流れに時間を重ねて、人は歴史を紡いできた。流れていった時間は戻らない。今、そこにある水が永遠にとどまることもない。だけど、いや、だから、人は川の流れを求めるのだろうか。 刹那の愛しさを描いた三編が、とげとげした心を優しく包み込んでくれる。

女が一人で生きていくことの困難さと同時に、丁寧に、きちんと生きていく尊さも教えてくれる。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月07日

2024年02月07日

大正末期から戦後までの、日本の社会が大きく変わった時代を生きた二人の女性。 女が自分一人の力で生きていく選択肢なんて、そうたくさんなかった時代の物語。 若いうちにいい婚家先を見つけて嫁ぎ、子を産み育て、夫や親に仕え内を守っていくこと。それが当たり前の、普通の女の人生。その「当たり前」や、「普通」から外れてしまったとき、女はどうやって生きていくのだろう、いや、そもそも生きていけるのか、という時代。 平凡で地味で存在感が薄くおとなしい千代が嫁いだ裕福な家、そこにいたのは大柄でエラのはった女中頭の初衣。奥様と女中、主と従、その時代であればそこには越えられないはずの一線があるはず。でもおっとりとして少々ぼんやりとした千代と、しゃきしゃきとした初衣の間にあったのはそんな通り一遍の関係ではない,一種の同志のようなつながりがあった。 それぞれにそれぞれの想いを抱えて、ともに生きていた時間の長さと濃さよ。 この小説は女が一人で生きていくことの困難さと同時に、丁寧に、きちんと生きていく尊さも教えてくれる。 誰かのために食事を作ること、限られた中で工夫を凝らし、少しでもおいしく食べてもらうこと。 生きることってそういうことから始まるのだな、と改めて思った。 千代が抱える困難と、初衣が抱える問題は全く別のようで、その根幹は同じところから始まっているのだろう。相手を励ますために、「そんなこと気にしなくても大丈夫」と言うことがある。でも、その悩みと苦しみは、当人にしてみれば何年もの時間が経ってもくすぶり続け、決して消えるものではない。 ただ、消えることはなくても無くすことはできるのかもしれない。 それぞれに身体と心に秘密と傷を抱えた二人にとって、ともに、あるいは離れて生きた時間は、そのために必要な、長い長い時だったような気もする。 二人の出会いと別れ、そして運命の再会。その時間のすべてが二人の、これからの人生の、大切な序章だったのだろう。 これは、嶋津輝が高らかに歌いあげる千代と初衣が、そして私やどこかにいる誰かが自分自身の人生を生きていくための人生賛歌だ。

加賀恭一郎が阿部寛の顔で浮かぶ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月06日

2024年02月06日

リドルストーリー 容疑者は二人。どちらかが彼女を殺した。 最後まで、もしかすると、が続く。 最後まで読んでも、どちらが真犯人なのかわからない。 読み手の推理力が試される。 加賀恭一郎と被害者の兄の対決がドラマチック。

汝で流した悲しい涙が優しく慰撫されていく

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年02月02日

2024年02月02日

感想再記録。 『汝、星のごとく』の単なる続編やスピンオフではない。汝の登場人物たちの、汝には描かれなかった物語たち。人物が、物語が立体的に浮かび上がってくる。 人を愛するということ。その愛の様々な形を凪良ゆうが丁寧に繊細に紡いでいく。 汝で流した悲しい涙が優しく慰撫されていく。

父と娘の物語は一本に繋がるのか

しまゆ

書店員

2024年01月31日

2024年01月31日

幼い頃に家を出て行った父親を探す記者と出会い、自らの父親の現在について調べ始める。 父親が残した7つのおとぎ話に散りばめられた真実を辿り、父親と関わりのあった人たちへのインタビューから人物像を組み立て、そして感動のラスト。 自分の記憶の中の父親と、母親の知っている父親と、それから仕事で関わりのあった人たちから見た父親と。 その全てが少しずつ違うのも当然なわけで、1人の人間であっても、多数の人間から見た時それぞれによって印象は全く違うなんてことも多々ある。 本人とその人の関係性や立場も深く関係してくるから。 しかし、自分の中の当人と本人の差異についてはどうだろう。 これはもう「理想と現実」のような話になっていく。 「こうであって欲しい」を無意識に押し付けてはいないだろうか。 知らなかった一面を知ることが、その人本人に近づく一歩なのかもしれない。 父親の残した7つのおとぎ話が、暗く深く沈んでいくような危うさを抱えていて、そこがまたおとぎ話らしくとてもよい。

蠱惑的な美しさゆえの恐怖

しまゆ

書店員

2024年01月31日

2024年01月31日

“本の背骨"という言葉が本好きの好奇心を刺激してきますね! 紙の本が禁止された世界での「本」とは…..... もうこの世界がたまらないです。 本を愛しすぎた人たちによる「本」。 短編集なのですが、表題作はじめどれもこれも蠱惑的な魅力を放つ物語でした。 エグい描写が多めですが、読んでいる間はそのエグさより、文章と言葉選びの美しさにより落ち着いた恐怖が際立ちます。 叫び出したくなるような恐怖ではなく、その先が気になって仕方ないような、静かな恐怖です。 斜線堂さんは本当に、どんなジャンルでも素敵に描かれる作家さんです。ミステリも恋愛も、SFも、ホラーもファンタジーも。 ジャンル問わず本を読まれる方は要チェックですよ! 何読んでも面白いので、斜線堂さんだけでどのジャンルにもおすすめ対応できてしまうの、書店員的に頼りすぎちゃいそう...…気をつけます。笑
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