社会的共通資本

岩波新書 新赤版696

宇沢 弘文

2000年11月20日

岩波書店

968円(税込)

ビジネス・経済・就職 / 新書

ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持するーこのことを可能にする社会的装置が「社会的共通資本」である。その考え方や役割を、経済学史のなかに位置づけ、農業、都市、医療、教育といった具体的テーマに即して明示する。混迷の現代を切り拓く展望を説く、著者の思索の結晶。

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4.2 2018年01月24日

世の中には、偉い先生がいることを改めて感じいった。東大の教授をしていたからでも、文化勲章を受章したからでもない。人類の行く末、幸せなあり方を真剣に考えているからである。本書は先ごろ亡くなった宇沢弘文先生が今から14年前に出版したものである。決して古くはないが、ちょいとばかり読みズラいのが玉に瑕である。これはお年ゆえ致し方ないとも言える。 本書における先生の主張は明確だ。 世の中には、市場に委ねてはならないものが存在する。これを社会的共通資本という。大気、水、森林、河川、湖沼、海洋、湿地帯、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力ガスの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、金融、司法、行政などの制度資本である。 そして、社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。社会的共通資本は、たとえ私有ないし私的管理が認められているような希少資源から構成されていたとしても、社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営される。したがって、社会的共通資本は決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない。社会的共通資本の各部門は、職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規範にしたがって管理・維持されなければならない。 ここで興味深いのは、社会的共通資本の管理運営を政府や市場に委ねてはならない、とする点だ。だから、 社会的共通資本の管理者たる専門家は市民から直接委託され、市民に対してのみ責任を負い、その利益だけを専一的に配慮するものでなければならない、とするものだ。 本書を読んでいて思い浮かんだのが、TTPであった。現代のグローバル資本主義が金融とIT技術を駆使して中流層や貧困層をターゲットにしたのが当初成功したかに見えたが、リーマンショックという形でバブルがはじけ、その目論見は破綻した。優勝劣敗の牙をむき出しにしたアメリカの資本主義が次に狙うのは何処か。 医療や保険の分野で自由化を声高に叫び、世界中でも最も堅固で優れたサービスを提供する我が国の医療制度をズタズタに食い荒らす姿が眼に浮かぶようだ。アメリカの世界一の種苗会社が日本の農業を支配するのも、そう遠い日ではないのだろう。崇高な精神に基づく知見は、将来を見据えて警鐘を鳴らすが、どれだけの人が気付いているのだろう。 2014年11月10日 9:48:30 の変更内容が競合しています: 社会的共通資本 世の中には、偉い先生がいることを改めて感じいった。東大の教授をしていたからでも、文化勲章を受章したからでもない。人類の行く末、幸せなあり方を真剣に考えているからである。本書は先ごろ亡くなった宇沢弘文先生が今から14年前に出版したものである。決して古くはないが、ちょいとばかり読みズラいのが玉に瑕である。これはお年ゆえ致し方ないとも言える。 本書における先生の主張は明確だ。 世の中には、市場に委ねてはならないものが存在する。これを社会的共通資本という。大気、水、森林、河川、湖沼、海洋、湿地帯、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力ガスの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、金融、司法、行政などの制度資本である。 そして、社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。社会的共通資本は、たとえ私有ないし私的管理が認められているような希少資源から構成されていたとしても、社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営される。したがって、社会的共通資本は決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない。社会的共通資本の各部門は、職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規範にしたがって管理・維持されなければならない。 ここで興味深いのは、社会的共通資本の管理運営を政府や市場に委ねてはならない、とする点だ。だから、 社会的共通資本の管理者たる専門家は市民から直接委託され、市民に対してのみ責任を負い、その利益だけを専一的に配慮するものでなければならない、とするものだ。 本書を読んでいて思い浮かんだのが、TTPであった。現代のグローバル資本主義が金融とIT技術を駆使して中流層や貧困層をターゲットにしたのが当初成功したかに見えたが、リーマンショックという形でバブルがはじけ、その目論見は破綻した。優勝劣敗の牙をむき出しにしたアメリカの資本主義が次に狙うのは何処か。 医療や保険の分野で自由化を声高に叫び、世界中でも最も堅固で優れたサービスを提供する我が国の医療制度をズタズタに食い荒らす姿が眼に浮かぶようだ。アメリカの世界一の種苗会社が日本の農業を支配するのも、そう遠い日ではないのだろう。崇高な精神に基づく知見は、将来を見据えて警鐘を鳴らすが、どれだけの人が気付いているのだろう。 2014年11月10日 9:48:30 の変更内容が競合しています: 社会的共通資本 世の中には、偉い先生がいることを改めて感じいった。東大の教授をしていたからでも、文化勲章を受章したからでもない。人類の行く末、幸せなあり方を真剣に考えているからである。本書は先ごろ亡くなった宇沢弘文先生が今から14年前に出版したものである。決して古くはないが、ちょいとばかり読みズラいのが玉に瑕である。これはお年ゆえ致し方ないとも言える。 本書における先生の主張は明確だ。 世の中には、市場に委ねてはならないものが存在する。これを社会的共通資本という。大気、水、森林、河川、湖沼、海洋、湿地帯、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力ガスの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、金融、司法、行政などの制度資本である。 そして、社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。社会的共通資本は、たとえ私有ないし私的管理が認められているような希少資源から構成されていたとしても、社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営される。したがって、社会的共通資本は決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない。社会的共通資本の各部門は、職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規範にしたがって管理・維持されなければならない。 ここで興味深いのは、社会的共通資本の管理運営を政府や市場に委ねてはならない、とする点だ。だから、 社会的共通資本の管理者たる専門家は市民から直接委託され、市民に対してのみ責任を負い、その利益だけを専一的に配慮するものでなければならない、とするものだ。 本書を読んでいて思い浮かんだのが、TTPであった。現代のグローバル資本主義が金融とIT技術を駆使して中流層や貧困層をターゲットにしたのが当初成功したかに見えたが、リーマンショックという形でバブルがはじけ、その目論見は破綻した。優勝劣敗の牙をむき出しにしたアメリカの資本主義が次に狙うのは何処か。 医療や保険の分野で自由化を声高に叫び、世界中でも最も堅固で優れたサービスを提供する我が国の医療制度をズタズタに食い荒らす姿が眼に浮かぶようだ。アメリカの世界一の種苗会社が日本の農業を支配するのも、そう遠い日ではないのだろう。崇高な精神に基づく知見は、将来を見据えて警鐘を鳴らすが、どれだけの人が気付いているのだろう。

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