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世界共和国へ
資本=ネーション=国家を超えて
岩波新書 新赤版1001
柄谷 行人
2006年4月20日
岩波書店
946円(税込)
人文・思想・社会 / 新書
「資本=ネーション=国家」という接合体に覆われた現在の世界からは、それを超えるための理念も想像力も失われてしまった。資本制とネーションと国家の起源をそれぞれ三つの基礎的な交換様式から解明し、その接合体から抜け出す方法を「世界共和国」への道すじの中に探ってゆく。二一世紀の世界を変える大胆な社会構想。
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(無題)
どのような文脈の中から「世界共和国へ」との壮大で突拍子もない結論が導き出されたのか、興味を持って読み始めた。初めはポスト資本主義について書かれたものかとも思ったが、そうでもなさそうである。何しろこの人の著作、初めて読むし、経歴や実績を知ったうえで読み始めたものでもなかった。そこで、調べてみると、著者は構造主義の哲学者で、マルクスとカントに影響を受けているようだ。なるほど、マルクス主義者であれば資本主義の分析はお手の物だろう。そして「世界共和国」はカントが提唱ことが本書中で明かされている。 さて、著者の哲学者としての問題意識は、人類が解決しなければならない喫緊の課題に直面している事である。すなわち、それは戦争と環境破壊、そして経済格差に収斂される。しかも、これらは切り離す事は出来ない。なぜなら、これらの問題は人間と自然との関係や人間と人間との関係が集約されているからだ。そして、これらは結局は国家と資本の問題に帰着すると著者は考える。つまり国家と資本は統御する必要があり、それには「世界共和国構想」が必然だというのだ。 そのための道筋として本書では、国連の強化・再編成が提案される。具体的には、我が国が憲法9条でうたう戦争放棄である。各国が軍事的主権を徐々に国連に譲渡していくのである。そうする事によって、グローバルな非国家組織やネットワークへの国家による分断を阻止するのである。世界共和国について、本書が言及しているのは、残念ながらここまでである。著者の問題意識の持ち方や世界共和国構想などは、学者の素朴な良心を感じられて好ましいところだ。 一方、著述の大部分を占めるのは、著者が「世界共和国」構想を得るに至った過去の哲学史分析である。その辺りはいかにも哲学者らしく難解である。学者の本領発揮といえば、聞こえが良いが、普通の読者にとっては、自分のいる場所を見失う事になりかねない。新書なんだから、もっと分かりやすく書いてもらいたいものだ。
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