春に散る 上

沢木耕太郎

2016年12月31日

朝日新聞出版

1,760円(税込)

小説・エッセイ

四十年ぶりにアメリカから帰国した一人の男。かつてボクシングの世界で共に頂点を目指した仲間と再会してー。俺たちにはまだ、やり残したことがある。朝日新聞連載の長編小説書籍化!

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3.1 2018年04月06日

ミラノ中心部に煉瓦造りの瀟洒な建物「音楽家のための憩いの家」がある。イタリアが誇る作曲家ヴェルディが私財を投じて建てた恵まれない音楽家のための老人ホームである。今でも現役を引退した老音楽家たちが暮らしている。世界広しと言えども、他に例を見ない施設であろう。もし、音楽家をプロボクサーに置き換えたらどうなるだろう。そんな素朴な発想から本作品が誕生した。 広岡仁一はボクシングの世界王者を目指して渡米したが挫折。ビジネスマンとして生きた40年後、ホテル事業で成功をおさめた。しかしその成功は、広岡に満ち足りた思いをもたらしはしなかった。確かに広岡らしさを貫いた実直な人生ではあった。しかし老齢期を迎えて人生を振り返った時、何か心の中にぽっかりと穴が空いたような気がするのだった。徒労感にも似た気持ちを抱えて、40年ぶりの日本帰国だった。浦島太郎状態の広岡が先ず手をつけたのは、過去をなぞることだった。若き日に希望と日常を共有したボクシング仲間の消息を探ることだった。共に世界チャンピオンを目指したかつての仲間たちの老後は、決して恵まれたものでは無かった。相手の懐に飛び込んでのインサイド・アッパーを得意としていた藤原は、刑務所暮らしであった。最強のジャブ三段撃ちの佐瀬は、国内のボクサーが対戦を嫌がったため、無冠の帝王と言われていた。そんな彼も今では生きる事の意味どころか生きている自覚すら見いだせないでいた。イケメンの坊ちゃんで掃いて捨てる程女性にモテた星はギャンブルで身を持ち崩し、5年前から横浜の小料理屋の女将・真琴と一緒に暮らしていた。今ではその真琴すら亡くなってしまった。広岡は「チャンプの家」と名付けられた一軒家を借り、刑務所から出てくる藤原を待って、四人で共同生活を始める。 全編に漂うのは、老齢期に入り自らの人生を振り返った時「自分の人生は一体何だったんだろうか」との寂寥感である。人生に意味なんか無くて一向に構わないのに、何らかの意義付けをしたくなるのは人間の業というものであろうか。

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