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国宝 上
青春篇
吉田修一
2018年9月7日
朝日新聞出版
1,650円(税込)
小説・エッセイ
1964年元旦、長崎は老舗料亭「花丸」-侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、この国の宝となる役者は生まれた。男の名は、立花喜久雄。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。舞台は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか?朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ、著者渾身の大作。
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(無題)
虚構の世界を紡ぐのが小説である。読者に「この主人公にはモデルがいるのではないだろうか。それは誰だろうか」と思わせたら、その作品は成功している証である。なぜなら、作者の想像の世界に読者がリアリティを感じているからである。多くの人が本作のモデルとして思い浮かべるのは、玉三郎であろうか。 極道の父の元に生まれた美貌の少年が歌舞伎の世界に飛びこみ、稀代の女形になった男の人生を追った大河小説である。歌舞伎役者は原則、世襲である。しかし、才能ある子を養子にしたり、庶子に継がせたりすることも多い。大阪の人気歌舞伎役者・花井半ニ郎に預けられた喜久雄は、俊介という半二郎の御曹司と共に稽古に明け暮れる日々を送るのだった。やがて喜久雄は半二郎の部屋子となるのだった。幹部俳優の楽屋にあずけられ、鏡台を並べて楽屋での行儀から舞台での芸など、役者として必要なことを仕込まれるのが部屋子だ。「御曹司」は有力な俳優の子弟を指すのに対し、部屋子は素人の子弟でも才能があれば芸養子として育てられるのだ。さらには、喜久雄は御曹司の俊介を差し置いて半二郎を襲名するのだった。
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