弘海
息子が海に還る朝
朝日文庫
市川拓司
2007年10月30日
朝日新聞出版
550円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
小学生の弘海は、体に異変が起こり、水の中を好むようになる。心配した両親は、世界中に同じような子供がいることを知るが…。少年少女の淡い恋心と家族の絆を描く『いま、会いにゆきます』に連なる長編小説。今や映像の世界でも注目の市川ワールド、待望の文庫化。
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(無題)
まずは、酸素カプセルについて触れておきたいのです。その原理は「ヘンリーの法則」に基づき、酸素カプセル内の気圧を1.2気圧~1.3気圧に高めた上で、通常の酸素濃度(20.9%)を1.5倍の約30%に設定し、より多くの溶解型酸素を作り出します。これによって、呼吸(結合型酸素)からだけでなく全身から酸素を吸収(溶解型酸素)することができるようになり、毛細血管や末端の細胞まで効果的に酸素を送り届けることで、身体機能を向上させて健康増進を図っていくというものです。 ヘンリーの法則は我々ダイバーにとっては必須の知識で、「気体の溶ける量は、接している気体の圧力に比例する」というものです。つまり1気圧で3g溶けているなら、2気圧で6g、3気圧で9g溶けるという具合になります。ダイバーにとっては、悪さをする血液中の窒素を問題にしますが、圧縮空気を高圧下で呼吸すれば、酸素についても、同様の事が言えるはずです。一般的なダイビングでは、10〜20mの深度ですから2〜3倍の酸素を取り入れている事になります。 小説のレビューに何を見当はずれな事を言っているのだ、と言わずにもう少しお付き合い願います。地球上のあらゆる生物は、海から生じました。ですから、海は生命の故郷とも言えます。また、人間は生まれ落ちるまで、母親の羊水の中で育まれました。 本書の語り手は父親で、14歳の誕生日を迎える息子・弘海への愛情にみちた手紙です。ごくありふれた家庭に生を受けた弘海の誕生から13歳で旅立つまでの日常をごく普通の父親の視点から書き綴ります。そう、ごく普通の家庭なんです。弘海が水棲人である事を除いては。 もう少し内容に触れますと、スイミングスクールに通う小学生の息子・弘海の身体に徐々に異変が現れます。弘海は普通に生活することより、水の中にいることのほうが体調がいいことに気付きます。容体が悪化していく中、他にも同じ症状を持つ子供がいることを知り、コンタクトを取ると以前、水泳の大会で弘海が言葉を交わしたことのある少女が同じ症状であることが分かります。
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