スローカーブを、もう一球

角川文庫

山際 淳司

2012年6月22日

KADOKAWA

616円(税込)

ホビー・スポーツ・美術

たったの一球が、一瞬が、人生を変えてしまうことはあるのだろうか。一度だけ打ったホームラン、九回裏の封じ込め。「ゲーム」-なんと面白い言葉だろう。人生がゲームのようなものなのか、ゲームが人生の縮図なのか。駆け引きと疲労の中、ドラマは突然始まり、時間は濃密に急回転する。勝つ者がいれば、負ける者がいる。競技だけに邁進し、限界を超えようとするアスリートたちを活写した、不朽のスポーツ・ノンフィクション。

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山際淳司「スローカーブを、もう一球」

本書は、日本ノンフィクション賞も受賞したことのある。山際淳司の評価の高いスポーツノンフィクション集です。ちゃんとは憶えてないけど、スポーツノンフィクションって実はちゃんと読むのは初めてなんじゃないかと思ったりするんで、ちょっと新鮮でした。 「八月のカクテル光線」 甲子園。延長16回までもつれこんだ白熱した試合。その最中、たった一つの落球がすべてを変えてしまう…。強豪校に粘り強くしがみついたとある一線を描く。 「江夏の21球」 日本シリーズ第七戦。この試合で日本一が決まる、という試合。近鉄バッテリーと対する広島カープの江夏の、9回裏に投げた「21球」を描く。 「たった一人のオリンピック」 進学校から東大への進学に失敗、東海大に進学した若者は、突如、オリンピックに出よう、と思いつく。その思いつきに導かれるまま、ひとり乗りのボート競技に明け暮れる毎日を送るが…。 「背番号94」 強豪校でもなんでもない高校に、長嶋監督がやってきて、一人の少年がジャイアンツへとスカウトされた。その少年は今、ジャイアンツのバッティング・ピッチャーをやっている…。 「ザ・シティ・ボクサー」 一人のボクサーが、入場曲の盛り上がりに合わせてリングへと登場してきた。リーゼントもばっちり決めている。スマートなボクシングを目指す一人の若者を描く。 「ジムナジウムのスーパーマン」 トヨタの車の営業というサラリーマンでありながら、スカッシュで国内無敗を誇る男。車の販売でも、きっちりと成績を残している。仕事だけでは充足されない人生を、スカッシュにぶつけている。 「スローカーブを、もう一球」 野球経験のほぼない監督のもと、熱血に野球道を邁進する気のないエースが、スローカーブを武器に快進撃を続け、ついには甲子園の切符まで手にしてしまう物語。 「ポール・ヴォルター」 著者がたまたま目にした棒高跳び。そこで目にしたとある選手。彼は小さな体で、自らの限界を目指して飛んでいた…。 というような感じです。 全体的な評価としては、野球に関するものはかなり面白かったけど、それ以外はちょっとなぁ、という感じでした。 僕は基本スポーツには全然興味がなくて、野球さえルールは知ってるぐらいでほとんど見ることもないんだけど、でもやっぱり、他のスポーツとは親近感が違った、という感じなのかもしれないな、と思いました。他は、ひとり乗りボートとかボクシングとかスカッシュとか棒高跳びとか、やっぱ日常的に馴染みのないものが多い。もちろん、そういうところで活躍している人たちにスポットを当てて描き出すというのは素晴らしいことだと思うんだけど、どうもイマイチ興味が持てない、という部分がありました。ひとり乗りボートの話は、唐突にオリンピックに出ようと決めてから、結局あーだった、というまでの流れはなかなか面白いと思いましたけどね。ボクシングとスカッシュと棒高跳びは、ちょっとうーんという感じだったでしょうか。 野球の話は、バッティング・ピッチャーの話がほどほどで、残り三つがかなり面白かった、という感じでしょうか。 バッティング・ピッチャーの話は、普段目にすることもないし、そういう人がいるんだろうなとは思ってたけどよく知らなかった人のことを知ることが出来た、という点がなかなか面白かったです。 他の三つ、「八月のカクテル光線」「江夏の21球」「スローカーブを、もう一球」はかなり素晴らしいと思いました。この著者の描写で、色んな人間の視点をかなりスイッチして複層的に描く、というのがあるんだけど、野球の場合関わってる人間の多さから、それがうまく使えるんだろうと思います。今こうやって書いてて思いつきましたけど、さっき書いたひとり乗りボートとか棒高跳びの話があんまり面白くないと感じたのは、それがたった一人にフューチャーした話だったから、なのかもしれません。この著者の描き方では、野球のような大人数が関わる出来事を多視点で複層的に描き出す方がぴったりくるような気がします。 「八月のカクテル光線」は、延長16回までもつれこんだある接戦を、時系列も視点もさまざまに切り替えて描き出している。面白いです。たった一つの落球が試合を左右することになった。でもそれだけじゃない。様々な人間がそれぞれの場面でどんな思惑を抱えていたのか、どう動いたのか、その後どうなったのかなど、短い話なのにかなり濃密で良いなと思いました。 「江夏の21球」も秀逸でした。まず江夏の心理状態の描写がいい。僕は特別江夏という選手に詳しくはないけど、きっともう野球人生の晩年の頃の話なんでしょう。誰もがどうにもならないと感じたピンチを、21球で凌いでしまう。しかもその内の一球が、その時のバッターを未だに困惑させている。ありえない、と。江夏が何を考え21球を投げたのか。その軌跡が素晴らしいと思います。 「スローカーブを、もう一球」は、甲子園なんかに一度も行ったことのない、監督も野球経験がほぼないような、練習だってスパルタっていうわけでもなく高校生らしくのびのびやろう、なんて言っているとある高校が、あれよあれよという間に甲子園への切符を掴みとってしまうまでを描いている作品です。監督が何を考えてベンチに座ってるのか、という話も面白いし、エースがいかにして練習をサボったのかという話もいい。甲子園の話なのに、まったく甲子園らしくなくて、僕の凄く好きな感じの話です。エースは、飄々としているようで、実は結構考えている。野球はスピードではなくて、コントロールと駆け引きさえものにすれば、高校野球のレベルだったら通用してしまう、と考えている。そしてそれを実行して、甲子園への切符を勝ち取るのだ。全体にただよう緩さ、そうまるでスローカーブのような緩さが、僕は凄く好きです。 まあそんなわけで、全体的に凄くいいかと聞かれるとちょっと微妙だけど、「八月のカクテル光線」「江夏の21球」「スローカーブを、もう一球」は素晴らしいと思います。多視点で様々な人間の描写をうまく捌いていく手腕が巧いなと感じました。スポーツのさほど興味のない人でも読めると思います。読んでみてください。

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