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パラダイス・ロスト
角川文庫
柳 広司
2013年6月21日
KADOKAWA
748円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
大日本帝国陸軍内にスパイ養成組織“D機関”を作り上げ、異能の精鋭たちを統べる元締め、結城中佐。その正体を暴こうとする男が現れた。英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。結城の隠された生い立ちに迫るが…(「追跡」)。ハワイ沖の豪華客船を舞台にした初の中篇「暗号名ケルベロス」を含む全5篇。世界各国、シリーズ最大のスケールで展開する、究極の頭脳戦!「ジョーカー・ゲーム」シリーズ、待望の第3弾。
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(無題)
スパイ小説って日本ではあまり見かけませんね。どうしてなんでしょうか。今でこそインテリジェンスなどといって情報戦が重要視されますが、そもそもが我が国の戦前戦後の軍事や外交に諜報や謀略は「卑怯な行為」として嫌われてきたからでしょうね。その結果、この分野での我が国の戦力は諸外国と比べて非常に弱く「スパイ天国」などと揶揄されてきました。その為にスパイを身近に感じる事はなく、小説になりにくかったとも言えましょう。個人的にも、クールでスタイリッシュな結城中佐のキャラクターには大いに魅力を感じますし、裏の裏をかくストーリー展開はとても面白く感じます。でも、それだけで、それ以上何もないんです。小説にそれ以上何を求めるんだ‼︎、との非難の声が聞こえてきそうですが、僕としては血の通った人間のナマの営みが欲しいんです。 本書はジョーカー・ゲームシリーズの第3弾です。内容はD機関のスパイが一時的な記憶障害に陥る「誤算」、シンガポールのラッフルズホテルでの事件を描いた「失楽園」、結城中佐の過去が暴かれそうになる「追跡」の三短編と、太平洋横断豪華客船上での事件にD機関のスパイが挑む「暗号名ケルベロス」の中編一編です。僕の好みから言えば、スパイの非情な中に生身の人間を感じられる「失楽園」と「暗号名ケルベロス」ですかね。 そういえば、これまでのシリーズ前二巻でも、スパイの非情な任務遂行と人間の弱さというか宿業との対比は常に描かれてきていましたね。ジョーカーゲームの「XX(ダブルクロス)」における飛崎です。飛崎は、百合子が親代わりに自分を育ててくれた女性に似ていたため判断を誤ったことを結城に指摘され、D機関を去る事になります。ダブルジョーカーでは「ブラックバード」の飛崎です。仲根晋吾は二重経歴を使ってアメリカの有力者の娘に取り入り、子どもまで儲けることで活動しやすい環境を整えていました。しかし、仕事の相手が自分の実の兄である事に「とらわれて」しまうのですね。そして本作「暗号名ケルベロス」における内海です。前二作と違って内海は捨て去れなかったウェットさに足を掬われるのではなく、自負心と好奇心が強すぎるが故に自らスパイ街道から逸れる道を選ぶのです。
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