ワン・モア

角川文庫

桜木 紫乃

2015年1月24日

KADOKAWA

528円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

安楽死事件を起こして離島にとばされてきた女医の美和と、オリンピック予選の大舞台から転落した元競泳選手の昴。月明かりの晩、よるべなさだけを持ち寄って躰を重ねる男と女は、まるで夜の海に漂うくらげー。同じ頃、美和の同級生の鈴音は余命宣告を受けていて…どうしようもない淋しさにひりつく心。人肌のぬくもりにいっときの慰めを求め、切実に生きようともがく人々に温かなまなざしを投げかける、再生の物語。

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桜木紫乃「ワン・モア」

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2019年12月15日

みんなのレビュー (1)

とも

(無題)

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4.5 2018年02月10日

「どうしたことでしょう」。本作には貧乏くさくて薄幸なヒロインが登場しません。いつもの桜木作品とは様子が違うんです。「いやそんなはずはない。著者のことだから、この温かい気持ちは必ずひっくり返されるだろう」との危惧の念と「ハッピーエンドでほっこり感に浸っていたい」との期待が入り混じりながら読み進めました。 本書には6つの短編が収められています。それぞれの短編に夫々の愛の形があり、それらが連作となっています。まず最初の「十六夜」。離島・加良古路島に飛ばされた内科医・柿崎美和と元オリンピック水泳選手の木坂昴との愛です。美和が島流しに合ったのは安楽死に手を染めたからでした。このことで美和の医師としての未来は絶望的になりました。一方、木坂昴が故郷の離島で漁師をしているのは、ドーピングで競泳界を追放されたからでした。過去に傷を持つ二人が密かに肌を重ねる時、2人だけに通じ合える愛の形がありました。 第2話「ワンダフル・ライフ」は美和の高校時代の同級生で、今は開業医の滝澤鈴音の愛の形です。大腸ガンにおかされステージは既にⅣ。肝臓への転移が見つかっては余命いくばくもないのは誰の目にも明らかです。鈴音は、親から受け継いだ診療所を美和に託したいと伝えます。そして鈴音自身は、別れた元夫と終末期を過ごしたいと考えます。 第3話はちょっと目先が変わってトキワ書店の店長・佐藤亮太と坂木詩織の愛の形。亮太は30を過ぎた今まで女性と付きあったことがありませんでした。亮太が密かに思いを寄せていた詩織との再会は、突然でした。真っ黒く内出血した上に腫れ上がった顔と指の剥離骨折からは、明らかにDVが見てとれました。詩緒はこれといった特徴のない普通の女の子でしたが、派手な雰囲気を漂わせたバンドマンと同棲していたのでした。緊急避難的に亮太の部屋に住みはじめた2人が結ばれるのは、自然の成り行きでした。2人が結婚して二世代住宅に転居する前夜、詩織は姿を消すのでした。 第4話「ラッキーカラー」。赤は赤沢のラッキーカラーでした。赤沢のラッキーカラーが赤で消防署勤務だなんて、笑っちゃいますね。その意味では前話の詩織がつぶやく「料理のできない私が結婚すると『さとう・しお』になっちゃうとの台詞も可笑しいですね。脱線はそれぐらいにして、このお話は、鈴音の診療所で看護師として働く浦田寿美子と赤沢の愛の形です。40の半ばを過ぎた2人とも独身です。今から5年前に寿美子が働いていた市立病院に入院していた赤沢はガンと闘っていました。辛い放射線治療に終えた赤沢は、5年間再発しなかったら寿美子に結婚を申し込む、と宣言して退院しました。その赤沢から連絡がありました。揺れ動く寿美子の心に突然のアクシデントが加わります。 第5話「感傷主義」では美和と鈴音と高校時代の同級生だった八木浩一の鈴音に対する思いが語られます。八木は学力不足と家庭の事情により、医者になることを諦めて放射線技師になりました。八木の挫折と屈辱感は、愛の表現を屈折したものに変えました。鈴音に素直に「好き」と言えないばかりか、奔放な女遊びはまるで鈴音への思いを埋めるかのようでした。ディーバというピアノバーの女主人は、米倉レイナと言いました。彼女はかつて歌手を目指しましたが、売れずに故郷に舞い戻りました。八木はディーバの常連です。理由は簡単です。レイナが鈴音に似ていたからです。ある日八木は、レイナに相談事があると言われました。 最後の「ワン・モア」で鈴音は蘇ります。キラーワクチンが奏功したのです。この治療を提案したのは美和でした。さらに美和は拓郎に鈴音の側に寄り添ってほしいと頼むのでした。鈴音とまた一緒に暮らすことになった拓郎に一体何ができるというのか。拓郎が出来ることは、鈴音とともに泣くことでした。泣くのは恥ずかしい、格好悪いから我慢していませんか。そうではありません。泣くことでカタルシスを得ることができるのです。その結果、幸せな気持ちへと導いてくれるのです。 鈴音の飼っている犬が5匹の子犬を産みました。彼女は子犬の里親の条件に『幸せな人』と定めました。里親になったのは、美和、佐藤亮太、寿美子、八木の四人でした。この物語は、鈴音が犬を託す人たちの物語であり、彼らの幸せの物語でもあります。

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