虹を待つ彼女

（横溝将司ミステリ大賞、選考時タイトル「虹になるのを待て」） 一種のGifted childであった工藤は子供のころから周囲とはなじめなかったものの、仮面をつけ、人間関係は調整してそつなく生きてきた。だが、それは非常に倦怠な人生だった。自己学習するAIの開発に携わり、予想範囲外の事が起こるのを期待した。だがそれも想定の範囲内で収まり、限界がみえる。そんな時、死者をAIでよみがえらせるプロジェクトに携わり候補者となった「水科晴」に興味を持つ。彼女は自分のゲームをリアル展開し、自分の閉じた世界の中で自死した。そのことに感銘を受け、生まれて初めて人を「好き」になる。晴に固執し、私財をなげうってでもAIの完成を目指す。しかし、同時に晴の過去を暴かれると困る者が存在した。雨。その者から脅迫、襲撃を受け死にかけるも、AIを完成させる。完成間近、晴の残したゲームRainの裏コードによって晴の本当の気持ちを知る。 雨＝A MEまではたどり着く。多重人格か？との予想はあっけなく裏切られる。Theにする範囲が狭すぎるAをつけるとなんでも少し曖昧になるため好んで用いたというような表現があった（p.142）が、AもTheも固有名詞であり、既出のAはTheになるんだけどなっと。主人公悪童（A KUDO）に共感あり。意外なキーパーソン棋士目黒も好き。西野十夢くんが出てきた。時系列的にはこちらの作品の方が先なんだけれども「銀色の国」を先に読んだ私としてはここで「おっ」となる。こういう作者世界内の繋がりはありだと思う。 「世間には、無理解な野次馬の方が圧倒的に多い。お前の言うことは正論だが、正論でしかない。(p.266)」

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