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(無題)
山本作品の中では比較的毒の少ない方に属するのではなかろうか。本作は日常の断片から女の内面を描いた短編集である。山本文緒らしい不気味さが漂うのは「寿」「少女趣味」「夏風邪」である。 男が理解しがたい女の感受性の一つに、結婚披露宴の派手さをあげられる。一生に一度の事だから、主役として精一杯目立ちたい、というのである。新郎は恥ずかしさに辟易としているのも構わずに、スポットライトを浴びて恍惚とするのは、女子に共通の感情である。自らの美醜や分をわきまえずに、お姫様に自分を擬して平然としている。そんな醜悪さが露わなのが「寿」の私。そして「少女趣味」の漫画家にもそんな醜悪さは共通する。自分を客観視する事ができないから、現実と大きくずれた世界を創り出して、その世界に安住しようとする。ところが、そんな不自然な世界は漫画家以外には、いたたまれないので、破綻を生じざるを得なくなる。そして「夏風邪」の復讐譚。女の底意地の悪さが如実に表れている。 一方、それと正反対に馬鹿だが愛らしいのが「ニワトリ」の晴子である。人に借りたものを返さない。それは、決して悪気があってのことではない。単純に忘れてしまうのだ。それで修復不可能なまでに人間関係を壊してしまうかといえば、そうでもないのである。愛嬌があるので、どこかで許してしまうのである。 天然ゆえに許される晴子と違って「ママ・ドント・クライ」の母親は、哀れさゆえに許される。結婚して子供を設け、その子供が高校生になった女には、母親としての役割しか残されていなかった。演歌歌手との握手の機会に恵まれた母は、家庭を顧みない「追っかけ」と化したのだった。女の残り火をそんな風にしか表現できない哀れである。 「ブラックティー」は都会に一人暮らしする貧しい女と洒落た薔薇の花の対比が哀しい。ペギーリーが歌うブラックコーヒーはこんな世界。 強い孤独に襲われて一睡も出来ない 部屋を歩き回ってはドアを見つめる そして飲むのはブラック・コーヒー 恋とは使い古しの箒のようなもの この部屋には日曜などやってこない ではブラックティーの世界は? 英国では、普通紅茶を「ブラックティー」と呼ぶ。ティーでもストレートティーでなく、ブラックティーである。ここにあるのは、英国の気取りである。そんな気取りを薔薇の世界に体現したのが、岡本勘次郎である。茶系の薔薇なんて、なんと渋いではないか。しかもティー系の香り、紅茶の高貴な世界そのものである。それだけに切り花としての人気の高いブラックティーは高価である。電車内の忘れ物を盗んで生計を立てる貧しい女と高貴な薔薇との対比が哀しい。
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(無題)
少し歯痒いでも誰でも犯すような罪と折り合いをつけて面白おかしく生きる術を教えてもらった。
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